「日台ハイテク産業協力は王道から」 エイサーグループ創業者・施振栄氏が日本で訴えたかったこと

AI要約

台湾のエイサーグループ創業者、施振栄氏が東大で講演し、日台ハイテク産業協力の重要性を訴えた。

施氏は王道の考え方から出発し、価値を創造することで新たなチャンスが生まれると強調した。

日台のハイテク産業協力においては垂直分業の重要性があり、施氏はそのメリットや過程について具体的に説明した。

「日台ハイテク産業協力は王道から」 エイサーグループ創業者・施振栄氏が日本で訴えたかったこと

世界的なパソコン・関連機器メーカーとして知られる台湾のエイサー(宏碁股份有限公司)グループ創業者、施振栄(スタン・シー)氏(79)がこのほど来日し、東大で講演した。施氏は半導体などの日本と台湾のハイテク産業協力の推進について「王道の考え方から出発し、ともに価値を創造することで、垂直分業への産業パラダイムシフトがもたらす新たなチャンスをつかむべきだ」などと訴えた。

講演は東京大学協創プラットフォーム開発会社と台湾の陽明交通大学ヒマラヤベンチャーキャピタルが6月21日、東大・本郷キャンパスの山上開会で「王道の考え方で日台協力の新たな機会をつかむ」をテーマに開催した「スタン・シー東京フォーラム2024」の中の基調講演として行われた。

施氏は1944年、台湾中西部の彰化生まれ。台湾の交通大学で電子工学を学び、修士を取得後の1976年にエイサーを起業。パソコン・関連機器メーカーとして世界的企業に成長させた。現在はグループ名誉会長をはじめ、自身の財団を中心に積極的な慈善活動などを展開している。

日台のIT関係者ら約160人の聴衆を前に登壇した施氏は、「グローバルな起業家精神『王道』が切り拓く新たな可能性」と題し、日台のハイテク産業協力の推進には、力や競争で目先の利益を追う覇道ではなく、互いの特性を認め活かし合あった「王道の考え方から出発することが重要」だと訴えた。

また、これを推進するリーダーが持つべき「三つの核心信念」として、「価値創造」「利益のバランス」「持続可能な経営」を提唱。 王道の観点から創造される価値には、「有形」「直接」「現在」の顕在価値だけでなく、「無形」「関節」「未来」という潜在価値も加えた「六つの価値観」を重視する必要がある、などと訴えた。

さらに施氏は、日本の産業が1980年代に、製品やサービスを作る際に外注していた工程を自社で実施できるようにするために企業買収や提携で会社を統合する「垂直統合」モデルで国際社会から「世界一」の称号を得ていたものの、その時点で台湾ではすでに、PC分野のエイサー、半導体分野のTSMC(台湾積体電路製造)などが、それぞれのレベルに応じた分野の異なる商品の生産を行ない、相互に交換、補完しあう「垂直分業」へとパラダイムシフト(発想転換によって市場を変化させる)へ舵を切っていた実例を紹介。

実際にエイサーでは1983年に自社ブランドPCを発売し、同時にOEM(他社ブランド製品)製造も開始。TSMCも1987年にウエハー製造サービスを専門とする革新的ビジネスを開始しており、1991年、米国の経営学誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」では、「コンピュータを作らないコンピュータ会社」や「ファブレス(工場を持たない)の半導体会社」が主流になると記事を掲載し、今日の状況を見通していた。

加えて施氏は「コンピューター産業は20年の発展を経て現在のトレンドが確立された」と語り、さらに「半導体産業は30年の発展を経て、なおも進行中であり、現在ではファブレスの半導体会社工場を抱える半導体会社よりも優位に立つ状況になっている」と指摘。 また、日本と台湾の今後の協力の新たなチャンスについて「グローバルな産業のもとで、革新性、スピード、柔軟性、コスト競争力といった競争優位性があるが、市場の観点からするとサプライチェーンには統合が必要であり、“バーチャル垂直統合者”としての役割を果たすべきである」との持論を述べ、「日台は今後この重要な役割を担い、グローバルなAIサプライチェーンに貢献することがきる」と確信を語った。

実際にエイサーがこれまで関連産業にどのような貢献をしてきたかについて施氏は、「無形の貢献が有形の貢献を上回る」「エイサーのグロバールブランドとしての知名度を通じ、“台湾製造”の国際的なイメージを大きく向上させ、台湾のハイテク産業のバリューチェーン(価値連鎖)の発展をリードし、推進してきた」とし、その過程でエイサーが台湾の人材育成に貢献した面も強調した。

「垂直統合から垂直分業へ」。このパラダイムシフトの過程での重要なポイントは「最も弱い部分が全体を制約する」ということであり、施氏は「サプライチェーンの各分業段階では世界最先端のパートナーを見つける必要がある。そうでなければ全体の競争力に影響を及ぼす」とまとめた。

最後に 施氏は自身の近況についても話題を広げ、エイサーからは退職したものの、「困難に挑戦し、ボトルネックを突破し、価値を創造する」をモットーに、各種財団などでの活動を通じて、「台湾の文化、芸術、技術が世界を魅了する」を目標に、個人として社会的責任を果たすべく努めていることなども明かした。

この日は、東大特別教授(工学博士)で熊本県立大学理事長の黒田忠広氏が「半導体超進化論」、日本先端工科大学特別顧問(情報学博士)の西和彦氏が「PCとスマホの次はIoTとスマートTV」と題して講演。続いて講師3人と、台湾のIT産業アナリストで最近日本で「TSMC世界を動かすヒミツ」を出版した経済ジャーナリスト、林宏文氏によるパネルディスカッションも行われ、これからの日台ハイテク産業協力の可能性について活発な議論も行われた。

聴衆のひとりで、台湾での長い勤務経験があるという元商社勤務の男性は、「日本と台湾、双方の社会は価値観が似ており、互いの産業の長所を持ち寄ることで短所が補い合えるという考え方には大いに納得させられた」と語っていた。