“オンプレ回帰”のユースケースにも、HPEがGreenLakeプライベートクラウドにKVMの仮想スタック

AI要約

HPEのハイブリッドクラウド事業の最新の動向についてCOOのハン・タン氏にインタビュー。HPE GreenLake for Private CloudにKVMベースの仮想化スタックを追加するなど、ユーザーに柔軟性と性能を提供。

HPEのプライベートクラウドはパブリッククラウドと補完関係にあり、最新の機能やソブリン・クラウド体験を提供。AIのトレンドも考慮し、今後もソリューションを展開していく。

ITのモダン化やAIの普及に合わせて、ユーザーのニーズに合ったプライベートクラウドサービスを提供し、マルチテナントや業界特化のソリューションも展開予定。

“オンプレ回帰”のユースケースにも、HPEがGreenLakeプライベートクラウドにKVMの仮想スタック

HPEのハイブリッドクラウドの最新の機能や今後の計画について、ハイブリッドクラウド事業でCOOを務めるハン・タン氏に話を聞いた。

 2015年の分社化以来、Hewlett Packard Enterprise(HPE)はハイブリッドクラウドを重要な戦略の柱に据えている。2015年当時の市場はパブリッククラウド一辺倒だったが、10年近く経った今では、ハイブリッドクラウドへの注目度が高まるなど、潮目が変わりつつあるように見える。

 

 HPEが提供するハイブリッドクラウドの最新機能や今後の計画について、ハイブリッドクラウド事業でCOOを務めるハン・タン(Hang Tan)氏に話を聞いた。

 

HPE GreenLake for Private CloudにKVMベースの仮想化スタックを追加、その理由とユースケース

ーーHPEのハイブリッドクラウド分野の最新の動きとして、「HPE GreenLake for Private Cloud Business Edition」にvirtualization capabilityとして仮想化スタックを加えました。KVMをベースにしたスタックですが、この機能について教えてください。

 

タン氏:virtualization capabilityは、HPE Private Cloudを利用するユーザーにフルの仮想化スタックを提供するものだ。パッケージやSaaSではなく、プライベートクラウドを採用したユーザーが利用できるもの(オプション)という位置付けだ。

 

 KVM(Kernel-based Virtual Machine)は15年以上前からオープンソースコミュニティで開発されてきた技術であり、広く利用されている。そのような背景から、(プロプライエタリな技術ではなく)KVMをベースとするのは理にかなっていると言える。業界標準の技術を採用することで、我々は差別化やビジネス上の価値を提供することに集中できる。virtualization capabilityでは、KVMにHPEのクラスタオーケストレーションなどを組み合わせており、エンタープライズのワークロードが求める性能や可用性を実現する。

 

 virtualization capabilityは現在プレビューで、2024年後半にHPE Private Cloud Business Editionの一部としてリリースする予定だ。

 

ーーBroadcomによるVMwareの買収が2023年末に完了し、ライセンスの変更などによる混乱が話題となっています。HPEのVMwareユーザーからはどのような声が出ているのでしょうか?virtualization capabilityはその代替となる選択肢を提供するということでしょうか?

 

タン氏:確かに、仮想化のロードマップを再検討しているユーザーは多い。

 

 ただし、我々がユーザーと話していて仮想化が話題となるのは、(VMwareに代わる選択肢だけでなく)より大きな意味で「ITのモダン化をどうやって進めるか」であることが多い。ユーザーが「クラウドネイティブを取り入れたい」「AIを取り入れたい」といったニーズを実現していくにあたって、我々は将来性のあるプラットフォームを用意する。他のワークロードも動かすことができる、柔軟性のあるプラットフォームを提供するというのが我々のメッセージだ。

 

ーーITのモダン化において、HPE GreenLake for Private Cloudのvirtualization capabilityはどのようなユースケースが考えられるのでしょうか?

 

タン氏:仮想化は汎用性が高く、さまざまなアプリケーションを動かすことができる技術だ。

 

 米国を中心に、クラウドの見直し、一部ではオンプレ回帰のユースケースがある。クラウドのコストが跳ね上がるようなワークロードについては、プライベートクラウドを活用するという動きだ。もちろん新規のワークロードをプライベートクラウドで動かすこともある。

 

 また、組織によっては環境が古くなり、統合・刷新を目的にプライベートクラウドを採用する動きもある。その一部として、HPEのvirtualization capabilityを利用することができる。

 

HPEのプライベートクラウドは、パブリッククラウドの技術と補完関係

ーー「オンプレ回帰」という言葉が出ましたが、ハイパースケーラーは相変わらず好調です。ハイブリッドクラウドの進化をどのように見ていますか?

