クスリを大幅に減らせることもある…ついに「科学」が認めた「鍼治療」のスゴすぎる効果

AI要約

東洋医学の鍼灸や漢方薬の効果に注目が集まっている。痛みやうつ病などの様々な症状に効果を示し、そのメカニズムには血流改善や脳への影響が関わっている。

鍼灸治療は痛みだけでなく、様々な症状の改善にも効果があり、例えばうつ病の症状や認知症の前段階の気分の落ち込みにも良い影響を与えることが示されている。

東洋医学のアプローチは病気が明確でなくても効果があり、養生の考え方を大切にしているため、体調が少し悪いと感じる場合でも気軽に利用できる。

クスリを大幅に減らせることもある…ついに「科学」が認めた「鍼治療」のスゴすぎる効果

 鍼灸や漢方薬などの「東洋医学」に世界中から熱い視線が注がれている。慢性的な痛み、うつ病……多くの症状に驚きの効果を発揮するというのだ。研究の最前線を追った。

 【前編】「50代の医学者が仰天、「鍼を使った治療」で「首の痛み」がみるみる消えた…その驚きの効果」の記事では、ツボへの刺激は「痛みを抑える」という効果をもつことを解説した。では、それはどのようなメカニズムで効くのか。

 ツボへの刺激が痛みを緩和するメカニズムには、大きく分けて2種類ある。伊藤氏が続ける。

 「一つは、痛みが出ている患部のツボを直接刺激するケース。この場合、刺激に体が反応して血管が広がり、血流がよくなって老廃物が流され、痛みが改善するというしくみで効果が出ます。鍼を刺した場所の周辺が赤くなる『フレア現象』というものがありますが、これは血流改善の証です。

 もう一つは、患部から離れた手足のツボを刺激する場合。これは脳に影響を与えます。ツボへの刺激が神経を通って脳に伝わり、脳が活性化され、『オピオイド』と呼ばれる鎮痛物質などが分泌されるのです。

 たとえば、ぎっくり腰をやって1年経ってもまだ痛いという患者さんは、だいたい患部の損傷は治っているにもかかわらず、脳や神経が原因で痛みが続いている。こうした慢性化した痛みには、脳に影響を及ぼす鍼の刺激が効果的なのです」

 ほかにも、慢性頭痛に苦しんでいた30代の女性が、週に2回の鍼灸治療とツボ押しのセルフケアによって1ヵ月ほどで症状が大きく改善したという例がある。

 こうした効果は「減薬」にもつながる。

 「私たちの研究では、『リリカ』という疼痛治療剤を飲んでいる方に、鍼治療を週に1回、合計で5回続けることで、服用量を約50%減らすことができました」(伊藤氏)

 ツボ刺激の効果が出るのは「痛み」だけではない。メンタルに関わる症状を改善するのにも大きな力をもっている。

 「ある70代の男性の患者さんは、認知症の前段階としてしばしば見られるうつ病に近い気分の落ち込みの症状に苦しんでおられました。しかしこの方は、鍼の治療を受けることで症状が大きく改善したのです。鍼灸は、脳の中心部にある『延髄大縫線核』という部位を活性化させ、うつ病の治療に効果のある『セロトニン』の分泌を増やすことがわかっています。

 認知症の前段階としての気分の落ち込みは、認知機能の低下を早めるとされます。鍼灸にはそれを食い止める働きもあると見られます」(同前)

 今回取材した鍼灸師たちはツボの刺激によって、ほかにも、尿漏れ、耳鳴りなどに悩む人たちの症状を改善してきた。こうした効果には、ツボの刺激が自律神経に与える影響が関わっているという。

 明確な病気ではないが、どことなく調子が悪いという人にとって、東洋医学は気軽に頼れる心強い味方だ。伊藤氏が言う。

 「東洋医学は体の状態が決定的に悪くなる前にケアをする『養生』という考え方を大切にしており、病名がつかない状態でも治療を始めることができます。鍼灸師に相談してみてください」

 「週刊現代」2024年6月1日号より