【小説家・柚木麻子さん】シワがあるってカッコいい。お母さんはレズビアン。『マリはすてきじゃない魔女』で、価値観がアップデートされた今の子どものための児童書を書いた意味。

AI要約

柚木麻子さんが初めて児童書『マリはすてきじゃない魔女』を出版した経緯と、執筆にあたっての思いを語る。

児童書を書くきっかけや、ドイツでの体験から得たインスピレーションについて述べる。

日本と海外の児童書の違いや、自身が抱く子どもたちへの伝えたいメッセージについて話す。

【小説家・柚木麻子さん】シワがあるってカッコいい。お母さんはレズビアン。『マリはすてきじゃない魔女』で、価値観がアップデートされた今の子どものための児童書を書いた意味。

『ナイルパーチの女子会』『ランチのアッコちゃん』など、さまざまな作品が映像化され、現在は『あいにくあんたのためじゃない』が直木賞にノミネートされている、小説家の柚木麻子さん(2024年6月現在)。昨年12月、自身初となる児童書『マリはすてきじゃない魔女』を出版されました。その物語は、次世代の子どもたちに触れてほしいテーマがいっぱい。前編では、児童書を書くことになったきっかけや、登場人物への想いなどについてお聞きしました。

■あらすじ

“主人公のマリは、食いしんぼうでおしゃれが大好きな魔女の女の子。自分のことが大好きで、人からどう思われるかは気にしていません。しかし、魔女と人間が共に暮らすこの町では、魔女は人間の役に立つ、すてきな存在でいることを期待されています。

そんなある日、マリの住む町に大きなピンチが訪れます…。”

―児童書を書こうと思ったきっかけは何でしょうか。

柚木 2年ほど前、エトセトラブックスさんから、「今の子どもに向けた児童書を書いて欲しい」というお話をいただきました。エトセトラブックスさんは、ジェンダーやセクシャルマイノリティの権利について、最新の本だけでなく昔の本も取り扱っているのですが、自分が子どもの頃に読んでいた物語を改めて読んでみると、「若草物語ってフェミニズム文学だな」とか「ムーミンシリーズはマイノリティのメッセージが込められるな」と気づかされるんです。じゃあ私が今、子どもたちに向けて何を伝える?ということを意識しながら、書き始めました。

柚木 執筆期間中に、仕事でドイツに行く機会があったのですが、ドイツは子連れに協力的な人が多かったり、主要な鉄道がLGBTQの当事者に寄り添うメッセージを打ち出していたりと、学ぶべき点がたくさんあって。

書店を訪れてみると、LGBTQに関する児童書も数多く並んでいました。日本で見るこれらの児童書は、「LGBTQについて学ぼう」「いじめにあっている当事者を救おう」というものが多い印象ですが、ドイツのものはジェンダーを学ぶことが本題ではないんですね。ふたりパパの家族が海水浴に行く話や、ふたりパパの家のバースデーなど、ひとつの要素でしかないんです。ティーン向けのライトノベルでも、セクシャルマイノリティの主人公が登場する話が、カラフルな棚にいくつも並んでいて。こういう本がたくさんあるっていいなと感じて、その経験をゲラに反映しながら物語を構成していきました。