ウォーターフォール型の臨床試験をデータ&AIで変える ― セールスフォースが製薬・医療機器向けCRM

AI要約

セールスフォースは、営業やサービス、マーケティング部門にだけではなく、各業界に特化したCRMであるIndustry Cloudを展開している。新たに製薬・医療機器メーカー向けのCRM「Life Sciences Cloud」を提供開始。

具体的には、臨床試験の効率化やデータ活用に焦点を当てたCRMサービスを提供。さらに公共機関向けのCRM「Public Sector Solutions」も始動。

業界特有の機能やデータモデルが標準搭載され、価値創出までの時間やTCOを削減。共通機能も30個以上提供しており、様々な業界に展開可能。

ウォーターフォール型の臨床試験をデータ&AIで変える ― セールスフォースが製薬・医療機器向けCRM

セールスフォースは、営業やサービス、マーケティング部門にだけではなく、各業界に特化したCRMであるIndustry Cloudを国内展開している。新たに提供開始したのが、製薬・医療機器メーカー向けのCRMである「Life Sciences Cloud」だ。

 セールスフォースは、営業やサービス、マーケティング部門にだけではなく、各業界に特化したCRMである「Industry Cloud」を国内展開している。対象としているのは、金融や製造、消費財、自動車、教育、ヘルスケアなどの領域だ。

 

 そして、2024年7月12日に新たに提供開始したのが、製薬・医療機器メーカー向けのCRMである「Life Sciences Cloud」である。加えて、2024年6月には、公共機関向けのCRM「Public Sector Solutions」の全アプリケーションを提供開始した。

 

 Industry Cloudに関する記者説明会にて、セールスフォース・ジャパンの執行役員 ソリューション統括本部 インダストリーアドバイザー本部 本部長である國本久成氏は、「Life Sciences Cloudで臨床試験の領域に初めて食い込んでいく。画期的な新薬や医療機器を、一日でも早く患者に届けられるよう支援したい」と語った。

 

臨床試験をデータ&AIでアジャイル化する、製薬・医療機器メーカー向けCRM「Life Sciences Cloud」

 セールスフォースは元々、医療機関や保険会社、公衆衛生といったヘルスケア領域向けのCRMを提供してきた。ここに新たに加わったのが、製薬、医療機器といったライフサイエンス領域向けのCRMだ。「ライフサイエンス業界では、現在、患者と医療関係者という2方向の顧客に対するエンゲージメントを、AIを活用して進化させていく必要がある」と國本氏。

 

 ライフサイエンス向けの「Life Sciences Cloud」は、臨床試験や医療情報の管理から患者サービス、医療機器CRMなど、製薬、医療機器メーカーに特化した機能があらかじめ備わっている。

 

 記者説明会で特に強調されたのが、被験者の募集に多大なコストが発生する臨床試験向けの機能だ。被験者の募集には推定18.9億ドルものコストが発生しているうえ、治験の80%では必要な被験者が集まらず、スケジュールの延長を余儀なくされているという。加えて、「臨床試験はウォーターフォール型で運用されているため、トラブルがひとつ発生すると病院との契約からやり直すことになり、多大な時間がかかるのが現状」と國本氏は指摘する。

 

 そこで登場するのが、データとAIを用いることで臨床試験のアジャイル化を推進する、Life Sciences Cloudの「Clinical Excellence Platform」だ。同基盤では、電子カルテのデータから治験施設をAIで選定するといった、データ主導の臨床試験を実現する機能に加えて、被験者の参加を効率化するための機能を備えている。

 

 被験者側と医師側の双方が、臨床試験に関する情報を得られる“リクルートポータル”が用意され、被験者を管理できるだけではなく、治験の同意取得もデジタル化される。データとAIを用いて、被験者が臨床試験に適合するか判定する機能も2024年10月にリリース予定だ。適合した被験者を審査・評価する機能も備え、無作為に治験を割り当てる“ランダム化”にも対応する。

 

 國本氏は、「データとAIによるアジャイルな臨床試験が日本市場に広がると、日本政府や厚生労働省が取り組む、ドラッグ・ラグやドラッグロスの解決の一助になる」と強調した。

 

行政サービスを支援する8つのアプリケーションを備えた公共機関向けのCRM「Public Sector Solutions」

 もうひとつ、Industry Cloudとして本格展開を始めるのが、公共機関向けのCRM「Public Sector Solutions」だ。

 

 Public Sector Solutionsの特徴は3つある。ひとつは、行政サービスのワークフローをデジタル化するアプリケーションを提供すること。2つ目は、これらのアプリケーションが、公共機関に特化されたデータモデルとコンポーネントで構築されていること。そして3つ目が、UIや各種法令対応のロジックなどをノーコード・ローコードで構築できることだ。

 

 「これらの機能を活かすことで、DX本来の目的を達成するための本質的な業務に時間とリソースを割くことができる」と常務執行役員 公共ビジネス開発本部 本部長である今井早苗氏。

 

 行政サービスを支援するアプリケーションとしては、すでに、免許や事業者の許認可を受付・発行する「許認可管理」、検査・査察を管理する「検査管理」の2つを、2023年から国内提供している。

 

 これに加えて、2024年の6月より、給付を受付・支給する「給付管理」、助成金を審査・管理する「助成金管理」、内部事務のワークフローをデジタル化する「職員ポータル」、事業者を管理・マッチングする「事業者管理」、住民などからの問い合わせに対応する「コンタクトセンター」、保健福祉などの支援に対応する「ソーシャルプログラム」といった6つのアプリケーションを提供開始した。

 

 これらのアプリケーションは基本的にはグローバル共通の機能であるが、ノーコード・ローコード基盤を活かしてカスタマイズしたり、国内パートナー企業の提供するアプリケーションを用いて、日本特有の要件にも対応できる。

 

 公共機関において重要視されるセキュリティやコンプライアンスにも対応する。各国の監査・認証はもちろん、日本においても「CSゴールドマーク」や「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」を取得している。

 

強みは業界特有の機能・データモデルがすぐに使えること、共通機能も増加中

 セールスフォースは、これまで「Customer 360」として展開するアプリケーション群のひとつとして、業界特化のCRMを展開してきた。今回、金融や製造、消費財、自動車、通信、メディア、教育、ヘルスケア、ESG経営やロイヤルティプログラム向けのCRMに加えて、新たにライフサイエンスと公共機関のCRMが拡充されたことになる。

 

 インダストリークラウドの強みは、対象領域の顧客がこれまでカスタマイズしてきた業界特有の機能やデータモデル、規制への対応が、標準搭載されていることだ。これにより、カスタマイズが不要になり、価値創出までの時間やTCO(総保有コスト)を削減することができる。

 

 これらの業界特化の機能は、Customer 360を支えるデータやAI、CRM、開発、セキュリティの仕組みを統合した包括的なプラットフォーム「Einstein 1 Platform」上で提供される。

 

 また同社は、特定業界のベストプラクティスを他のIndustry Cloudに、共通機能として横展開することに注力してきた。この共通機能は、年々増加しており、現在は30個を超えているという。

 

 例えば、OmniStudioは、通信や金融領域で利用されていた機能で、ノーコードで動的なUIを作成できる。Business Rules Engineは、ロイヤルティプログラム向けCRMでポイント処理をするために生まれたが、今では他の業界でも、組織ルールを定義するために利用されている。

 

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp