「みりん」日本酒に手が届かない庶民のアルコール飲料だった…世界的ソムリエ「癖の強いチーズと合う」

AI要約

みりんを「和酒」として飲んで味わう――。日本酒「万齢」で知られる小松酒造が、驚きの飲むみりん『のみりんこ』を製造し、日本酒の歴史や魅力について語る。

15年の入社時に困難な商品『のみりんこ』を手掛けた高崎真さん。調味料としてしか使われなかったみりんを「和酒」として位置付け、新しい価値を見出す。

甘い風味や味わい、独自の製法や熟成にこだわる『のみりんこ』。売れ行きの低迷から転機を迎え、日本酒業界で注目を浴びるチーズとの相性を生かして市場を広げていく。

 みりんを「和酒」として飲んで味わう――。日本酒「万齢」で知られる小松酒造(佐賀県唐津市相知町)は、そんなユニークな商品を製造している。国内外への普及に取り組み、5月には佐賀県の「世界に翔びたて佐賀ものづくりびと表彰」で受賞者の一人に選ばれた製造主任の高崎真さん(32)に、醸造文化の魅力を尋ねた。(喜多孝幸)

 ――飲むみりん、とは驚かされる。

 「商品名は『のみりんこ』(720ミリ・リットル税抜き1600円など)という。私が入社する前の2012年に小松酒造が発売した。調べる限り、日本初の『飲むことに特化したみりん』だ。アルコール度数13度で、常温保存できる」

 ――日本人はみりんを飲んでいたのか。

 「室町時代後期に庶民が飲んで楽しむものとして発明されたと言われている。日本酒に手が届かない層にとっては貴重な甘いアルコール飲料だった。江戸時代中期に料理にも使われるようになり、明治時代にはもっぱら調味料としての用途に限られてしまった」

 ――この商品になぜ魅せられたのか。

 「15年5月の入社時の面接の際、社長から『売れなくて困っている商品があるんだよ』と相談された。それが『のみりんこ』だった。みりんを『和酒』と位置づけて製造したが、開発した側の思いは世間に伝わっていなかった」

 「飲んでみると、カラメルに近い風味を感じた。それまでに洋菓子店でパティシエとして働いた経験があり、洋酒とは異なる唯一無二の風味と味で『他に替えられない酒だ』と確信した」

 「もち米、米こうじ、本格焼酎の三つだけでつくる、実にぜいたくな商品でもある。濾過も加熱もせず、3年以上熟成させないと出荷できない。その製法にも価値があると思った」

 ――だが、売れなかった。

 「販路を思いつかなかった。バーでカクテル用の『割りもの』として売り込んでみたが、『みりんねぇ』と評価は低かった」

 「転機は19年、佐賀市で日本酒業界向けに開かれた世界的ソムリエ田崎真也さんのセミナーだった。田崎さんに『どうしたら売れますか』と相談した。すると、『みりんには元々ブドウ糖の甘さがあるから、癖の強いチーズと合わせるのがいい』とアドバイスされた。バーの経営者にその助言を伝えると納得してくれて、扱ってもらえるようになった」