中学生・高校生の生成AI活用はさらに進化!東京都のハッカソンは昨年よりもハイレベルに

AI要約

東京都立学校生を対象にしたプログラミングイベント「みんなでアプリ作ろうキャンペーン」が開催され、生徒たちがMicrosoft Power Appsを使ってより高度なアプリを制作した。

AIの活用をテーマとした今回のイベントでは、生成AIをアプリ制作のあらゆる段階で活用し、生徒たちの創造力が充実している。

その他の作品には、絵を描くゲームや自己肯定感向上アプリなど、様々なアイデアが生まれ、審査員や主催者からも高い評価が得られた。

中学生・高校生の生成AI活用はさらに進化!東京都のハッカソンは昨年よりもハイレベルに

 東京都立学校生を対象にしたプログラミングイベント「みんなでアプリ作ろうキャンペーン」ハッカソンが8月5日から9日まで開催された。Microsoft Power Appsを使ったプログラミングを行うものだが、前回の2023年よりも日程が増えて生徒たちの創作活動が充実し、できあがったものもより高度なものになった。

 特に今回は「AIの活用」もテーマとされたが、アイデア出しや素材作成にAIを使うのはもちろん、アプリの機能そのものにもAIが活用され、レベルがあがっているのが印象的だった。

■ 東京都主催のプログラミングイベントのひとつ

 東京都では今年度は3つのプログラミングイベントを開催している。6月からアプリ制作に必要なプログラミングスキルを学ぶワークショップを実施、今回のハッカソン、そして8月下旬から作品募集を開始するモバイルアプリコンテストの3つ(モバイルアプリコンテストは現在作品受付中)。

 ハッカソンについては、8月5、6、8、9日の4日間で実施し、初日がオリエンテーションとアプリテーマの発表、2日目と3日目で制作し、最終日は予選と本選が行われて入賞作品を選ぶという日程となる。昨年となる2023年は制作にあてる時間は1日間だったが、今回は2日間と途中に休みが1日入るため、生徒たちが考える時間が大幅に増えたことになる。

 参加グループは3名から5名までの20グループで、合計参加人数は79名。ハッカソンの参加資格は都立学校の生徒となるが、高校だけでなく中等教育学校も含まれるため、中学生も多く参加している。グループは同じ学校で組んで参加したところもあれば、グループを組まずに参加して、別々の学校の生徒同士でグループを組んだところもある。

 使うツールはMicrosoftのローコード開発ツール「Power Apps」で、今回は特に生成AIを活用していることが特徴。

 前回はアプリに生成AIを活用することもあったが、今回はもっと前の段階から活用、例えばアプリ名を生成AIに決めてもらうことや、アイデア出しに使うことなどにも活用が広がった。また、各グループにはアドバイザー(メンター)がつき、アプリ制作を支援した。

 そして、今回のテーマは「わくわく」で、ハッカソン初日に発表され、各グループがテーマにそったプログラム作成に挑んだ。最終日の9日は午前中に予選、午後は決勝。決勝プレゼンは6グループの予定だったが、同点のチームがあり、急遽7チームが発表し、そのなかから受賞作品を選ぶことになった。

※発表順 / アプリ内容は筆者作成

■ 新しい行き場所を見つける「Explorencounter」

 最初に発表したのは、都立三鷹中等教育学校のグループ「三鷹のゆかいな仲間たち」。作ったアプリは「Explorencounter」で、新たな出会いを見つけるというもので、出会いとは新しい行き場所や穴場などを教えてくれること。外出の際、天気の急変などで予定が崩れるようにするためのアプリ。

 アプリ名の「Explorencounter」は生成AIに決めてもらったもの。探索を意味する「explorer」と新たな出会いを意味する「new encounter」を掛け合わせたもので、2つの単語を適当につなげてと依頼して出てきたのが「Explorencounter」でそのまま採用した。また、地図にOpenStreetMapを採用して点は、生成AIにおすすめを聞いて参考するなどAIを活用している。

 アプリの動作はAPIから取得した天気予報の閲覧やTODOリストを見て、AIがおすすめスポットを提案してくれるもの。予定の件名や中身の文章や画像なども含めてAIが付近のおすすめスポットを提案してくれる機能もある。地図表示もあり、経路案内は別アプリに飛ぶようにできている。表示はできるだけ文字数を減らしてわかりやすくまとめたことも特徴となる。

 今後の課題としては、天気予報の情報元をより正確だと思われるAPIに変更したり、提案内容にバリエーションを持たせるために、AIへの質問内容を変更したり、想定外の場所を提案することも検討。また、AIが提案した場所の評価を活用する機能や、天気が悪いときに通知する機能なども考えているという。

■ 「絵描き人狼」などイラスト x AIでゲームができる「TOMO」

 都立小石川中等学校の「ぴよぴよふれんず」のアプリは「TOMO」。絵を書くアプリで5つのゲームモードが入っている。わくわくの要素として「楽しい」や「期待」があるとし、AIの判断したことを、遊びに活用して楽しむアプリとなっている。

