伊豆・あさば、箱根・強羅花壇…憧れの高級旅館はどこが違う? 目指すは「一流の極み」

AI要約

ルレ・エ・シャトーは、世界の富裕層が高く評価する非営利の会員組織であり、上質な"おもてなし"と"食"を提供する家族経営のホテルとレストランに限られる。

日本の名旅館である「あさば」が加盟しているルレ・エ・シャトーは、歴史を重んじつつも革新を続け、美意識を大切にした空間と優れたサービスを提供している。

あさばにおける現代アートや日本家屋を取り入れた空間デザインは、浅羽一秀さんのセンスと哲学が息づいており、独自の魅力を持っている。

伊豆・あさば、箱根・強羅花壇…憧れの高級旅館はどこが違う? 目指すは「一流の極み」

名を連ねるのは、隠れ家のようなスモールラグジュアリーホテルや、地産地消の芳醇(ほうじゅん)な食を味わえるレストランのみ。個性的な旅の体験を求める世界の富裕層が高く評価する、よりすぐりの施設が加盟する非営利の会員組織がある。パリに本部を置くルレ・エ・シャトーだ。

1954年にフランスで発足し、厳格な審査によって選ばれた会員は上質な「おもてなし」と「食」を提供する家族経営のホテルとレストランに限られる。現在の加盟施設数は65カ国・地域の580件。うち日本は20件を数える。

加盟は「一流の証し」とされるルレ・エ・シャトー。では、その「一流」の定義とは何か。ルレ・エ・シャトーが追求する最上級の体験とはどういうものか。本稿では2回にわたってその本質を探り、組織が堅持する哲学を紹介したい。

前編では、日本でいち早く会員となった二大高級旅館、あさば(静岡県伊豆市)と強羅花壇(神奈川県箱根町)のおもてなしの進化ぶりを通して、一流の施設を磨き続ける自負のありかをうかがった。後編は2024年に70周年を迎えたルレ・エ・シャトーの会長にインタビューし、近年の具体的な取り組みについて語ってもらう。

静岡県伊豆修善寺に535年続く温泉宿「あさば」は日本屈指の名旅館として知られる。その美点をあえて端的に表現すれば、ゆとりと調和、といえるのではないだろうか。

木彫りの装飾も見事な唐破風屋根の堂々たる玄関。風に揺れる大きなのれんをくぐって館内に入ると、視界は一気に開放される。目の前には600坪(約2000平方メートル)の池が広がり、色鮮やかなニシキゴイが悠然と泳ぐ。

そして対岸には能舞台「月桂殿」が端然とした姿を横たえ、その存在は周囲の清らかな自然の中に溶け込んでいる。なんら破調のない景色を眺めていれば、時の流れは緩やかになり、心の角がとれていく。

客室は離れも含めて12室のみ。例えば竹林をのぞむ部屋「満天星(どうだん)」は、80平方メートルものゆったりとした広さで、和室に調和する低床のベッドや、部屋の食事を配膳するテーブルを備えている。床の間は、そのテーブルについた際の目線の高さに合わせて、しつらえを整えた。日本家屋の美しさを守りつつも、現代風の居心地を優先する機能を取り込む細やかさ。ここに和の居室における進化形が示されている。

あさばの空間のあちこちには、主人である浅羽一秀さんの美意識が息づいている。ロビーや1階のサロンにさりげなく飾られた現代アートは、浅羽さんが懇意にしている現代アーティスト、李禹煥(リー・ウーファン)氏や宮島達男氏らによるものだ。

池に臨むサロンは広々としたモダンな空間にイタリアの椅子が置かれ、アートブックを手にした宿泊客が思い思いにのんびりと過ごす。「古い空間に現代美術を取り合わせると、またその空間が生き生きとするんです」と浅羽さん。センスに裏打ちされた組み合わせの妙が、独特のくつろぎの空間を生み出している。

日本の施設で、会員として最も古い歴史を持つあさばがルレ・エ・シャトーに加盟したのは1988年のこと。浅羽さんは両親と欧州を訪ね、すでに会員に名を連ねていたホテルやレストランをいくつか巡り、そのレベルの高さを目の当たりにした。何よりも刺激を受けたのは料理のクオリティーの高さと、風呂や洗面といった水回りの完璧さだったという。