「2024年問題」直撃で深刻なバス運転手不足…合同採用説明会で行われていた“争奪戦”の熾烈

AI要約

バス業界の人手不足による混乱が続く中、採用説明会では賃上げ合戦が展開され、休日出勤を要請する状況が浮き彫りになっている。

労働規制の強化やシフト管理の難しさなど、運転手不足がもたらす課題が明らかになっている。

バス業界は継続可能な法整備の必要性を訴える声もあり、混乱が続く中でも業務に取り組む現場の姿が描かれている。

「2024年問題」直撃で深刻なバス運転手不足…合同採用説明会で行われていた“争奪戦”の熾烈

【話題の現場 突撃ルポ】#16

 深刻な人手不足に悩むバス業界。「2024年問題」の影響でバス会社は減便などを迫られ、事業の継続が困難になった大阪府の「金剛バス」は路線バスを廃止した。業界は運転手を確保しようと必死になり、採用説明会が毎週のように開かれている。6月に都内某所で開かれた合同採用説明会に、日刊ゲンダイ記者が潜入した。

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 会場に入ると、100坪ほどのホールに30社以上のブースが、所狭しと並んでいた。どちらかといえば若者が少なく、中高年の求職者が多い印象だ。各社のブースには入れ代わり立ち代わり人が訪れ、賑わいを見せていた。

 記者が何げなく立ち寄ったのが、神奈川県西部などを中心にバスを運行する企業のブース。席に座るなり始まったのが、賃上げアピールだ。採用担当者は「業界は人手不足解消に本腰を入れており、春闘で結構な賃上げが達成されました。今は賃上げ合戦で、運転手の奪い合いさえ起きています」と言う。実際、会場では「給料〇%アップ!」といった張り紙があちこちに貼られ、賃金アップを猛烈にアピール。提示された初任給は、おおむね22万円程度だった。

■採用前から休日出勤を要請

 しかし、それでも運転手は足りていない様子。ブースで渡された1カ月の出勤表の例を見てみると、第1土曜日と第3土曜日が「休日出勤」と書いてあった。すかさず採用担当者が説明する。

「心苦しくはありますが、運転手の皆さんには休日出勤をお願いしています。採用する前からこんな話をするのもアレですが、そうでもしないと回らないんです。もちろん、休みの希望はできるだけ応えますし、時間外勤務手当が出ますので、稼ぐチャンスと思っていただければ……」

 1社のみならず、説明を聞いた6社全てが、休日出勤を要請していた。どこも人手不足だということを改めて実感した。

 今年4月から「働き方改革関連法」が適用され、これまで運転手が退勤してから次の出勤まで8時間空ければよかったが、労働規制の強化で基本11時間(最低9時間)空けなければならなくなった。運転手を働かせられない時間が増え、人のやりくりがよりシビアになった。あるバス会社のブースにいた運行管理者が、運転手のシフト組みなど労務管理の苦労をこう吐露した。

「人手が足りな過ぎるため運転手の労働時間の計算がより複雑になり、シフト表を組むのは難解なパズル状態。常に自転車操業なので、急な欠員が生じれば休みの人に片っ端から電話をかけるか、営業所で寝ている運転手をたたき起こして、交渉します。そのとき、出勤要請に応じてくれるかは運転手との人間関係がデカい。運転手に嫌われたらおしまいで、普段から『お疲れさまです』と缶コーヒーを渡すなど、機嫌を取ります。今は僕ら管理者の方が立場が弱いですね……(苦笑)」

 たとえ人手が足りていなくても、決められた本数のバスは必ず走らせなければならない。

「公共交通機関なので、運休という選択肢はよっぽどのことがない限りあり得ませんよ。『運転手がつかまりませんでした』じゃないんです。あの手この手でやるしかないんです」(前出の運行管理者)

 大混乱のバス業界。それでも、現場の人々は歯を食いしばり、業務にあたっている。

「バスは子どもや高齢者の大切な交通手段で、なくてはならない仕事です。やりがいは間違いなくあるのですが、それだけでやっていくのは限界があります。国は人手不足の窮状を静観しているのではなく、バス会社が持続可能な法整備をしてほしいですね」(前出の運行管理者)

 悲痛な声は、届くのか……。