 ゲームは5つのうち2つが紹介され「おえかきんぐ」は4人で遊ぶゲーム。4人それぞれがお題に沿った絵を描き、最もお題に近かった人は誰なのかをAIに判断してもらい、判断が生む驚きや意外性にわくわくするという。

 2つめは「絵描き人狼」。4人がお題に沿って絵を書き、1人だけ違うお題で書いていてその人を当てるゲーム。こちらはお題を想像する楽しさや外れたときの意外性や驚きがあり、実際に会場で実演すると、絵のユニークさもあって会場は盛り上がった。人狼ゲームにはAIを使わないほうが面白くなるということで、使わない判断もしている。

 審査員からはまだ完璧ではないAIからの回答を、楽しみにつなげていく点が評価された。今回は間に合わなかったが、題目をAIに出させるなどのことを考えているという。

■ 「親に褒められたい!」をタスクベースで実現する「タスランク」

 都立小石川中等学校からもう1グループ、「DICE」は昨年に引き続き参加。リベンジとしてさらに仲間を増やして5人で参加した。テーマのわくわくについて考えると、子供の悩みとして「褒められたい」ということがあり、わくわくとは褒められることだということとして作ったという。アプリの内容は「タスクをこなして自分のランクを上げて親にアピールする」というものだ。

 興味深いのは「子供側が入れたタスクに対する“もらえるポイント”をAIが考えてくれる」点。親側からはタスク管理ができ画面で進捗状況が確認でき、昨日と今日のポイント平均の比較をレートとし、自分の頑張りを親にみせることもできる。さらに、ほかのユーザーとのポイントで対決でき、続けるとさまざまな称号も与えられる。

 称号については少しふざけた名前のものもあり、AIが面白く大げさに褒めてくれる。実装中のものとして勇者や神、猫などのキャラクターが自分のことを褒めるようにもなっている。さらにこれを親に見せることで一緒に笑いあって家族の団らんにつながるという。

■ プログラミング学習の「やる気」をAIでアップする「FloPer」

 都立新宿山吹高等学校の「Mz.Glaze」は4人のうち3人が競技プログラミングをしているプログラミング大好き集団。作成した「FloPer」はプログラミング学習における課題はなにかと考えたとき、AIによる正誤判定、AIとの相談機能を掛けわせてレーティングシステムを導入、プログラミング学習のモチベーションアップをして初級者から上級者がプログラミングでわくわくできる未来や、AI人材不足の解決を目指すという。

 プログラミング学習におけるモチベーション低下のありがちな実例を紹介。アプリでは、コンテスト結果によって決まるContestantレートと、作った問題の適正度と解かれた人数で決まるCreatorレートがあり、Creatorレートを上げるために問題を作ることで中級者から上級者の学び直しになり、Contestantレートを上げるために問題を解くことをくり返すことでプログラミングのモチベーションアップを実現する。

 初級者にはContestantに加えてAIという分からないところを聞ける存在を用意、学習しやすさを向上、Creator、Contestantともにプログラミングを楽しめるという。AIへの相談でも直接答えを言われたらつまらないので、直接答えにつながらないようプロンプトで指定している。

■ 写真をとって過去を遡れる「タムカム」

 都立国際高等学校の「Power Rangers」が作ったアプリは自分の世界を創造するレンズという「タムカム」。写真を撮って時間を遡ることができ、ユーザーがアプリで撮影した画像を解析し画像に関連する情報や歴史的な文脈を説明してくれるなどし、マップ機能やソーシャルメディアのような形でさまざまな人や場所の歴史を見ることができる。

 特徴としては過去を知らない場合にはAIが架空の世界を提供し、歴史風の画像を表示させるためのプロンプトの設定も行っている。さらに、AIがアプリ内で360度の視点で回転が可能になっている。建物だけでなく人の若返った姿もできる。

 そのため、ユーザーは歴史を身近に感じられるわくわくや、自分の好きな時代に行けるという楽しみがあるとしている。

■ 自尊感情を測定、自己肯定感を向上させる「ぽじとる」

 都立南多摩中等教育学校の「がぱらごス」は、わくわくする前提として自己肯定感が高いことをとして、自己肯定感を向上させる「ぽじとる」を発表した。AIによって紹介された自尊感情を測定するためのローゼンバーグ自己評価尺度を使ったことが特徴。

 アプリでは自尊感情を設問のイエスとノーの二択で回答して測定する。測定結果をAIで分析し、自己肯定感の高さを百分率で表示し、その人にあったタスクを提案する。タスクは「いつもより15分早く起きる」「一人に感謝のメッセージを送る」などで、一カ月でユーザーの自己肯定感を上げるのに役立つとAIが判断したものとなる。

 さらにアプリはタスクを実行するのときの手助けを行う。日記機能で記載したことからAIがユーザーを詳しく知ることができ、よりアプリの精度が上がり、その月に実行したタスク一覧や診断テストの結果などを「Turtle Map=振り返り機能」で確認できるという。ただし、ハッカソン期間中に実装できてないところがあるため、終了後も完了させたいとしている。

■ 目標は「アンインストールしてもらうこと」、時間管理ができるようになる「HabitTrainer」

 都立小台橋高等学校のグループ、Colorful Forest「多彩森」は自分の時間管理能力を向上させるというアプリ「HabitTrainer」を発表した。AIの不完全さや不便さを活用し、AIを利用したエンターテインメントをわくわくとして提供した。

 まず、自分の時間管理能力を可視化するため、登録したタスクをその結果を表示する。設定した時刻にアラームが鳴り、設定した時間が経過すると音が鳴るタイマー機能がある。予定通りに時間管理ができなかったときは「カオスモード」に突入、AIの理不尽さが発生するモードで、予期しない事態が起こり、解決することで成長するわくわくが体感できるとしている。

 カオスモードでは突然、時計が加速してユーザーを焦らすような機能があるほか、フレンドや未来の自分にタスクを丸投げできるかわりに、AIを3分間8文字しりとりをしなくてはならないなど、AIの理不尽さを活用した罰ゲームが発生する。

 カオスモードとノーマルモードの2つを活用することで、AIの理不尽さを感じながら自分の成長を感じ、時間管理能力を身に付けることができるとしている。アプリの最終目標は「時間管理能力をマスターし、アンインストールを目指してほしい」とのこと。

■ 最優秀賞はDICEのタスランク

 7グループの発表のあとは、審査員が別室で審査、その結果、最優秀賞はDICEのタスランクで、優秀賞がぴよぴよふれんずのTOMO、がぱらごスのぽじとるとなった。さらに、審査員特別賞兼マイクロソフト賞が追加され、Power Rangersのタムカムが受賞した。

■ みなさんのレベルが高すぎて大変苦労した~審査員

 審査のポイントとしては、AIの活用やテーマをどこまで沿っているか。審査委員長のインプレスの鈴木光太郎(窓の杜編集長)は開口一番「皆さんのレベルが高すぎて大変苦労しました。昨年のすごくよくできたね、が、今年の普通になった」とレベルの向上を指摘。

 インターネットの黎明期から発展を見てきたという鈴木氏は黎明期にはGoogleはまだなかったとし「AIの黎明期である今、AIを使うことで(Googleのようになれる)チャンスがあり、現時点で一定のレベルのものが作れることは素晴らしい」と大きな期待を寄せた。

 続いて審査員の株式会社iiba代表取締役の逢澤奈菜氏は「私もサービスをユーザーさんに提供してる身として、何かを作るときに必ず必要なのが、誰の何の課題をどう解決するかは、その課題の解像度をとにかく高めていくこと。それをどのように解決したらユーザーが喜ぶか、感動するか、びっくりするかと考えていくことが開発することだと思っています。みなさんのプレゼンが課題から入り、解決策を考え、サービスを作れることは本当にすごいこと。それができていることに誇りを持ってもらえたら嬉しい」と語り、「サービスを良くしていこうって考え続けると、めちゃくちゃ面白いことが待っている」とアドバイスした。

 また、審査員で株式会社ヘッドウォータース取締役 ITインキュベーション事業本部本部長の西間木将矢氏は「AIはスマホが出てきたとき以上の衝撃で、AIと一緒に生活していくのが当たり前になると思っている。僕らは日本のなかでもAIではトップクラスと自負しているが、今日は発見があった。発表のなかにあった、AIって微妙なところがあり、その微妙な精度や間違えることを逆手に取って新たなユーザー体験を作ったらいいんじゃないかという発想力がすごい。僕らは精度を高めて完璧を求め、100パーセントにならないとダメのように判断するが、AIが間違えることがあることを、みなさんが当たり前に認識して、機能としての取り込み方を考えている。その発想力に感動した」と参加者たちの発想力を讃えた。

 主催者からは東京都教育庁 総務部デジタル企画担当課長の江川徹氏が「この経験は必ず皆さん将来に役立ち、進路に少し影響を与えていくかもしれないと思っています。表彰された作品はもしかしたら、もうちょっと改良すればApp StoreやGoogle Playに掲載できるのではないか、という感じのものもあったかなと思います」とレベルの高さを指摘。

 「今回のイベントはエンジニアを育てるという側面もあるんですけれども、ほかの人のわくわくをITの力で解決するというところに気づいてくれたはずです。エンジニアになる方向でなかったとしても、社会課題をITで解決できるということを考えてくれれば嬉しく、そんな思いの社会人になってくれることを私たちは期待しています」とまとめた。

 さらに江川氏は、東京都が開催するプログラミングイベントの最後のひとつ、モバイルアプリコンテストの募集にも触れ「今回のアプリを、少し修正して出していただくことも全然問題ございません。もちろん新しいものを考えてもらうのも大歓迎です。たくさんの人が申し込んでくれることを望んでいます」と応募を呼びかけた。

 モバイルアプリコンテストは、「世の中の問題を解決するモバイルアプリ」をテーマとするアプリコンテストで、応募資格は「東京都内の国公私立高等学校・中学校等の生徒」で、チームでも1名でも応募可能。使用言語は「Microsoft Power Apps、C++、Phython、Java、C、Ruby、C#、JavaScript、HTML等」とされている。応募は既に受付中で、締め切りは11月20日(水)。詳細は公式サイトを参照のこと。