移植用肝臓の保存時間延長、長崎大などが保存液循環させる臨床研究計画…治療態勢の強化期待

AI要約

長崎大学の研究チームが、摘出した肝臓に酸素を含んだ保存液を循環させる臨床研究を計画している。この技術は移植用肝臓の保存時間を延長し、移植施設の逼迫を改善する可能性がある。

機械灌流装置を使用することで、肝臓の保存時間が延び、臓器の状態が向上する。この装置は、機能の向上と管理の容易性を両立している。

国内外で機械灌流技術が普及しており、臨床研究を経て日本でも普及が期待される。導入に向けて費用面の課題も検討されている。

 摘出した肝臓に酸素などが含まれた保存液を装置で循環させ、患者に移植する臨床研究を、長崎大などの研究チームが来年にも計画していることがわかった。移植用肝臓の保存時間を延長できるメリットがある。本紙の報道で、移植施設が逼迫(ひっぱく)し、臓器受け入れを断念するケースが相次いでいることが判明しているが、この技術が実用化されれば、治療態勢の強化につながると期待される。

 脳死者から摘出した臓器は、保存液に浸し、氷入りのクーラーボックスに入れて搬送している。それでも、臓器を体から取り出しておける時間は、心臓で4時間、肺で8時間、肝臓で12時間に限られている。

 その結果、移植施設に相次いで臓器の受け入れ要請があっても、限られた時間で人員や病床を用意できず、受け入れを断念するケースが増えている。

 同大や機械メーカーSCREENホールディングス(京都市)などは、摘出した肝臓の血管にチューブをつなぎ、保存液を循環させる独自の「機械灌流(かんりゅう)装置」を開発。低温下で臓器に酸素や栄養を与え続けることで、臓器の保存時間を数時間延ばせるほか、機能の向上も見込めるという。

 臨床研究では、同大病院の肝臓移植手術の前に、保存液を最長3時間循環させ、移植後の安全性や効果を検証する。臨床研究の成果を踏まえ、医療機器としての承認申請を目指すという。

 海外ではすでに機械灌流技術が普及している。オランダでは肝臓に保存液を9時間ほど循環させる例があり、手術時間の調整や臓器の状態の確認に利用されている。今回開発した装置は複雑な操作がいらず比較的管理が容易で、チームの代表を務める同大の曽山明彦准教授(移植・消化器外科学)は「より長時間の臓器保存が可能になれば、深夜に行われる移植手術を翌朝に延ばすなど現場の負担軽減も期待できる」と話している。

 日本では2022年、腎臓の機械灌流装置が厚生労働省から承認されたが、費用面の課題などから普及が遅れている。肺でも一部の施設で数例試された段階にとどまっている。機械灌流に詳しい旭川医大の松野直徒(なおと)特任教授(移植外科学)は「逼迫する移植医療の突破口となりうる技術で、日本も導入に向けて真剣に取り組むべきだ」と指摘する。