ヤフオク7万円のシトロエン・オーナー、エンジン編集部ウエダ、シフトのノブを交換しようとしたら、中のロッドが折れていた!【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#42】

AI要約

フランス在住の部品メーカー代表と出会い、シフトノブの製作者についてのエピソード。

フランスで人気の車種や部品難民に対する対応についての会話。

シフトノブの交換作業中にロッドが折れ、部品を探す苦労と最終的な解決策。

ヤフオク7万円のシトロエン・オーナー、エンジン編集部ウエダ、シフトのノブを交換しようとしたら、中のロッドが折れていた!【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#42】

ヤフー・オークションで7万円のシトロエン・エグザンティアを手に入れ、10カ月と200万円かけて修復したエンジン編集部員ウエダの自腹散財リポート。今回は海外からの個人輸入で手に入れたシフトノブの製作者と出会ったことと、自分で交換しようとしたら、予想外のトラブルに見舞われてしまったことをご報告する。

◆フランス在住10年

都内某所の待ち合わせ場所へ約束の時間に向かうと、F.D.M.(Fujiwara Design & Manufacturing)の代表、藤原彰平さんから声を掛けられた。フランスの南、マルセイユとニースの中間くらいの港町イエールから、関西でのイベント参加や付き合いのあるショップなどを回って、上京したばかりだという。年に1度くらい、こうしてフランスから日本へやって来ているそうだ。

フランスで自動車パーツの販売や、3Dプリンターによる絶版部品のリプロダクトを行っている藤原さんは大阪出身で、自動車部品メーカー、光学機器メーカー、ソフトウェア会社を経て2014年に渡仏。6年ほどは会社員だったが、フランス在住のクルマ好きであることを活かし、2020年にF.D.M.を立ち上げたという。もともと日本にいた時もシトロエン2CVのオーナーだったそうだが、フランスで自分の愛車として最初に購入したのがエグザンティアで、現在は日本には未上陸だった5人乗りのC4ピカソと2CVのシトロエン2台持ちだ。

エグザンティアは一度はハイドローリック・シトロエンに乗りたい! ということで選んだそうで、水色の2000年モデルだった。1.8リットルのガソリン・エンジン仕様で、足まわりはシンプルなハイドロニューマチックという、フランスではごくベーシックなスペック。これに4年5万km乗って、2代目ニュー・ミニ(R56型)に乗り換えるも、やはりシトロエンの吸引力は強いのか、今は2010年型の1.6リットル・ディーゼルのC4ピカソと、435ccの1973年型2CV4に乗っている。

◆コロナ禍がきっかけ

3Dプリンターのリプロダクト品については、コロナ禍のロックダウン時にスタート。欧州向けの販売が主だったが、僕が購入したXMやエグザンティア用のシフトノブは例外的に日本でもよく売れているらしい。3Dプリンターについては独学だが、もともとCADソフトは使っていたのでさほど問題なかったそうだ。

ただし素材にどんなものを選ぶか、仕上げをどうするかなどは、造りながら学んでいった。住んでいるイエールは乾燥した気候で、湿度に弱い3Dプリンターの素材を扱うのにもいい土地だという。

僕が購入したシフトノブに関しては、やはり元オーナーらしく純正部品が廃盤で、多くのエグザンティアやXM乗りが探していることを知っていたようだ。そこでまずエグザンティアのチェンジ・レバーをユニットごと中古で購入し、試作を開始。量産後も1つ1つユニットに装着し、ちゃんと動作するか検品を行った後で発送している。

表面の仕上げについては、てっきり3Dプリンターによる積層素材そのものを磨いていると思っていたのだが、実際には整形後さらに塗装もしている。オリジナルに近しい革のしわを再現した表面の仕上げ方法は「企業秘密(笑)」だそうだ。オーダーは月に6個から7個と、コンスタントに売れている。

なおF.D.M.公式ホームページでも紹介されているが、在庫の部品だけでなく「あれはないだろうか」「これは見つからないだろうか」という日本のパーツ難民からの相談にも対応しているそうで、僕も何度かシートの生地について問い合わせをさせてもらったが、なかなか手こずることも多いようだ。

「以前オーダーがあったルノー・エクスプレスのリア・ハッチのヒンジ。三日月型のアームなんですが、これは苦労しましたね。オランダでようやく1つ見つけました」

エクスプレスのような古いクルマの部品はコンスタントに問い合わせや注文があるが、近年は比較的新しい日本にいる並行輸入車たちのパーツの相談も増えている。たとえばルノー・トラフィックや4代目のエスパス、3代目のセニック、モデュス、シトロエン・ネモなどなど。僕もそうだけど、F.D.M.はいまや趣味人たちの駆け込み寺になっているといえるだろう。

◆人気はスポーツ・モデル

フランスや欧州でいまどき人気のある車種はなんですか? と尋ねると、日本とほぼ同じで、ルノー・スポール系のモデルをはじめ、ヤングタイマーのルノー5 GTターボや5ターボ1と2、プジョー205GTIなどが注目を浴びており、シート生地やダッシュボードなど、再生産部品の動きもけっこうあるようだ。

そのほかには、オリジナルのアルピーヌA110や、後継のA310はあいかわらず高値安定だそうだ。新型が登場したA110はともかく、A310なんかは、まだ“新世紀エヴァンゲリオン”などアニメーションの影響もあるのだろうか……。

「A310も人気はあるんですが、それよりもプジョー504のカブリオレやクーペのほうが高価なんですよ」

プジョーは新しいモデルだと、504同様ピニンファリーナが手がけた406クーペは相場が安定しているらしい。個人的に興味があったのでA310以降のアルピーヌ(自然吸気のV6 GTやV6ターボ、ルマン、A610など)についても聞いてみたが、このあたりのモデルはとにかく部品がないことが知れ渡っており、中古相場は膠着状態なのだとか……。

なおエグザンティアに関しては、欧州では趣味性がほぼなく、完全にただの古い実用車扱いなので、部品がリプロダクトされることは皆無。フランスでも中古部品は、ものによってはなかなか捜索は大変らしい。おそらく今後も市場価格が上がる可能性はないそうだ(笑)。近代のハイドロ系シトロエンなら、XMの上位のV6搭載モデルや、エグザンティア・アクティバなら価値が出るかも……と彼はいう。

現在は為替も厳しいし、あくまで自動車部品が基本だが、今後は中古車そのものの輸出も検討しているという。おかげで僕は、南フランス近郊でいい中古車の出物がないか、ついついチェックしてしまっている。

◆シフトノブの中のロッドが折れた!

