クラウドネイティブの波に乗り遅れた日本、力を集結し状況打破目指すCNCJのこれから

AI要約

CNCF(Cloud Native Computing Foundation)が主催するクラウドエンジニア向けカンファレンス「KubeDay Japan 2024」が開催され、中村雄一氏がCNCJの立ち上げ経緯や活動内容を紹介。

日本のクラウドネイティブの波に乗り遅れた状況やCNCJがその変化を目指す姿勢。

CNCJの今後の展望や具体的な活動目標、OSSコントリビューションの促進など。

クラウドネイティブの波に乗り遅れた日本、力を集結し状況打破目指すCNCJのこれから

CNCF(Cloud Native Computing Foundation)が主催するクラウドエンジニア向けカンファレンス「KubeDay Japan 2024」が開催された。Linux Foundation Japanのエバンジェリストを務める中村雄一氏は、昨年12月にCNCFの日本支部である「Cloud Native Community Japan(CNCJ)」を立ち上げるに至った経緯や、この9カ月間の活動を紹介した。

 The Linux Foundation傘下のCNCF(Cloud Native Computing Foundation)が主催するクラウドエンジニア向けカンファレンス「KubeDay Japan 2024」が、2024年8月27日、東京・お台場で開催された。

 

 Linux Foundation Japanのエバンジェリストを務める中村雄一氏は、「日本のクラウドネイティブの夜明け(Rising Sun of Cloud Native in Japan)」と題したキーノートで、昨年12月にCNCFの日本支部である「Cloud Native Community Japan(CNCJ)」を立ち上げるに至った経緯を紹介し、来場したエンジニアにも積極的な参加を呼びかけた。

 

クラウドネイティブの波に乗り遅れた日本、その状況を変えるCNCJ

 中村氏はまず、クラウドネイティブ技術を取り巻く「1年前の」日本の状況を振り返った。

 

 他国と比べて日本はクラウドネイティブの波に乗り遅れていた。CNCFコミュニティは存在せず、CNCFアンバサダーも1名のみ。KubernetesのCNCF認定エンジニア数も、日本の経済規模から考えると少なかった(インドの8分の1、中国の5分の1、韓国の2分の1)。CNCFのエコシステムを活用している日本企業は少数であり、日本企業からのコントリビューションも大きなものではなかった。

 

 「日本では、エンジニアが主導する(クラウドネイティブ関連の)ミートアップやイベントは多数開催されていたが、CNCFエコシステムとは関係しておらず、ばらばらの動きとなっていた。また、日本にはすばらしいコントリビューターもいるが、企業の支援を受けられている方ばかりではない」

 

 こうした状況をどうすれば変えていけるのか――。中村氏は、Linux Foundationのエグゼクティブディレクターであるジム・ゼムリン(Jim Zemlin)氏と話し合った。その結果、出た答えは「(すでに日本で活動している)さまざまな人の力をCNCFに結集して、日本のクラウドネイティブ、そして日本のCNCFを盛り上げていこう!」というものだった。「ジム・ゼムリンの言葉には勇気づけられた」(中村氏)。

 

 中村氏はLinux Foundation Japanのコミッティメンバーにも呼びかけ、CNCFの日本支部としてCNCJが結成される。2023年12月にはキックオフミートアップが東京で開催された。キーノートにはCNCF CTOのクリス・アニスチェク(Chris Aniszczyk)氏を迎え、会場は満席となったという。

 

「日本企業のビジネス戦略にOSSを組み込む」取り組みも推進

 立ち上げからおよそ9カ月が経過し、CNCJのメンバー数は現在およそ500名となった。これは世界に157あるCNCFコミュニティの中で18番目の規模だという。そして12回のミートアップを開催。さらにCNCJの内部では、セキュリティなど特定のトピックについてのミートアップやイベントを開催するサブグループやSIG(Special Interest Group)も立ち上がった。

 

