NetSuiteが年次イベントで見せた“オラクルとの関係深化とシナジー”

AI要約

米国で開催されたOracle NetSuite SuiteWorld 2024で、NetSuiteの新機能や新サービスが発表された。

NetSuiteは独立性を維持しつつ、オラクルとの関係を深め、成長企業向けのクラウドERPとして進化を遂げている。

AIや生成AI機能の拡充、ユーザーエクスペリエンスの向上など、オラクル流の取り込みが進められている。

NetSuiteが年次イベントで見せた“オラクルとの関係深化とシナジー”

米オラクルのクラウドERP部門であるNetSuiteが、米国で年次イベント「Oracle NetSuite SuiteWorld 2024」を開催した。会期中には数多くの新機能や新サービスが発表されたが、そこからは、NetSuiteとしての独立性は引き続き維持しながらも、オラクルとの関係を深め、シナジーを高めていこうとする進化の方向性が感じられる。

 米オラクルのクラウドERP部門であるNetSuiteが、2024年9月9日から12日にかけて、米国ラスベガスで年次イベント「Oracle NetSuite SuiteWorld 2024」を開催した。

 

 イベント基調講演では、NetSuiteの創業者でEVPを務めるエバン・ゴールドバーグ(Evan Goldberg)氏が、「あらゆるシステムの成長に備えよう(Get ready for All Systems Grow.)」というテーマで基調講演を行い、さまざまな新サービスや新機能を発表した。

 

“成長企業”のためのクラウドERPとして、オラクルでも独自性保つNetSuite

 1998年に創業し、今年で創業26周年を迎えたNetSuiteは、“成長企業”(=中堅中小企業)向けのクラウドERPベンダーだ。現在、グローバルで4万社以上の顧客企業を持つ。

 

 2016年にはオラクルが買収し、現在はオラクルの一事業部門となっているが、独立したNetSuiteブランドでビジネスを展開している。メインターゲットが中堅中小企業層(SMB層)であり、オラクルが別途サービス展開しているエンタープライズ(大手企業)向けのクラウドERP「Oracle Fusion Cloud ERP」とは位置づけが異なるためだ。

 

 ただし、クラウドERPのサービス提供基盤としてオラクルの「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を採用している点はFusion Cloud ERPと同じだ。現在は、東京を含む世界17リージョン/36のOCIデータセンターからサービスを提供している。

 

 NetSuiteが、同社の顧客層をSMBではなく“成長企業”と表現するのは、企業の成長段階に合わせた機能やサービスを提供することで、急速な成長を後押しできるという自負からだ。たとえば、ビジネスの成長に伴ってグローバル展開を進めている企業からは、NetSuite ERPが20以上の言語、190カ国以上の通貨、さらに数十カ国の会計制度に対応しており、障壁が少ない点が評価されているという。

 

 基調講演のなかでゴールドバーグ氏は、世界の未上場クラウド企業トップ100社を選出する「Forbes Cloud 100」リストの最新版(2024年版)において、NetSuiteの顧客企業が83社を占めたことを紹介した。

 

 さらに、こうした成長企業のERPに求められる要件、そしてNetSuiteが目指す製品進化の方向性について、「自然なUXを通じた業務の拡張」「ビジネスに対する包括的な視点」「効率的な成長のための自動化」「コラボレーティブなエコシステム」の4点にまとめた。

 

AI、アナリティクス、UI/UXの新発表に見られる“オラクル流”の取り込み

 今回のSuiteWorldは、ラスベガスの現地会場とオンラインとのハイブリッドで開催され、現地会場にはおよそ7500人の参加者が集まった。ゴールドバーグ氏によると、これは過去最大規模の参加者数だという。

 

 会期中にはAI機能の拡大/強化をはじめ、数多くの新機能や新サービスが発表された。それらの全体を俯瞰すると、NetSuiteとしての独立性は引き続き維持しながらも、オラクルとの関係を深め、シナジーを高めていこうとする進化の方向性が感じられる。

 

 たとえば、昨年のSuiteWorldで新製品として発表された経営管理ソリューション「NetSuite Enterprise Performance Management(EPM)」は、Fusion CloudのEPMをベースに構築され、NetSuiteに統合されたものだ。同様に、クラウドDWH/分析ソリューションの「NetSuite Analytics Warehouse」も、Fusion Cloudの「Oracle Analytics Cloud」や、クラウドDWH「Oracle Autonomous Data Warehouse」を基盤として、NetSuiteユーザー向けに開発されている。