藤原さんからシフトノブを受け取ってから約1カ月後のゴールデンウィーク初日。ようやく時間ができたので、僕は自分でオリジナルからリプロダクト品への入れ替えをすることにした。4月頃からシフトの横にあるロック解除ボタンを押していても、なんだか操作時にひっかかる感じがしていたので、そのチェックも兼ねての作業である。

シフトブーツを下に引っ張って外し、隠れている2つのボルトを小さめのラチェット・レンチを使って緩めると、シフトノブはフリーになった。中にはロッドとロック解除ボタンと、スプリングが入っているので注意しながら取り外すと、カラカラとノブの中から音がする。これ以外に入っているものはないはずなのに何の音だ? ノブの中に剥がれた表皮でも紛れこんだのか? と思ってひっくり返すと、想像に反して出てきたのは光る小さな金属のかけらだった。

え!? なんでこんなものが出てくるの? と思ってむき出しになったロッドの先を見返すと、本来先端はT字型のはずなのに、ただの尖った棒になっている! おそるおそるかけらをそこに合わせてみると、見事にぴったり合った!! ロッドの先が折れたのだ!!!

内部の構造を再確認してみると、シフトノブ横のロック解除ボタンを押すことで先端のT字で引っかかっていたロッドが上に引き上げられる。その結果、シフトのワイヤー・ケーブルがフリーになり、PからRなどへも切り替えられるようになる。

一瞬、シフトロックが解除できなかったらエグザンティアが動かせない! とめちゃくちゃ焦ったのだが、ロッドそのものを手でつまんで引き上げると、ロックは解除できた。ただし慌てていたのか、最初は引き上げずに無理に動かしてしまったようで、ロッドそのものが少し曲がってしまった……。

おそらくもともとロッド先端が経年劣化で折れかけており、そのためシフトの操作がしにくかったのだろう。それにしても、どうしたものか。けっこう力が掛かるところなので、接着剤でくっつけるくらいではまた破損しそうである。

◆部品はないし、脱着も大変

仕方なくパーツ・リストをにらみ部品を捜索したが、当然こんなものが新品パーツとして売っているはずがない。しかもこのロッドは車体の下側からボルトでセンター・トンネルに固定されており、潜り込まないと取り外しは容易ではない。

ちょうどシトロエンXMオーナーのカメラマン、岡村智明さんとゴールデンウィーク明けに一緒に取材旅行をする予定だったので、打ち合わせの時に「ロッドが折れてしまって……」と事情を話したところ、ちょうど1台、部品取りのV6 3リットル搭載のオートマチックのXMがあるという。同じオートマチックで、ノブも共通だから、ロッドも同じかもしれない!

そこで横浜・都筑にある、彼のXMの主治医のひがし自動車さんに向かうと、すでにシフトノブは取り外され、ロッドがむき出しになった青いXMが保管されていた。リポート車と違い、T字の部分は健在だ。下の基部のほうは見えないが、ロッドはエグザンティアとそっくりに見える。これなら部品が合わなくとも、最悪ロッドの先端だけ接ぐことはできるのではないか……。

しかし部品取り車両ゆえに、このXMはハイドローリック・システムが不動で、見事なシャコタンになっていた。これでは床下に潜って、ロッドを外すことはそう簡単にはできない。

結局、この個体からのピックアップは断念。さらに岡村カメラマンのつてを頼り、最終的に青森県八戸市在住の漆坂良浩さんという、XMなど複数のフランス車を所有しているオーナーから中古のロッドを譲り受けることになった。

漆坂さんは1996年にXMを購入して以来、フランス車にどっぷりとハマってしまったひとで、初代C3と初代C4ピカソを普段使いしつつ、エグザンティアやXM、AX TRS、そしてプジョー205CTIを実家のある十和田市で保管している。今回はわざわざXMからロッドを摘出してくれたそうだ。

ひがし自動車の代表、東 亮仁(あきひろ)さんと漆坂さんには、この場を借りて再度御礼申し上げたい。

シトロエンXM用シフトのロッド(中古)     5000円

さて次回は、このロッド以外にもちらほらと補修作業が出てきたので、タイミングを会わせて入庫した2023年の梅雨時の模様をお届けする。

なお工場入りした翌日、想像はしていたが、リポート車の主治医のカークラフトから悲しい知らせが届いた……。

「エグザンティア、シフトのロッドを外してみたけど、青森から取り寄せたっていうXMのロッドと、形がぜんぜん違うぞ」

……さぁ、ここからはいよいよ購入直後以来の大規模修復のはじまりである。

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=上田純一郎(ENGINE編集部)/F.D.M. 取材協力=F.D.M./ひがし自動車/カークラフト

■CITROEN XANTIA V-SX

シトロエン・エグザンティアV-SX

購入価格 7万円(板金を含む2023年5月時点までの支払い総額は238万5922円)

導入時期 2021年6月

走行距離 17万4088km(購入時15万8970km)

(ENGINE WEBオリジナル)