戦中に実弾暴発し16人死亡した弾薬庫跡が芸術の拠点に…「絶望や沈黙、慰霊の思いを作品に込め」

AI要約

大分県佐伯市にある丹賀砲台園地は、軍事都市として発展した歴史があり、芸術の拠点として注目されるようになっている。

美術家の藤井光さんの個展「終戦の日/WAR IS OVER」では、戦争の終結にかける感情を表現した作品が展示されている。

園地には軍事遺跡や戦争の影が残り、慰霊の場としても利用されている。

 豊かな自然や城下町の風情が残る大分県佐伯市は、軍事都市として発展した歴史があり、現在も市内に多くの戦争遺跡が残る。佐伯湾に面した岬にある「丹賀砲台園地」もその一つだ。戦中、訓練中に実弾が暴発し、16人が死亡したこの場所は近年、芸術の拠点として注目されるようになった。

 園地にある山の斜面に掘られた地下弾薬庫の通路を進むと、巨大な空間に高さ2・6メートルほどのスクリーンが三つ現れ、老若男女や他国にルーツを持つ人らが感情をたかぶらせて涙を流す様子や、悲しみに暮れる姿を映し出していた。

 美術家で映画監督の藤井光さん(47)の個展「終戦の日/WAR IS OVER」の作品だ。公募で集まった佐伯市民らが、79年前に迎えた「終戦の日」に、言葉にならない感情がこみ上げたであろう人々の姿を演じた。

 戦争や震災といった社会課題を投影する映像作品を生み出してきた藤井さんは「8月15日は『終戦の日』とされているが、世界を見ると戦争はまだ終わっていない」とし、「(園地は)事故で亡くなった人がいる場所であり、弔いの場所でもある。死者に敬意を抱きつつ、絶望や沈黙、慰霊の思いを作品に込めた」と語った。

 園地には戦前、豊後水道の防備のためワシントン海軍軍縮条約(1922年)で解体された巡洋艦「伊吹」の30センチカノン砲(砲身約14メートル)が設置されたという。しかし1942年1月11日、実弾訓練で砲塔内の砲弾が爆発。軍人ら16人が死亡した。現在は弾薬庫の他、砲塔が埋められていた最大直径約10メートル、深さ約12メートルの筒状の巨大な穴が残る。風化防止のために穴の上部にドームが造られ、上部に上るためのらせん階段も設置されている。

 園地は2020年、コロナ禍で発表の機会を失った芸術家の活動を支援しようと、県がアートイベントを開いたことで注目されるようになった。その後も芸術の舞台として度々、慰霊の気持ちを込めた作品展の会場になるようになった。