“脱VMware”ではなく“続VMware”を、オラクルがOCI/OCVSで解決策を提案

AI要約

日本オラクルがOCIで提供するOCVSについての説明会を開催。VMwareユーザーの続VMware支援を強調。

現在のVMware環境で困っている企業にOCIクラウドによる解決策を提供。基幹システムの移行を支援。

OCVSの特徴やメリットを説明。ネットワーク構成やコスト削減、移行事例を紹介。

“脱VMware”ではなく“続VMware”を、オラクルがOCI/OCVSで解決策を提案

日本オラクルが、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)で提供する「Oracle Cloud VMware Solution(OCVS)」についての説明会を開催した。OCVSを通じて、VMwareユーザーの“脱VMware”ではなく“続VMware”を支援していく姿勢を強調している。

 「VMware環境のクラウド移行事例を検索すると、オラクルの事例が最も多くヒットする。ブロードコムによるVMwareの買収前からクラウド移行の案件は増加していたが、2024年2月以降は急増しており、なかでも基幹システムの案件が増えている」(日本オラクル 近藤暁太氏)

 

 日本オラクルは2024年7月9日、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)で提供するマネージドVMwareサービス「Oracle Cloud VMware Solution」についての説明会を開催した。OCIを通じて、VMwareユーザーの“脱VMware”ではなく“続VMware”を支援していく姿勢を強調している。

 

「VMwareユーザーが困っている」現状、OCIクラウドによる解決策

 ブロードコムによるVMwareの買収以降、VMwareを利用している企業にとっては、ライセンスの制度変更や価格上昇が大きな問題になっている。日本オラクル 事業戦略統括 事業開発本部担当シニアマネジャーの近藤暁太氏も、実態として「お客さまと対話をすると、VMwareを利用しているユーザーのほとんどが困っていることが分かる」と証言する。

 

 VMwareとのサポート契約があと数年残っている企業であっても、クラウド移行という可能性まで含めて検討するとなると、時間的な猶予はそれほどあるわけではない。また、小規模なシステムであれば“脱VMware”を図って、クラウドネイティブなプラットフォームへ移行することも考えられるが、大規模な基幹システムの場合は容易ではない。

 

 「基幹系システムの場合は、OpenShiftなど(のクラウドネイティブな環境)に移行するにはコストと期間がかかりすぎる。現時点では『まずはVMwareをクラウドに移行する』という考え方のお客様が多い」(近藤氏)

 

 オラクルでは2020年8月から、OCIデータセンターのベアメタルマシンを利用して、オンプレミスと同等のVMware仮想化環境を提供するOracle Cloud VMware Solution(以下、OCVS)を提供している。ブロードコムによるVMwareの買収以降は、このOCVSのパートナー企業の増加も加速しているという。

 

 「基幹システムのクラウド移行には、システムの中身を熟知しているパートナーの存在が重要だ。お客様の事例を通じて(OCVSの)知見を蓄積するパートナーが増えている。さらに、お客様からの要望によってOCVSのパートナーに新規加入するケース、VMwareは得意だったがオラクルとの接点は薄かったパートナーが参加するケースもある。(オンプレミスのVMwareからの)移行のしやすさ、移行後のクラウドビジネスの拡大などが、パートナーから評価されている」(近藤氏)

 

他社とは異なるネットワーク構成で「そのままクラウドへ移行」が可能

 このOCVSが実現するメリットとして、オラクルは「短期間、低リスクでのクラウド移行」「基幹システムの安定運用」「クラウドを最大限活用」の3つを挙げている。

 

 1つめの「短期間、低リスクでのクラウド移行」は、単純にVMware環境をクラウドデータセンターに用意しているだけではない。AWSやAzure、Google Cloudといった競合クラウドとは異なるネットワークアーキテクチャに優位性があると、日本オラクル 事業戦略統括 事業開発本部担当 シニアマネジャーの近藤暁太氏は説明する。

 

 他社クラウドでは、通常の仮想プライベートネットワークとは別にVMware専用ネットワークが用意され、仮想マシンはそこにデプロイされる。一方で、OCVSでは、顧客の仮想プライベートネットワーク内にVMware環境もデプロイされる。また、VMware環境のすべての要素(サーバーやアプライアンス、ハイパーバイザ、VLAN、セキュリティ)に対して顧客が管理権限を持つ点も、他社にはない特徴だという。

 

 こうした特徴があるため、オンプレミスのネットワーク構成や設定を大きく変えることなく、低リスクかつ短期間での移行が可能になる。また、トランザクションが多い場合や複数アプリケーションが稼働している場合でも、低遅延で安定した稼働が実現する。サードパーティ製ソフトウェアの中には、VMware環境の管理権限がないと導入できないものもあるが、こうした問題も生じない。

 

 またOCVSのノードを構成するサーバー(ベアメタルマシン)は5種類が用意されており、最小36コア(12コア×3ノード)構成からスモールスタートして、最大8192コア(128コア×64ノード)構成までスケールアップできる。GPUサーバーもラインアップしており、VMware環境をVDIに利用する際にもメリットがあると説明する。

 

 オンプレミスのVMware環境とネットワーク接続したハイブリッド構成の場合、アウトバウンドのデータ転送コスト(エグレス料金)が問題になるが、OCIはそれが安いことも特徴に挙げた。閉域網接続の場合、接続ポート料金が1Gbpsあたり月額1万8972円かかるものの、データ転送料自体は無料だ。またインターネット経由の場合、データ転送料は月間10TBまで無料、それを超えた場合も1GBあたり3円と、他社の3分の1以下の料金設定としている。

 

 現在のVMwareでは、将来的なライセンス価格の変動も懸念点となっている。しかし、OCVSの利用料金にはVMwareのソフトウェアライセンス料金が含まれている。日本オラクル 事業戦略統括 事業開発本部長の佐藤裕之氏は、OCVSでは1年間、3年間といった長期間の価格の固定化が可能であることを紹介し、価格変化に伴うコストリスクを軽減できることを示す。

 

基幹システムの安定運用を維持しつつ、クラウドネイティブへの移行も

 2つめの「基幹システムの安定運用」では、前述したとおりVMware環境への完全な管理権限を持つため、顧客自身がパッチやバージョンアップのタイミングを制御できる。加えて、既存の(オンプレミスでの)運用手法やツールもそのまま活用できること、本番環境と同じ構成とサイズでテスト環境を構成できることなども、安定運用を実現するうえで有益だと語る。

 

 「OCVSでは、オンプレミス環境に合わせたアップグレードやパッチ適用が可能だ。そのため、オンプレミス環境とのバージョン違いによってソフトウェアが動作しなくなってしまうといった問題発生のリスクを下げることができる」(近藤氏)

 

 OCIがもともと備える冗長化の仕組みも、安定稼働にメリットをもたらすと説明する。OCIでは、データセンター内を3つの独立した「障害ドメイン(FD)」に分割し、VMwareクラスタは複数のFDに分散して構成されている。そのため、ユーザー自身で対策を取らなくても標準でハードウェア障害に対応する。さらに、国内に複数のリージョンを持ち、国内だけでDR(災害対策)サイト構成による高い可用性が実現できる点もメリットだと語る。

 

 3つめの「クラウドを最大限活用」については、前述したフラットなネットワークにVMware環境を配置し、さまざまなクラウドサービスともシームレスに接続できる点を挙げた。これにより、クラウドサービスと高速かつ安定して接続できるほか、クラウドネイティブなシステムへの拡張や移行、さらにはインターコネクト接続を提供する他社クラウド(Azure、Google Cloud)へのシステム拡張も容易だとする。

 

 OCVSは、世界49カ所にあるOCIのパブリックリージョンすべてで稼働する。さらに佐藤氏は「パブリックリージョンだけでなく、『Oracle Dedicated Region Cloud@Customer』や『Oracle Alloy』といった(顧客/パートナー専有リージョンの)分散クラウドでも稼働させることができる」と説明した。

 

 クラウド移行を支援するサービスは、移行計画フェーズを無償で支援する「Oracle Cloud Lift Services」のほか、計画から設計、構築フェーズを支援する「Oracle Consulting Services」、構築および移行フェーズ以降を支援する「Oracle Customer Success Services」を用意している。佐藤氏は「多くの移行実績をもとにナレッジを蓄積しており、パートナーとの協業も強化している」と語る。

 

オンプレミスVMware環境のOCVS移行事例を紹介

 OCVSの国内導入事例も多数紹介した。

 

 1380店舗のドラッグストアチェーンを展開するサンドラッグでは、店舗数の増加に伴ってオンプレミスVMware環境のリソーズ増強が追いつかなくなり、クラウド移行を検討していた。他社クラウドのVMwareサービスを利用する場合、OSやミドルウェアの制約から移行時に大幅なアプリケーションの再構築必要だったが、ユーザーがVMwareの管理権限を持てるOCVSを使うことで、アプリケーションの再構築なしで、短期間で移行できたという。クラウドのスケーラビリティによって、新店舗が増えても簡単にストアシステムがデプロイできるメリットも生まれているという。

 

 大日本印刷では、仮想サーバーと統合データベースで構成する大規模基幹システムをクラウドへ移行した。OCVSを活用して、販売管理や在庫、原価、会計など、700以上の仮想サーバーを、オンプレミスと同じアーキテクチャや管理性を維持しながらクラウドへ移行。さらに、統合データベース基盤を「Oracle Exadata Database Service」に移行して、オンプレミスよりも高い性能や可用性、データセキュリティを実現しながら、コスト最適化を図った。東京/大阪リージョンを活用したDR構成も構築している。

 

 日立建機では、約500のアプリケーションサーバーと約100のデータベースで構成される大規模基幹システム基盤を、オンプレミスのVMware環境からOCVSへ移行(2024年8月中に移行完了予定)。その結果、運用コストは20%削減され、同時に各種パフォーマンスは最大50%向上した。本番環境と同じサイズの検証環境をクラウドに用意したことで、短期間での移行も実現したという。

 

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp