セキュリティ・プライバシーのユーザー調査は西洋偏重の実態--NTTとNICTが解明

AI要約

NTTとNICTのサイバーセキュリティ研究室がユーザー調査研究において、西洋中心の偏りを指摘

セキュリティ・プライバシー分野の研究成果が広範囲に適用しづらい可能性や、ユーザーの文化的差異の重要性を指摘

調査結果から、研究対象や参加者における西洋中心の偏りが明らかになり、改善が求められている

セキュリティ・プライバシーのユーザー調査は西洋偏重の実態--NTTとNICTが解明

 NTTと情報通信研究機構(NICT)のサイバーセキュリティ研究室は、セキュリティ・プライバシー分野におけるユーザー調査研究について。参加者の多くが西洋を中心とした人々である実態を定量的に明らかにしたと発表した。

 この結果から両者は、これまでのセキュリティ・プライバシーの研究成果において、広範な集団や状況に適用する一般化の可能性が低く、日本を含むアジアなどの異なる地理圏や文化圏の人々が十分に恩恵を得られない可能性があることや、地理的・文化的に異なる人々の差異を明らかにする重要性などを指摘ししている。また、多様な人々に対する理解を促進するための研究方法も提案した。

 NTT 社会情報研究所 社会情報理論研究プロジェクト 上席特別研究員の秋山満昭氏は、「セキュリティ・プライバシー分野におけるユーザー研究調査は、人が研究対象の中心となり、セキュリティやプライバシーの問題に対して、人がどのように理解して、意思決定し、行動するのかを知り、それを基に、ユーザーにとってより良い情報技術の設計や実装、運用に反映することが目的になる」と説明する。

 秋山氏によると、HCI(ヒューマンコンピューターインタラクション)の研究では、アジア、アフリカ、南米、中東といった非西洋諸国の人たちが標本数に占める割合が16%から30%に上昇し、西洋の人々への偏りを緩和する傾向にあるという。だが、セキュリティ・プライバシー研究では逆の方向にあるのが実態だと警鐘を鳴らしている。

 今回の調査は、2017~2021年の5年間に発表されたセキュリティ・プライバシー分野における著名国際会議の論文など7587本を対象に行った。その中から論文をスクリーニングし、ユーザー調査を実施しているセキュリティ・プライバシー論文を手動で特定。715本を対象に分析したという。論文から参加者数、参加者の居住国、教育レベル、収入レベル、専門家あるいは非専門家といった参加者タイプなどを抽出している。

 この結果、西洋の人々が対象になるユーザー調査標本数が約8割を占め、さらに、非西洋諸国の構成比が2017年の25.0%から、2020年は18.8%に、2021年には20.8%にまで低下して、偏りが大きくなっていることが分かった。

 特に西洋人(Western)、高い教育水準(Educated)、⼯業化された環境(Industrialized)、裕福(Rich)、⺠主主義社会(Democratic)に属する「WEIRD」と呼ばれる人々への偏りが顕著であり、「世界人口で約2割を占める恵まれた層であり、全体から見ると特殊な層ともいえるが、これらの層への調査が圧倒的に多い」(秋山氏)という。

 また、全ての論文の41%が米国を対象にした調査であり、世界人口の比率から見ると、10倍規模の調査が実施されていることになる一方、日本やアジア、中東、アフリカ、南米などは過少か、全く調査されていない場合が多く、大きな偏りがあることも指摘した。