 

タン氏:HPEはハードウェアのみを提供しようとしているわけではない。ハイブリッドとマルチクラウドに未来があると考えており、そこに向けたソリューションを提供する。そして我々のプライベートクラウド向けの技術は、パブリッククラウド各社が提供する技術と補完的な関係にある。

 

 クラウドがメインストリームで流行し始めた当初は、クラウドネイティブなワークロードだけでなく、リフト&シフトモデルでなんでもパブリッククラウドに載せていた。しかし時間の経過とともに、一部のワークロードはリソースの消費が激しく、それは効率的ではないということに気がついた。一般的に、5年以上使うのであれば借りるより買った方が安い。

 

 このように、ユーザーは「パブリッククラウドに適したワークロードは何か」「オンプレミスの方が適しているワークロードはどれか」などを考え始めた。

 

 また、パブリッククラウドを採用する理由として、最新のクラウドサービスにアクセスしたいというものもあった。しかし現在では、オンプレミスやプライベートクラウドの中でも、同じように最新の機能を提供できるケースが多くなっている。

 

 ユーザーがクラウドネイティブ(の技術)を導入するということは、アプリケーションの移植性(ポータビリティ)が高くなることを意味する。アプリケーションの移植性が高くなれば、オンプレミスに戻すことも容易になる。

 

ーーソブリンクラウドの関心が高まっていますが、これはHPEのプライベートクラウド戦略にどのような影響を与えていますか?

 

タン氏:HPEが提供するプライベートクラウドは定義上、ソブリン・クラウドになる。そして我々は、単にインフラがプライベートな環境であるという意味ではなく、ソブリンティを維持しながらクラウド体験を提供する。

 

 たとえば、ユーザーは全てをHPE GreenLake Cloudとして統一したプラットフォームで管理できる。HPE GreenLake Cloudは、切断モード、エアギャップなどの機能も備えている。基本的にGreenLakeクラウドのコピーをとり、それをユーザーのデータセンターで稼働することができるため、医療や国家安全保障など機密性の高い業界や用途だったり、接続性が不安定な遠隔地のサイトなどでも利用できる。

 

ーーAIのトレンドが受けるハイブリッドクラウドへの影響についても、考えを教えてください。

 

タン氏:HPEは、昨今の生成AIブーム以前から「AIこそ究極のハイブリッドワークロードだ」と主張してきた。

 

 大規模なGPUリソースを使って基盤モデルをトレーニングする企業や組織はごく少数で、今後は既存のモデルをそのまま展開したり、自社のデータでファインチューニングする企業や組織が増える。また、多くの場合でアプリケーションは分散され、モデルをエッジに配置することも増える。これが、我々が”AIは究極のハイブリッドワークロード”と主張するゆえんだ。

 

 AIのトレンドは間違いなく、ハイブリッドクラウドの重要性を高めることになるだろう。

 

ーーハイブリッドクラウド分野での今後の計画について教えてください。

 

タン氏:現在、ユーザーの多くが業務アプリケーションごとに異なるパブリッククラウドを選択したり、レガシーとプライベートクラウドが混在している状態だ。仮想化環境が細分化されており、そこにAIが加わる。

 

 このようなユーザーの状況に対し、HPEはGreenLakeクラウドプラットフォーム、統合管理機能を提供する。最新の動きのひとつが、2023年に買収したOpsRampを、GreenLakeの全サービスに組み込んだことだ。OpsRampはハイブリッド、マルチクラウド、マルチベンダーに対応するSaaS型のIT運用管理技術で、インシデント管理、アラート、修復の自動化などの機能を備える。同時に、今後も単体のSaaSとしてのOpsRampの提供も継続する。

 

 この市場を大きくするために、ソブリンクラウド、AIなど、技術面は継続して強化する。

 

 このほかに重要なこととして、HPEはパートナー主導のビジネスを展開しており、MSP(マネージドサービスプロバイダ)やチャネルパートナーがプライベートクラウドを運用できるよう支援していく。そのためには、マルチテナントなどが重要になるだろう。

 

 また、ヘルスケア、金融などの業界に特化したソリューションや機能も展開していくがここでも、ISVなどのパートナーエコシステムが重要になるだろう。

 

文● 末岡洋子 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp