「NHK朝ドラに共感の声 “威張っている人間”は例外なく嫌われている」稲垣えみ子

AI要約

稲垣えみ子さんが元朝日新聞記者としての経験から、ジェンダーギャップや威張りたいという考えについて考察する。

女性が低い位置にいることで得られる既得特権や男性の優越感について指摘し、それが実は間違いであり嫌われていることに気づく。

組織を離れ自らを客観的に見つめ、威張ることの無意味さとリスクについて述べる。

「NHK朝ドラに共感の声 “威張っている人間”は例外なく嫌われている」稲垣えみ子

 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 NHKの朝ドラが女性の間でやたら盛り上がっているが、テレビがないので輪に入れない私。でも差別と闘う登場人物への共感の声を聞くにつけ、差別が差別という認識もなく「常識」として蔓延している中をゲリラ戦で姑息に生き抜いてきた人間としては、「おかしい」と皆が普通に声を上げられるだけでも時代は変わったと思うのである。

 とはいえ日本のジェンダーギャップは今年も世界118位と低位置が指定席。一体なぜこうも変わらんのかという嘆きの声も恒例行事。

 原因はもちろん色々だろうが、個人的経験から想像するに、それは結局のところ、決して口には出さぬものの、本音では女性が低位置にいた方が「おいしい」と考えている男性が圧倒的に多いせいだと思っている。だってその方が、身の回りの世話はタダで焼いてもらえるし、ライバルの存在は半分になるし、自分が世に認められていないと悩む事態になっても「少なくとも自分、オトコだし」とプライドを保つことも可。そりゃ取り上げられたくない既得特権だよね。

 だが冷静に考えると、これって一言で言えば「威張りたい」ってことだ。人に命令したり見下したり、怒鳴りつけたりできる人間が上であり幸せなんだと。確かに当然そうであるように思えるし、私もかつては何となくそう思っていた。でも今、組織を離れフラットに周囲を観察していると、それってもう本当に救いがたくとことんスットコドッコイな間違いということに気づかざるを得ない。

 威張っている人間はただ1人の例外もなく、全員から嫌われている。一昔前は、家父長制やら高度成長やらで、便宜上そのような権力的人間が面従腹背されてきただけのことで、その全てが溶けてしまった今、威張ることはリスク100%でしかない。なのにそうと気づかず、必死に人より上であろうとして自ら孤独の穴にズボッと落ちている男性の多さと言ったら! この深刻に滑稽な勘違いの温存は、全くもって誰の利益にもなっていないのである。

いながき・えみこ◆1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。著書に『アフロ記者』『一人飲みで生きていく』『老後とピアノ』など。最新刊は『家事か地獄か』(マガジンハウス)。

※AERA 2024年7月15日号