日本精神ここにあり…静かな人気 渋谷の「公衆トイレツアー」に同行した 「4K」覆す

AI要約

公衆トイレを探訪する渋谷区の観光ツアーが人気を集めている。俳優の役所広司さんが清掃員を演じた映画の舞台になったこともあり、参加者は300人を越えた。

ツアーでは有名建築家やデザイナーが設計した「アートなトイレ」9か所を回る。観光客の興味を引く斬新なデザインが多く、参加者から歓声が上がる。

外国人観光客が惹かれる一方で、日本人の関心も高い。トイレを通して日本の新たな魅力や生き方を感じることができる。

日本精神ここにあり…静かな人気 渋谷の「公衆トイレツアー」に同行した 「4K」覆す

公衆トイレを探訪する東京都渋谷区の観光ツアーが、国内の観光客だけでなく、外国人観光客(インバウンド)にも静かな人気を集めている。俳優の役所広司さんが清掃員を演じ、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した映画「PERFECT DAYS」の舞台になったこともあり、3月のスタート以降、参加者は300人を越えた。ある日のツアーに参加すると、トイレを通して日本の新たな魅力が見えてきた。

ツアーは所要約2時間。有名建築家やデザイナーが設計した「アートなトイレ」9か所を大型タクシーで回る。午前10時に集合場所に行くと、東京都八王子市在住で80代の田口多津子さん、香港から来た観光客のジム・チャンさん(36)が一緒だった。すでに気温は30度を超え、猛暑の太陽がぎらつくが、田口さんは「ずっと参加したかったの」と大はしゃぎだ。

最初に向かったのは世界的建築家、隈研吾さんが手がけた公園のトイレ。杉板で覆われ、童話に出てくる森小屋のような雰囲気を醸し出していた。爽やかな緑の中にいるような錯覚に陥る。15分で見学を終え、代々木八幡宮に向かった。キノコ型の3つの個室トイレが連なっていた。添乗員が日英2カ国語で「分立することで通気性が高まり、見通しもよくなります。『誰かが潜んでいるのでは』と怖がらずに済むでしょう」と説明してくれた。

参加者が歓声をあげたのは、建築家、坂茂さんが手がけた「透明トイレ」だった。カギを閉めると、色ガラスの外壁が曇って中が見えなくなる。チャンさんは「僕、これが見たかった。香港にも同じものがあればよいのに」と喜び、何枚も写真を撮った。ほかにも半球形、野外劇場のような前庭付きなど個性派が続く。「汚い、臭い、暗い、怖い」という公衆トイレの「4K」イメージが吹き飛ぶ。

ツアーは渋谷区観光協会と、タクシーの相乗りサービスなどを手がけるNearMe(ニアミー、本社・東京都)が共同で企画した。当初は外国人の訪日客を見込んだが、同社の担当者は「日本人の関心が非常に高かった。参加者の割合は外国人、日本人で半々です」と説明した。

チャンさんは毎年、日本を観光や買い物で訪れている。今回は9日間の滞在で2度トイレツアーに参加する。役所さんが映画で演じた主人公の生き方にひかれたからだという。便器を磨き、仲間を助け、仕事後の一杯を楽しむ清掃員だ。「同じ毎日の繰り返しを通じて、人生で何を愛するべきかを教えてくれる。とても日本的だと思った。トイレは『きれいならOK』と思っていたが、ここでは新しい表現の場になっている。行ってみたくてツアーを探したのです」と話した。いずれ、トイレの夜景を見に来たいという。