 「クラウドネイティブ用語集(Cloud Native Glossary)の日本語訳も完成した。これもまたすばらしい成果だと思う」

 

 ちなみに、この日のKubeDay Japan 2024は2回目の開催だったが(初回は2022年)、スポンサー企業数も大幅に増えたという。中村氏はこれも“CNCJ効果”のひとつとして挙げた。

 

 今後の目標としては、まず、CNCJのメンバー数を1500名規模に拡大し“アジアNo.1”のクラウドネイティブコミュニティに育てることを挙げた。そのために、東京以外の地域でのミートアップの開催、非ITセクターのユーザー企業の参画、CNCF認定エンジニアの拡大などを促していくという。「CNCF認定について紹介するミートアップを計画中だ」(中村氏)。

 

 もうひとつの目標は、日本からのOSS(オープンソースソフトウェア)コントリビューションの活発化だという。中村氏は「そのためには、日本企業のビジネス戦略にOSSを組み込む必要がある」という見方を示す。CNCJでも「ビジネスSIG」を立ち上げ、OpenChain(OSSをビジネス活用するうえでの課題解決を図るコミュニティ)、TODO Groupとの連携活動を模索しているという。さらに、CNCFのTAG(Technical Advisory Group)への日本企業の参加も促していきたいとした。

 

 キーノートの締めくくりとして、中村氏はCNCJコミュニティへの積極的な参加を呼びかけた。公式サイトから参加ができるほか、10月には東京で「Cloud Native Sustainability Week 2024 Local Meetup」を開催予定だ。

 

クラウドコスト管理改善を目指すFinOpsコミュニティへの参加呼びかけも

 スポンサーキーノートのひとつとして、日立の河内山春奈氏は「クラウドネイティブにおけるOSSコミュニティ活動の価値拡大(Expanding Value of OSS Community Activities in Cloud Native)」と題した講演を行った。

 

 現在、クラウド環境やクラウドアプリケーションの運用において、さまざまな課題が生じている。代表的な課題としては「安定性や信頼性の欠如」「インシデントの多発による運用チームの業務負荷増加」「クラウドコストの増大」といったものだ。その原因には「開発(Dev)と運用(Ops)チームの分断」「クラウドやSREのスキル/ノウハウ不足」「開発/テスト/PoC環境の乱立」「複雑なクラウドシステムにおける管理性の欠如」があると、河内山氏は分析する。

 

 顧客企業の抱えるこうした課題に対して、日立ではSREの成熟度、クラウドコストのアセスメントと改善支援を行い、運用とコストの継続的な最適化を図るマネージドサービス「Hitachi Application Reliability Centers(HARC)サービス」を提供している。

 

 このHARCで提供するコスト最適化サービスに関連して、日立では今年4月からFinOps Foundationに参加し、コミュニティへのコントリビューションを行っている。

 

 FinOpsとは、クラウドコストの管理と最適化、さらにクラウドのビジネス価値最大化を図るフレームワークと取り組みであり、「クラウドネイティブにおける最新トレンド」(河内山氏)だという。FinOps Foundationは、このFinOpsの高度化と普及を目的としたLinux Foundation傘下のプロジェクトであり、「FinOpsフレームワーク」やクラウド課金データの標準仕様「FOCUS」の策定などを行っている。

 

 日立では、HARCサービスにおいてこのFinOpsフレームワークを活用し、日本市場におけるFinOpsの普及やコミュニティ形成に貢献していく方針だと河内山氏は説明する。日本でのコミュニティ設立、FinOpsフレームワークの日本語化プロジェクト立ち上げ、CNCFとのコラボレーションといった活動を考えているという。4月には日本でのFinOpsミートアップ開催を支援した。

 

 河内山氏は講演の締めくくりとして、日本のFinOpsコミュニティを支える仲間を求めていると述べ、コミュニティへの参加を呼びかけた。

 

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp