紅麹被害、事件化に壁 小林製薬に「具体的な危険認識」はあったか

AI要約

小林製薬の紅麹サプリメントを巡る健康被害問題で、摂取と被害との因果関係が明らかになりつつある。厚生労働省はラットを使った実験で、サプリ原料から検出された青カビ由来のプベルル酸が腎臓に悪影響を及ぼすことを確認した。

先月29日時点で摂取者5人が死亡、延べ284人が入院を余儀なくされた。大半の患者が、尿細管の機能が低下する「ファンコニー症候群」を発症。因果関係が特定されれば刑事責任追及の動きも考えられる。

対応の遅れが被害拡大を招いたと批判されているが、刑事責任追及が困難な理由も存在する。食品や薬品の健康問題においては業務上過失致死傷罪が適用される可能性があるが、具体的な予見可能性が必要なようだ。

紅麹被害、事件化に壁 小林製薬に「具体的な危険認識」はあったか

小林製薬の紅麹(べにこうじ)サプリメントを巡る健康被害問題で、摂取と被害との因果関係が明らかになりつつある。厚生労働省はラットを使った実験で、サプリ原料から検出された青カビ由来のプベルル酸が腎臓に悪影響を及ぼすことを確認した。今後因果関係が特定されれば、次に焦点となるのは刑事責任追及の動き。警察当局が捜査に乗り出す可能性はあるものの、専門家の間では「立件は困難」との見方が強い。

先月29日時点で摂取者5人が死亡、延べ284人が入院を余儀なくされた。大半の患者が、尿細管の機能が低下する「ファンコニー症候群」を発症。ラットの実験でも尿細管の壊死(えし)が見られ、サプリに含まれていたプベルル酸が原因物質だった疑いが強まっている。

食品や薬品の健康被害問題では、業務上過失致死傷罪の適用が検討される。同罪成立の要件となるのが、被害発生の「予見可能性」があったかどうかだ。

小林製薬は今年1月、サプリ摂取者が腎疾患を発症したケースを初めて把握。その後、医療機関から同様の報告が相次ぐ中、出荷停止と自主回収を公表したのは3月下旬になってからだった。対応の遅れが被害拡大を招いたと批判されている。

ただ、仮に経営陣に「紅麹サプリが原因かもしれない」との認識があったとしても、それをもって「予見できた」とするのは難しい。甲南大の園田寿名誉教授(刑法)は「抽象的で漠然とした予見可能性で足りるとすると、例えばほとんどの食中毒で刑事責任が問われることになってしまう」と解説。刑法上要求されるのは、具体的な予見可能性だと指摘する。

今回の問題でいえば、製造過程でのカビ毒の混入可能性、摂取すれば腎疾患を発症するという因果の流れを予見できていたかどうかがカギ。小林製薬は会見などで「因果関係は分からない」「未知の成分」と繰り返しており、説明が事実なら具体的な予見可能性は認められないことになる。

漠然とした危険の認識で過失を認めると、一定のリスクがある創薬や最先端医療など科学技術の進歩を阻むことにもなりかねない。「過失責任を問うのは非常にハードルが高く、裁判所も厳格に判断する立場をとっている」と園田氏。当局が捜査を始めた場合、同社製品で類似事例が過去にも起きていたなど、具体的予見可能性を裏付けるような事実の有無がポイントになるとみる。

■経営陣は不起訴…相次ぐ