秋葉原の専門店からBTO業界の雄に、サードウェーブこの先の伸びしろは?

AI要約

サードウェーブは、創業40周年を迎え、新たな経営体制をスタートさせた。主力事業である個人向けPC事業を強化するとともに、新たに法人向けPC事業を拡大する方針を打ち出している。

新生サードウェーブでは、PCブランドの再編や法人向けビジネスの強化、ドスパラの強化など、さまざまな取り組みを行っている。

サードウェーブは、「Future Unleashed」という新たなメッセージを掲げ、まだまだ伸びしろがある企業として、新たな挑戦に意欲を示している。

秋葉原の専門店からBTO業界の雄に、サードウェーブこの先の伸びしろは?

法人向けビジネスを強化。約3割の売り上げ占有率を目指す。

今回のひとこと

「サードウェーブは、まだまだ伸びしろがある企業。新たなことに挑戦する文化をより浸透させ、わくわく、ドキドキするPCを提供したい」

 

 ゲームPCブランドの「GALLERIA(ガレリア)」や、PCショップ「ドスパラ」を展開するサードウェーブが、創業40周年の節目を迎えるなか、新たな経営体制をスタートさせた。 

 

 2024年8月1日付けで、インテル出身で、サードウェーブの副社長を務めていた井田晶也氏が社長兼COOに就任。主力事業である個人向けPC事業をさらに強化するとともに、新たに法人向けPC事業を拡大する方針を打ち出した。 

 

 創業家以外からは初の社長就任となった井田晶也社長兼COOは、「法人向けビジネスを、今後3年で2倍にする。2027年7月期には、少なくとも全社売上高1000億円を達成し、そのうち、約3割を法人向けビジネスで占めたい」と、成長戦略に意欲をみせる。 

 

 サードウェーブは、1984年に秋葉原でPCパーツの販売店からスタートした。当時の店名は、社名のサードウェーブだったが、1992年に、DOS/Vパラダイスへと店名を変更し、PCパーツの販売だけでなく、DOS/Vパソコンの販売を開始した。2003年には通称として広がっていた「ドスパラ」へと店名を変更している。

 

 また、2003年からは、それまでの店舗でのPC組立サービスに加えて、物流センター内でのパソコンの製造および出荷を開始。2004年にはゲーミングPCブランドの「GALLERIA」を誕生させて、PCメーカーとしての一歩を本格的に踏み出した。2007年には、デジタルクリエイター向けPCブランド「Raytrek」の提供を開始。その後、法人向けSIソフトウェアの開発事業や、深層学習用ワークステーションの開発、eスポーツ大会の主催や競技施設の開設などにも取り組んできた。 

 

 全国に48店舗を展開するドスパラと、PCメーカーとして、新製品の企画、製造、販売を自社で行う垂直統合モデルは、同社の大きな強みとなっており、柔軟な商品企画やカスタマイズへの対応、用途特化型PCの開発なども可能にしている。 

 

 井田社長兼COOは、「つるしではなく、テーラーメイドのPCを、短納期で、提供することができる」とサードウェーブの強みを示す。

 

GALLERIA、raytrek、THIRDWAVEの3本柱に

 新生サードウェーブでは、すでにいくつかの取り組みをスタートさせている。 

 

 ひとつめは、PCブランドの再編だ。これまでにいくつもの製品ブランドがあったが、これを再編し、ゲーミングやクリエイター向けの「GALLERIA」、法人向けPCの「raytrek」、カスタマイズ対応によって幅広いニーズに対応するテーラーメイドPCを提供する「THIRDWAVE」の3つに集約した。 

 

 「どんな用途で、どんなターゲット層に向けたブランドであるのかをわかりやすくするとともに、今後のビジネス戦略に沿った形に、ブランドを再構築した」と、井田社長兼COOはその狙いを語る。 

 

それぞれのブランドのターゲットは明確だ。 

 

 「GALLERIA」は、従来からのゲーミング用途だけでなく、クリエイターや、AIを活用するユーザーも対象にした製品をラインアップ。これまでのブランドを「拡張」することになる。 

 

同社では、GALLERIAシリーズに用意していた「U(Ultimate-至高-)」「Z(Zealot-熱狂-)」「X(eXtend-伸展-)」「R(Refine-洗練-)」の4つのラインアップに加えて、新たにCPU性能に特化し、消費電力とコストを低減したオンボードグラフィックスの新シリーズ「D(Discovery-発見-)」を追加し、ラインアップを拡張している。 

 

 これに対して、「raytrek」は、これまではクリエイター向けとしていたが、これを法人向けPCブランドに「刷新」する。同社の法人ビジネスの成長を担う中核的製品に位置づけるほか、プロユースでの利用を想定して、設計などのデザインなどの領域にも展開。さらに、AI PCのラインアップや、高校や大学といった教育分野にも提案していくことになる。 

 

 そして、「THIRDWAVE」は、同社が持つ垂直統合の強みを生かして、一般的な用途から特定用途まで、様々なニーズに対応できる製品として展開することになる。カスタマイズの強みとともに、コストパフォーマンスの高さも訴求していくブランドだ。 

 

 「ブランドをシンプルに再編したことにより、それぞれの製品の狙いがわかりやすくなっただけでなく、この3つのブランドで、サードウェーブは成長戦略を描いていくんだということを、対外的に明確に示せた」と語る。

 

法人向けビジネスの強化

 2つめの取り組みは、法人向けビジネスの強化だ。 

 

 先にも触れたように、井田社長兼CEOは、全社売上高1000億円を目指す計画を発表し、そのなかで、法人向けビジネスを今後3年で2倍に拡大。約3割を法人向けビジネスに広げる目標を明らかにしている。つまり、今後の積極的な成長戦略の柱になるのが、法人向けビジネスになる。 

 

 井田社長兼CEOは、「サードウェーブが持つ強みを生かしながら、ビジネスをスケールできる分野が、法人向けPC市場である。柔軟なカスタマイズや特別な用途に最適化した仕様のPCを、国内で開発、製造し、販売できるのは、サードウェーブの強み。これは、今後の法人向け市場において、求められる要素でもある」と自信をみせる。 

 

 サードウェーブでは、PCの商品企画は東京・秋葉原の本社で行い、開発や生産、品質管理は神奈川県にある海老名事業所と綾瀬工場が担当し、平塚の物流センターから全国に配送している。ユーザーの要望にあわせたPCを、短納期で配送できる仕組みが整っている。 

 

 さらに、昨年度から、法人事業部の陣容を強化。業種や業態ごとの営業組織を強化したのに加えて、ディストリビュータやSIerなどのパートナー向けの営業体制の拡大や、中堅中小企業向けのインバウンドセールスやアウトバウンドセールスの強化などに取り組んでいる。 

 

 まずは、映像分野やゲーム開発にフォーカスしたPCや、CADやBIM(Building Information Modeling)を活用する建設/建築業界向けPC、DXハイスクールの対象となる高校や、大学の研究室などを対象にした文教市場に向けて最適なPCの提供に力を注ぐという。

 

店舗展開を強化、ゲーミングPCを重視

 3つめが、PCショップ「ドスパラ」の強化である。 

 

 ドスパラは、同社売上高のなかでも大きな比重を占めるビジネスであるが、これまでの出店数の拡大を急ぐ方針から転換し、地域への密着度を高めることがポイントになる。 

 

 井田社長兼COOは、「拡大の方向性は維持しながらも、出店のペースは少し緩める。その代わりに、市場性や来店しやすい環境などの立地条件だけでなく、法人向けPCとの親和性も意識していく」と語り、「それぞれの店舗が、地域においてどんな役割や影響を及ぼすことができるのか、どんな店を作りたいかという私たちの思いを込めることを重視した店舗展開を進め、よりよい店舗づくりを重視する」と述べた。 

 

 ドスパラの一部店舗には、法人窓口を設けているが、今後は、全国48店舗の出店地域の特性を捉えながら、店舗での法人向けPCの取り扱いを増やしたり、店舗の近くに大学や高校があれば、学生や教員に使ってもらえる商品の品揃えも進める。 

 

 前年度は、年間10店舗の新規出店計画を掲げていたが、今年度以降は、具体的な出店計画は掲げていない。 

 

 そして、ゲーミングPCも引き続き強化する姿勢は崩さない。 

 

 デスクトップについては、国内のゲーミングPC市場において、主力となるデスクトップ分野でトップシェアを獲得。このボジションを維持することにこだわる。「安心して使える最高のゲーミングPCや、最新の技術を取り入れた革新性があるゲーミングPCを提供しつづける」との考えを打ち出す。 

 

 この領域においては、プロのeスポーツ選手やインフルエンサーとの連携を強化するほか、eゲーム施設の運営、全日本高校eスポーツ選手権の支援に加えて、地方のeスポーツ施設への協賛や、eスポーツの部活動の支援も進めるという。 

 

 「ゲーミングPCは、単に製品を開発し、販売していくだけでは市場成長には限界がある。ゲーミングPCのリーダー企業の責任として、市場を活性化する取り組みが不可欠であり、インテルやNVIDIAなどとの連携を強化しながら、ゲーミングPCを活用してもらえる場を増やし、市場全体を盛り上げていきたい」と、市場活性化に向けた施策にも取り組む考えだ。 

 

まだまだ伸びしろがある企業 

 サードウェーブでは、「Future Unleashed(未来を解放する)」という新たなメッセージを打ち出した。 

 

 井田社長兼COOは、「サードウェーブの製品を通じて、ユーザーの未来の可能性や潜在力を解放するという意味と、サードウェーブ自身の未来の可能性を解放するという意味を込めた」と語る。 

 

 同社では、企業ミッションとして、「人々の創造活動の可能性を最大限にする」ことを掲げており、このミッションを遂行するための姿勢として、「Future Unleashed」を打ち出したとも説明する。 

 

 「サードウェーブは、まだまだ伸びしろがある企業。新たなことに挑戦する文化をより浸透させたい」と意気込む。そして、「わくわく、ドキドキするPCを提供したい」と語る。 

 

 井田社長兼COOが目指すのは「日本を代表するPCメーカー」である。新経営体制は、それに向けた一歩を踏み出すものになる。

 

文● 大河原克行 編集●ASCII