議論白熱から約1年、4月に「改正NTT法」成立--2025年に向けて検討続くNTT法を振り返る

AI要約

2023年後半に始まった「NTT法」の廃止議論が続き、2024年に改正案が成立した。議論には、政府の防衛費財源確保、NTTの特殊事情、通信事業者の反対などさまざまな要素が絡んでいる。

NTT法の見直しは、政府のNTT株売却案に端を発し、議論が活性化した。現行法はNTTにとって障壁やリスクをもたらす部分もあり、議論を巻き起こしている。

2024年に成立した改正案では、研究成果の開示義務の廃止や外国人役員の登用緩和など、NTTにとってプラス面もあった。しかし、携帯キャリア側はNTT法の廃止の可能性に警戒を強めている。

議論白熱から約1年、4月に「改正NTT法」成立--2025年に向けて検討続くNTT法を振り返る

 2023年の後半に「NTT法」の廃止議論が白熱してから早一年。4キャリアを中心とする通信事業者に小さくないインパクトを与えつつ、4月には「改正NTT法」が成立した。しかし、廃止するかどうかの議論は今なお検討が重ねられている。

 NTT(日本電信電話)という1つの企業名が付く法律のため、私たち一人一人が関心を持ちにくいトピックかもしれない。だが、成り行き次第では通信事業者はもちろん、大多数の国民に影響がある可能性がある、非常に大きな話題だ。この1年近くの熱い議論を振り返ってみよう。

NTT法とは

 そもそもNTT法は、NTTの前身となる日本電信電話公社(電電公社)が1985年に民営化する際に、「日本電信電話株式会社法」という名称で生まれた。1985年の誕生後、1999年のNTT再編時などのいくつかの改正を経て、現在は「日本電信電話株式会社等に関する法律」という名称となっている。

 特殊法人だった電電公社は、その特性から局舎、ケーブル、電柱といった日本の通信に必要な「特別な資産」を保有していた。現在はNTT東日本とNTT西日本(NTT東西)に引き継がれたこれらは、税金を元に整備されたいわば国民の資産ともいえる。

 NTT法は、NTT自体を民営化することに加え、これら特別な資産で国民に提供される通信事業を、適切かつ公平、安定的に提供するためのものだ。現在の対象はグループをまとめる持株会社のNTTとNTT東日本、NTT西日本の3社で、それぞれの業務範囲なども記載されている。なお、NTTドコモやNTTコミュニケーションズなどは含まれていない点もポイントだ。

議論はなぜ盛り上がった?--背景や経緯を振り返る

 ここ1年で議論が過熱した背景には、政府が防衛費の財源をどう確保するかという、通信とは別領域の課題にある。

 政府は、2023年度からの5年間で防衛費を43兆円程度とすることを閣議決定し、2027年度は2022年度と比べて3兆7000億円が増額されることになっている。

 その財源を確保すべく自由民主党のプロジェクトチームが進める案が、政府が保有するNTT株を売却するというもの。実際に政府および地方公共団体は、2024年6月時点で32.25%のNTT株を保有している。しかしそれはNTT法の第四条で「政府は、常時、会社の発行済株式の総数の三分の一以上に当たる株式を保有していなければならない」と規定されているためでもある。保有する株式を売却するためにNTT法の見直しが必要となり、廃止に向けた議論が活性化したという経緯だ。

NTTに立ちはだかるNTT法

 NTT 代表取締役社長 社長執行役員を務める島田明氏は、議論が活性化し始めた2023年8月、第1四半期決算の説明会でNTT株の売却に対して「ニュートラル」とし、こだわらない様子を示す。

 しかし、同説明会でNTT法そのものについては、「今後のことを考えると見直した方がいい」(島田氏)。NTT法が自由な事業の障壁となっていること、また時代にそぐわない点などが出ていることから、NTT法についての議論を歓迎した形だ。

 NTTが見直しを歓迎する理由としては、株関連以外のNTT法の規定がある。例えば第三条では、「電気通信技術に関する研究の推進及びその成果の普及を通じて我が国の電気通信の創意ある向上発展に寄与し、もつて公共の福祉の増進に資するよう努めなければならない」とあり、研究開発成果の公平な開示義務を課している。

 これは、懸念国の政府機関や企業から開示要請があった場合でも研究開発成果を開示する必要が生じることを意味する。NTTは光電融合ネットワーク「IOWN」などを推進しているが、これら技術開発の成果が海外に流出するリスクにつながる可能性もあるのだ。

 また、外国人の取締役就任規制に関しても、NTT法の第十条で「日本の国籍を有しない人は、会社及び地域会社の取締役又は監査役となることができない」と定めている。このため、NTTやNTT東西は外国人を取締役に就任させられない。グローバルかつ多様な視点でのマネジメントがしづらいほか、IOWNのグルーバル展開にとっても大きな壁となっているという。

 固定電話のユニバーサルサービス制度も規定事項の1つ。総務省は、加入電話(または相当する光IP電話)、公衆電話、緊急通報(110番、118番、119番)及び災害時用公衆電話を日本全国で提供されるべき「基礎的電気通信役務」(ユニバーサルサービス)に位置づけている。NTT法の第三条で「国民生活に不可欠な電話の役務のあまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保に寄与」として定め、NTT東西に全国で提供することを義務付けている。

 つまり、NTT東西は過疎地域を含めて電話網を維持する必要がある。昨今は固定電話の加入数が減り続けている一方、古い固定電話網は設備が大きく維持費も高コストのため、事業として厳しいことは想像しやすいだろう。

通信事業者181者がNTT法の「廃止」に反対

 NTTが見直しを歓迎する一方で、大きく反対の姿勢を出したのが、KDDIやソフトバンクをはじめとした通信事業者、計181者だ。時代に合わせたNTT法の「見直し」は容認、「廃止」には断固反対というスタンスをとった。

 例えば、全国にある4Gや5Gの基地局は、NTT東西が持つ光ファイバー網に接続することで成り立っている。各通信事業者はNTTが持つ「特別な資産」を活用して事業を展開しているのだ。携帯キャリアの場合、NTT法が廃止されてNTTとNTT東西、さらにはNTTドコモが一体化すると、競合のKDDIやソフトバンク、楽天モバイルに不利な接続条件が提示されるなど、競争しにくくなる可能性がある。事業存続のために私たちのスマホの通信料金を上げざるを得ない、という可能性も出てくる。

 島田氏はこの指摘に対し、「(NTT法を廃止しても)グループの再統合はない」と否定。NTTとしても2023年10月、「NTT法のあり方についての当社の考え」という全19ページの資料を公開し、「NTT東西とNTTドコモを統合する考えはない」としている。

 しかし、2023年10月のKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの合同会見でKDDI 代表取締役社長の高橋誠氏は「(島田氏の口約束ではなく)法律に書いておかないといけない。分離分割の方向が閣議で決まっていたにも関わらず、法律に書いていないからとNTTはNTTドコモを完全子会社化してしまった。こういうことをされるので、基本的には法律に残しておかないといけない」。2020年にNTTがドコモを突如子会社化したしたことを振り返り、抑制には法律による明文化が必須という意見を表明している。

 これらを論点とし、2023年後半から各社が説明会や会見、はたまた「X」でたびたび主張を繰り返したのは、読者の記憶にも新しいところだろう。

2024年4月に改正案が成立

 NTT法は紆余曲折を経て、改正案「日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案」が、2024年3月に閣議決定、4月に成立した。研究成果の開示義務を廃止すること、禁止されていた外国人役員の登用を3分の1を超えないかつ代表取締役を除いて認めること、「日本電信電話」(略称NTT)という社名を変更できることなどが規定された。NTTにとって多くの点が緩和されたことになる。

 一方携帯キャリア3社は、改正案に対して強い懸念を表明。焦点は一連の緩和した点ではなく、附則の第四条に「日本電信電話株式会社等に関する法律の廃止を含め」「令和七年に開会される国会の常会を目途として、日本電信電話株式会社等に対する規制の見直しを含む電気通信事業法の改正等必要な措置を講ずるための法律案を国会に提出する」と記載された点にある。

 つまり、2025年の通常国会という1年足らずで提出される法案の中に、今回緩和された以上の「NTT法の廃止」が盛り込まれる可能性が依然として残っているのだ。

 今後どのような議論が交わされ、どういった結論が出るのか。動向に引き続き注意が必要だ。