グーグル「Pixel 9」レビュー:AI機能は楽しいが決め手にはならない

AI要約

Pixel 9は、外見の変更とともに新しいAI機能が搭載されたGoogleの最新スマートフォンで、AI機能の一部は実用的でありながら面白さも兼ね備えている。

Pixel 9は価格が上昇したため、ミッドレンジからプレミアムなラインナップになり、AI機能やカメラ性能によってアップグレードの価値があるが、古い機種からアップグレードする場合に特に魅力的である。

新しいAI機能には、画像生成アプリ「Pixel Studio」やスクリーンショットの検索機能、「Gemini」アシスタントなどがあり、実生活での利用性や楽しさが感じられる一方、一部の機能には改善の余地がある。

グーグル「Pixel 9」レビュー:AI機能は楽しいが決め手にはならない

 「Pixel 9」は、外見上は「Pixel 8」から大きく変わったように見えるかもしれない。しかし、重要なのは中身だ。Googleの新しいPixelスマートフォンには、新しいAI機能が搭載されている。その中には実用的なものもあれば、実用性より面白さを追求したものもある。

 筆者は、Pixel 9シリーズの中で最も安価な799ドル(日本では12万8900円)の標準構成のPixel 9をほぼ1週間使用している。その間に、筆者はAIが今後スマートフォンをより効率的に、より使いやすくしてくれるのではないかという好奇心と、少しの期待を抱くようになった。Googleにとって、スクリーンショットに保存した予約確認番号を見つけるために写真ギャラリーをスクロールしたり、電話中に慌ててメモを取ったりする時代は終わったのだろう。スマートフォンで写真を撮るだけという時代も過ぎ去った。Pixel 9は、いくつかの簡単な言葉に基づいて、まったく新しい画像を生成できる。

 正直に言えば、毎年なされるスマートフォンのアップグレードは退屈なものになり、通常はカメラやデザインの改良、良ければバッテリー持続時間の改善が繰り返されるだけだ。そのため、Googleのような大手テクノロジー企業が、生成AIを使ってスマートフォンを盛り上げる新しい方法を探しているのも不思議ではない。Googleだけでなく、Appleやサムスンも同様のアプローチを取っている。

 筆者はGoogleの目指す方向性を気に入っているが、Pixel 9とGoogleの「Gemini」アシスタントは、同社が達成しようとしていることへの第一歩にすぎないように感じる。つまり、スマートフォンのソフトウェアをより賢くすることで、スワイプ、タップ、スクロール、検索に費やす時間を短縮しようというのだ。一方、Pixel 9は、AI中心ではない旧Pixelと同様に、優れたカメラ、優雅なデザイン、整理されたソフトウェアという点で魅力がある。

 しかし、799ドルという価格設定により、Pixel 9は旧モデルとは別の土俵で勝負することになる。Pixel 8が699ドル(日本では11万2900円)、Pixel 7が599ドル(同8万2500円)で発売された時のような、ミッドレンジのスマートフォンではなくなった。最新のエントリーレベルの「iPhone」や「Galaxy」スマートフォンよりも安いという競争上の優位性ももはやない。Pixel 9は、よりプレミアムな部類に属しているように感じるが、アップグレードする価値があるのは、古い機種を使っている場合のみだ。AI機能を除くと、Pixel 9はPixel 8とそれほど大きく変わらない。

賢いAI機能たち

 Pixel 9の新しいAI機能は、この最新の「Android」スマートフォンを今すぐ買う理由になるほど魅力的とは言えない。しかし、過去のPixelシリーズとPixel 9を隔てる、大きな違いになっていることも確かだ。

 新登場の「Pixel Studio」は、瞬時に画像を生成してくれるAIアプリだ。これが実に楽しい。どんな画像が生成されるかを見たくて、時間を忘れて、あれこれ思いつくままにプロンプトを入力してしまう。

 筆者が作ったのは、猫たちが寄り添っているかわいい画像、風船を持ったピカチュウ、中世の街を踏み荒らす怪物の画像などだ。正直に言うと、生成結果に著作権で保護されたキャラクターが表示されたことは驚きだった。

 画像生成アプリはPixel Studioだけではない。例えば「ChatGPT」、「Canva」、それから(Discordのチャットアプリ経由で)「Midjourney」も画像を生成できる。しかし、こうしたサービスと別途契約しなくても、スマートフォンに搭載されているサービスをそのまま利用できるのはありがたい。ただし、Pixel Studioではまだ人物の画像は生成できない。

 注意したいのは、必ずしもプロンプトで指示した通りの画像が生成されるとは限らないことだ。例えば、「ポケットモンスター」に登場するピカチュウ、プリン、ミュウが森の中にいる画像を作成してほしいと指示したときは、ミュウとプリンのハイブリッドのようなキャラクターが表示された。

 Pixel Studioはパーティーの余興にはぴったりだ。筆者も確かに楽しんだ。しかし、実際に役立つシーンは限られそうだ。例えば、ビジネスのロゴやホームパーティ、ゲームイベントの招待状に使う画像がほしいときは使えるかもしれない。また、テーブルトークRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のキャンペーン用に風景や人外のキャラクターを作る必要があるときも役立つだろう(例えば、筆者はPixel Studioで自分が使っているキャラクターの住処をイメージした画像を作成した)。特別なセンスや技術がなくても簡単にグラフィックを作成できるところがPixel Studioの魅力だ。しかし、ほとんどの人は最初こそ好奇心にかられて熱心に使うかもしれないが、そのうちアプリの存在すら忘れてしまうだろう。

 Googleが用意したAI機能の中には、もっと実生活に役立ちそうなものもある。筆者のお気に入りは「Pixel Screenshots」だ。この機能を使うと、デバイス内のすべてのスクリーンショットの内容を検索できるようになる。例えば、ホテルのWi-Fiパスワード、注文の確認番号、テキストメッセージで送られてきた住所などのスクリーンショットを撮っておけば、見たい情報を入力するだけで、すぐにその情報を取り出せる。筆者の場合は、「電車の時間」と入力しただけで、Metro North(ニューヨークの通勤電車)の時刻表のスクリーンショットを見つけることができた。

 もっとも、これはGoogleだけの機能ではない。iPhoneの「写真」アプリでも同じような方法で写真を検索できる。しかし、スクリーンショットが「Googleフォト」のライブラリとは別の場所に保存されることは便利だ。また、この機能を使えばスクリーンショット上のオブジェクトをタップし、その部分だけを抽出したり、メモを書き込んだり、スクリーンショットを撮ったイベントをカレンダーに追加したりすることもできる。派手さはないが、スマートフォンの可能性を感じさせてくれる機能だ。

 この他にも、AIが毎日の天気を要約してくれる「Weather」アプリ、通話を録音して内容を要約してくれる「Call Notes」、プロンプトに基づいて「Google Keep」にリストを生成する「Help Me Create A List」など、地味だが便利なAI機能がいくつかある。

 GoogleのバーチャルアシスタントであるGeminiも、AndroidとAIの融合に大きな役割を果たしている。GeminiはPixelシリーズ専用のAIではないが、Googleは通常、Pixelを理想的なAndroid体験ができるデバイスと位置づけている。筆者はPixel 9を使って、有料版のGeminiユーザー向けに提供されている「Gemini Live」を試してみた。この音声会話が可能なGeminiは、筆者の質問におおむね自然な会話を交わすように回答してくれた。途中で話をさえぎっても混乱することはなかった。

 ただ、会話中に何度かGeminiの返答が止まり、困惑することがあった。回答が間違っていることもあった。例えば、マンハッタンのハドソン川に浮かぶ水上公園、リトルアイランドで開催されるイベントについて質問したときは、間違った日程を伝えてきた。

 今回の体験で、筆者が特に興味をそそられたのはGeminiのオーバーレイだ。これはGeminiが起動したときにポップアップ表示される小さなウィンドウで、スマートフォンのディスプレイに表示されているものについてGeminiに質問すると、Geminiがそれを分析し、回答してくれる。いいアイデアだが、回答は常に正しいとは限らなかった。例えば、閲覧中のメニューからヘルシーな料理を選んでほしいと頼んだときは、メニューに載っていない料理を挙げた。

 Geminiが間違った回答をすることについて、Googleの広報担当者はハルシネーション(AIによる虚偽の回答)が大規模言語モデルの既知の課題であることを認め、可能であれば「回答を再確認」ボタンなどを使ってGeminiの回答を確認してほしいと言った。「回答を再確認」ボタンをタップすると、Google検索を使ってGeminiの回答を検証できる。

グループ写真の新たな選択肢「一緒に写る」

 Googleは完璧な家族写真や集合写真を撮ることに並々ならぬこだわりがあるようだ。2023年には「ベストテイク」、そして今回は「一緒に写る」が登場した(この機能はちょっと説明が難しいのだが、お付き合い願いたい)。

 「一緒に写る」は、誰かに撮影を頼まなくても、全員がそろった集合写真を撮影できる機能だ。Googleは2枚の写真を組み合わせることで、この機能を実現している。まずはグループから誰かが抜けて、Pixelで1枚目の集合写真を撮る。次に、1枚目の写真を撮った人がグループの別の人と入れ替わる。

 ここからが面白い。2枚目の写真を撮る人がPixelを構えると、拡張現実(AR)を使って、ディスプレイ上にグループのメンバーが1枚目の写真のポーズで表示される。そこで、その並びにうまく収まるような場所に1枚目の写真を撮影した人を立たせ(あるいは座らせ)、2枚目の写真を撮る。

 「一緒に写る」は確かに宣伝通りに機能するが、簡単とまでは言えない。筆者が試したときは、2枚目の写真を撮るために友人にPixelを渡したところ、友人は最初、この機能の仕組みがよく分からず、混乱していた。また、自然な写真に仕上げることが難しい場合もある。例えば同僚とリトルアイランドの入口で写真を撮ったときは、隣に並ぶと不自然なポーズになってしまった。

 また、2枚目の写真を撮ったときに気づいたのだが、画面上の指示に従って、写真の位置をそろえることで頭がいっぱいになってしまい、新しく写真に入る人を正しい場所にうまく誘導できないことがある。

 それでも、「一緒に写る」は楽しい機能であり、ARをうまく使っている。しかし、たいていの場合は誰かをつかまえて、撮影をお願いした方が楽だろう。

 「イマジネーション(Reimagine)」も、Pixel 9シリーズに新たに搭載されたAI機能だ。その名の通り、このツールは「編集マジック」の拡張機能で、写真内のオブジェクトを別のものに置き換える(reimagine=再想像する)ことができる。筆者が試した範囲では、この機能はあまり奥行きのない背景オブジェクトに使うと、成功しやすいようだ。例えば、この写真では背景に写っているリトルアイランドをクルーズ船に置き換えている。

元の写真

「イマジネーション」で加工した写真

 仕上がった写真は、スマートフォンで見る限りは問題ないが、もっと大きなディスプレイで拡大してみると、船の様子がおかしいことに気づく。まるでサルバドール・ダリの絵のように、少しゆがみ、とけているように見えるのだ。おそらく、この機能はまったく新しいオブジェクトを細部まで鮮明に生成するためのものではなく、ちょっとした調整用なのだろう。

 2023年に編集マジックが登場したときは、写真の加工ツールを多くの人が手軽に利用できるようにすると、悪用のリスクが高まるという議論が巻き起こった。この議論はまだ続いているが、たいていの場合(上の例のように)、実際の写真を見れば加工されていることはすぐに分かる。Googleによれば、AI機能を使って編集した写真にはメタデータが追加されるという。しかし、情報の確認には手間がかかる。

カメラは優秀だが、サムスンのカメラはさらに良さそう

 Pixel 9のカメラはPixel 8とあまり変わらないが、決定的な違いが1つある。超広角カメラが1200万画素から4800万画素に向上したことだ。一方、メインカメラは5000万画素に据え置かれた。

 超広角カメラで撮った写真は、Pixel 8との違いが分かるものもあれば、分かりにくいものもあった。例えば、リトルアイランドで撮ったこの写真はPixel 8よりも色鮮やかだ。

Pixel 9

Pixel 8

 しかし、この円形劇場の写真では、ズームインして木製のステージ部分を見ないとその違いがわからなかった。

Pixel 9

Pixel 8

 全体的に、Pixel 9は鮮やかな写真を撮影し、大胆でありながらも現実味がある。これは、両立させるのが難しいバランスだ。Pixel 9で撮影した写真とPixel 8で撮影した写真にあまり違いは感じられなかったが、iPhone 15はいくつかの状況下でより鮮明な写真を撮影した。

 Pixel 9のカメラを高く評価するが、サムスンの方がコストパフォーマンスに優れるという意見もあるだろう。Pixel 9と同じ12万円台からという価格設定のGalaxy S24には、5000万画素のメインカメラ、1200万画素のウルトラワイドカメラ、1000万画素の望遠カメラの3つの背面カメラが搭載されている。コンサートやスポーツイベントに頻繁に行くなど、ズームインした写真を撮る機会が多いが、「プロ仕様」のスマートフォンに大金を費やすつもりはないという人には、Galaxy S24の方が良い選択肢かもしれない。

 下の写真はすべて7.8倍のズームで撮影したものだ。Pixel 9の画像は、望遠レンズのないスマートフォンとしてはかなり良い出来だ。しかし、大画面でズームインすると、サムスンの方がより多くのディテールを損なうことなく保存していることが分かる。

Pixel 9

Galaxy S24

デザイン一新、バッテリーは終日持続

 Pixel 9は新しいデザインになり、筆者はすっかり気に入ってしまった。カメラバーはスマートフォン背面の両端まで広がるのではなく、フローティングアイランド型のデザインになり、金属のエッジはより平らになった。

 これにより、カメラモジュールがエッジを遮らないため、Pixel 9はよりシームレスな形状になっている。筆者はその見た目と手触りがとても気に入っているので、特にこの新しいピンク系の「Peony」カラーではケースを付けたくないほどだ。

 はっきり言おう。Pixel 9はiPhoneに似ているが、それは悪いことではない。

 画面もPixel 8より少し大きく明るいので、日光の下でも見やすいが、屋外ではつい明るさを上げてしまう。Pixel 8と同様に、Pixel 9シリーズでも7年間のソフトウェアアップグレードが提供される。

 Pixel 9は、「Pixel 9 Pro」「Pixel 9 Pro XL」「Pixel 9 Pro Fold」と同じくGoogleの「Tensor G4」プロセッサーを搭載している。Googleのチップは高性能で知られているわけではないが、筆者が使う中ではPixel 9は十分に機能している。Pixel 8の8GBに対して12GBのRAM、120Hzのリフレッシュレートの画面、そしてTensor G4のおかげで、OSの操作やゲーム、写真撮影など、すべてが円滑かつ高速に感じられた。この価格帯のスマートフォンとしては当然のことだ。

 バッテリー持続時間についても同様で、Pixel 9は12万円台のスマートフォンとして当然のことながら、1回の充電で忙しい1日を乗り切ることができる。Pixel 8よりも少し容量の大きいバッテリーを搭載しており、今のところ期待通りの結果が出ている。

 公園に行ったり、写真をたくさん撮ったり、画面の明るさを高く保ったり、夜に友人と出かけたりと忙しかった日、一般的な使い方で約16時間使用したところ、バッテリー残量は38%だった。それほど忙しくなく、ほとんど家で過ごした日にほぼ同じ時間使用すると、残量は64%だった。

 もちろん、スマートフォンの使い方によってバッテリー持続時間は都度異なる。

 Pixel 9の27W高速充電は、30分でバッテリーを54%まで充電でき、Googleの主張とほぼ一致していた。Pixel 8とGalaxy S24は、同じテストでバッテリーが約50%まで充電された。

最終的な所感

 Pixel 9には新しいAI機能が搭載されており、その多くは楽しく、面白く、それなりに便利だ。しかし、このスマートフォンの購入を検討すべき理由はそれだけではない。Pixel 9の優れたカメラ、高級感のある作り、頼れるバッテリー持続こそが、このスマートフォンに時間を割き、注目する価値がある理由だ。

 GoogleはPixel 9の新しいAI機能で正しい方向に向かっている。スクリーンショットの検索、通話の要約、ToDoリストの生成などの機能は、スマートフォンの操作をより簡単にするための進歩を感じさせる。しかし、Pixel 9の新しいソフトウェアツールは、少なくとも現時点では、それ自体がアップグレードに値するものはない。

 Pixelの愛用者で、Pixel 6以前のモデルなど旧型スマートフォンからアップグレードする場合は、Pixel 9に多くの魅力を感じるだろう。しかし、同様の価格であれば、サムスンのGalaxy S24の方が画面は明るく、ズーム写真撮影用の専用望遠レンズが搭載されていることを心に留めておいてほしい。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。