「常に尿がもれる」状態などから診断される、先天性の疾患。幼少期に気づいてあげたい【ママ泌尿器科医】

AI要約

40代の女性が幼少期から尿もれに悩んでいたが、異常が見過ごされた先天性の尿管異常が原因であることが判明。

適切な診断と治療が遅れたことで、彼女の人間関係や社会生活にマイナスな影響が及んだ可能性がある。

医療の進歩により専門分野が細分化する中、医師は専門外の領域について正直に自己認識し、適切な専門家への紹介を行うべきである。

「常に尿がもれる」状態などから診断される、先天性の疾患。幼少期に気づいてあげたい【ママ泌尿器科医】

男の子と女の子2人のママであり、泌尿器科医である岡田百合香先生の連載。今回は尿管に先天性の異常があることに気づかずに大人になってしまったケースから、子どもの排せつに関するサポートの大切さと医療への適切なアクセスについてて考えます。「お母さん・お父さんのためのおちんちん講座」ママ泌尿器科医#48です。

病院で診察をしていると、「実は子どものころから」「かなり若いときから」症状があったのだという方に時々出会います。

とくに印象的だったのは、「常に少量の尿がもれる」という40代の女性です。物心ついたころから尿もれがあり、子どものころに一度保護者と病院を受診したけれども、「とくに異常はない」と言われ、そのままになってしまったそうです。

検査の結果「異所性尿管」という尿管の先天異常がありました。本来であれば膀胱につながるはずの尿管が腟とつながってしまているため、常に腟から尿がもれる状態になります。原因さえわかれば手術による治療が可能で、その女性も無事手術によって尿もれはなくなりました。

しかし、思春期や若い年代を常に原因不明の尿もれとともに過ごさざるを得なかったことは、彼女の人間関係や社会生活にネガティブな影響を与えたのではないかと想像します。

子どものころ、せめて思春期前までに適切な診断が下され治療につながっていれば…、と思わずにはいられません。

だからといって、本人や保護者を責めるのは違います。子どものころにちゃんと病院を受診しているわけで、医療に精通していない人が医師から「異常はない」と言われたら、その診断を疑うのは難しいことだと思います。

子どもも年齢が上がるにつれて保護者に排せつのことを相談するハードルが高くなり、子どもが排せつのことで悩んでいるのか否かを把握すること自体が難しくなってしまいます。思春期以降、性や排せつに関する受診が羞恥心によってためらわれるのは当然のことです。

それでは医師に問題があったのでしょうか。彼女の「異所性尿管」という病気は泌尿器を専門とする医師にとっては「尿が常にもれる」という症状に対して容易に浮かぶ病気ですが、泌尿器科以外の医師にとってはなじみが薄い病気です。また、この病気を診断するには総合病院レベルの設備が必要です。

なので、幼少期の彼女と保護者が受診したのが泌尿器科疾患に詳しくない医師であった場合、尿検査やエコーのみで「異常なし」と判断されてしまう可能性は考えられます。

とはいえ、基本的な検査の結果に異常がなかったからといって病気がないとは限りません。患者さんの症状が改善しないのであれば、医師はその領域の専門家がいる病院に紹介するべきだったと思います。

医療の進歩のスピードは目覚ましく、専門領域の細分化も進んでいます。自分の専門外の領域にはどんどんうとくなっていくからこそ、わからないことは「わからない」と正直に伝え、わかる専門家へつなぐ勇気と責任が必要だ、と自戒をこめて感じています。