 

 また今回は、自然言語を使って生成AIにレポート作成を指示したり、インサイトを尋ねたりできる「NetSuite SuiteAnalytics Assistant」など、AI/生成AI関連の新機能も多く発表された(詳しくは後述する)。

 

 生成AIエンジンの活用において、外部サービス(サードパーティ)との連携ではなく「OCI Generative AIサービス」が利用できることで、データのセキュリティやガバナンスにおけるメリットがあると、日本オラクル VP NetSuite事業統括 日本代表 カントリーマネージャーの渋谷由貴氏は語った。

 

 「付け加えると、NetSuiteがOCIに載っていることで、価格(コスト)面での優位性も生まれる。競合他社のように外部サービスを利用してSaaSにAI機能を追加するならば、その追加コストをお客様に負担していただくことになる。NetSuiteの場合はそこを心配しなくてよいのが大きな強みだ」(渋谷氏)

 

 さらに、ユーザーエクスペリエンス(UX)にも“オラクル流”を取り入れることが発表されている。オラクルが開発したアプリケーションデザイン技法「Oracle Redwood Design System」をすべてのNetSuite製品に取り入れ、ユーザーの生産性向上を図っていく方針だ。

 

 ゴールドバーグ氏の基調講演には、オラクルでUXデザイン担当SVPを務めるヒレル・クーパーマン氏が登場した。クーパーマン氏との対談に比較的長い時間を割き、UX/UIの重要性を強調した理由について、ゴールドバーグ氏は「長年にわたってERPは“とても使いづらい”システムだった。NetSuiteでも改善に取り組んできたが、オラクルのRedwoodを取り入れることで飛躍的な改善につながるだろう」と期待を述べた。

 

 もっとも、こうした動きは“NetSuite ERPをOracle Fusion Cloudと同じモノに近づける”ことを目指しているわけではない。ゴールドバーグ氏は、オラクルが持つ幅広い製品やテクノロジーを、NetSuiteユーザーに適したかたちに“仕立て直して”提供する方針であることを強調したうえで、次のように述べた。

 

 「さまざまなレイヤーにおけるオラクルとの協力関係は、NetSuiteの顧客に大きな可能性をもたらす。そしてすでに、アナリティクス、AI、ユーザーエクスペリエンスなどではすばらしい成果をもらたしている。今後もこの協力関係が続くことで、さらにすばらしいテクノロジーをNetSuiteの顧客に提供することができるはずだ」(ゴールドバーグ氏)

 

生成AI関連の新機能が続々登場

 オラクル自身のFusiton Cloud ERPや他社のERPと同じように、NetSuiteでもアプリケーションにAI/生成AI機能を組み込んで提供する製品戦略をとっている。今回の発表でも、AI/生成AI関連の機能追加/強化が多く目立った。

 

 「今回の新発表であえて1つ、お気に入りを挙げるとすれば?」というメディアの質問に、ゴールドバーグ氏が悩みながら選んだのが「Ask Oracle」機能だ。グローバル検索ボックスに統合されており、NetSuite上のあらゆるデータを使ってユーザーの質問に答えるという。質問を続けてインサイトを深掘りすることも可能だ。

 

 より詳細なインサイトについては、前出のNetSuite SuiteAnalytics Assistantも活用できる。基調講演のライブデモでは、「この商品への需要が20%アップした場合、いくつ発注すればよいか?」といった質問に対して、生成AIが在庫のシミュレーションを行い、グラフを予測値に書き換えながら回答する様子が披露された。

 

 ほかにも今回は、LLMに与えるプロンプトのテンプレートを作成して生成AIの応答形式やトーン(口調)、創造性を調整する「NetSuite Prompt Studio」、拡張機能を開発/カスタマイズする際に生成AI機能を組み込める「Generative AI for SuiteScript API」、SuiteScript開発時のコーディングを生成AIが支援する「Oracle Code Assist SuiteScript optimization」なども発表されている。

 

 「生成AIがすべての質問に答えられるわけではない。ただし、人間は“対話”を通じて進化するものだ。同僚と同じようにコンピューターと会話ができて、誰もが複雑な(ERPという)システムを使いこなせるようになれば、それがベストなUXだろうと考えている」(ゴールドバーグ氏)

 

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp