15年の苦闘と発見、やまもとしんじ氏が語る絵本作家のリアル

AI要約

イラストレーター/絵本作家のやまもとしんじが新作絵本『スーパーマーケットはなまる』を発売。豊かな表情の食品たちが描かれたメルヘンチックな作品に注目集まる。

やまもと氏は絵本作家になるきっかけや苦労、収入などを率直に語る。絵本作家の厳しさについても触れる。

やまもと氏の新作は約4カ月で完成。食育をテーマに、2000キャラクターを手書きで描いた作品。ディズニーからの影響やAIに対する危機感も明かす。

15年の苦闘と発見、やまもとしんじ氏が語る絵本作家のリアル

 イラストレーター/絵本作家のやまもとしんじが30日、新作絵本『スーパーマーケットはなまる』を発売。スーパーマーケットに行きたくなるお菓子や野菜などの“食品たち”が表情豊かに描かれたメルヘンチックな作品で、今にも動き出しそうな緻密な世界観で注目を集めている。やまもと氏は、平面作品をはじめ、auやチューリッヒのTVCM、NHK「おかあさんといっしょ」「ニャンちゅうワールド放送局」のオープニングなど雑誌や子供番組、CMなどの場でオブジェ制作やキャラクターデザインも手掛ける。2008年にさがしもの絵本の出版をきっかけに絵本作家としての活動をスタート。近年では、『ONE PIECE』や『手塚治虫氏の名作』とのコラボ作品も手掛けている。記事では、新作となる『スーパーマーケットはなまる』について、やまもと氏の絵本作家としての姿勢や生活に迫った。【取材・撮影=村上順一】

 やまもとしんじ氏は、もともと絵本作家になろうと思っていたわけではなかったという。日本大学芸術学部を卒業し、在学中からイラストレーターとして仕事を開始。その流れで卒業後もフリーランスのイラストレーターとして活動を始めた。営業周りを自分で行い作品を出版社に持ち込んでいたところ、ある1社から「絵本にしないか」という提案があり、そこからスタートした。また、デビュー作の完成には3年を要したという。

 この約15年を振り返るやまもと氏。

 「楽しいことと苦しいことを比べてみると、大半が苦しいことばかりでした」と話す。その理由は「絵本だけで仕事として成立させてやっていくというのは一握りの人しかできないと思います。僕自身もうまくいかないこと続きでした。その中でめげずに続けていくことがすごく苦しくて」と吐露。

 15年続けてこられた理由として、「絵本を描いていて、『これを最後にしよう』と思うことも多かったのですが、出版すると読者さんからのお声がものすごく励みになって、それが次のモチベーションに繋がりました。また、僕自身が絵を描く仕事を辞めた後に何をするのかと冷静になって考えたとき、自分は絵を描くことしかできないということに何度も直面することがありました。改めて絵を描いているときに心地良さを感じていたので、 苦しさもありつつも、『自分はこの作業をやっているときが一番いいんだ』と感じられたので、続けてこられた要因の一つだと思います」と述べた。

 ズバリ絵本1冊を完成させるとどのくらいの収入になるのか聞いたところ、部数によって変わるところもあるが、初版平均が3000部~4000部と想定すると、おおよそ40万円くらいだという。ただ絵本以外で想定外の出来事もある。やまもと氏の絵を使用したジグソーパズルが海外で販売されており、半年間で3000万円の売り上げがあった。やまもと氏の描く絵は海外での需要も大きく、「どんどん海外にもアピールできたらと思っています」と意欲を覗かせた。

 また、「絵本作家になりたい」という相談が来たらどのようなアドバイスをするのか、という質問に、「僕の経験上だと絵本作家はお勧めはしないです。本当に仕事として成立させるのが難しい世界だと思いますし、生活の大半を注ぎ込まないとできない仕事だと感じています。作り手側はかなりの覚悟がないと...絵を描くことに1日を捧げている人生」と絵本作家の過酷さを語った。

 8月30日に発売された新作『スーパーマーケットはなまる』は、約4カ月という短い期間で完成させた。

 “さがしもの絵本”という様々なキャラクターなどを見つける楽しさがある本作。登場する約2000キャラクターを手書きで描いた圧巻の作品になっている。この中には本作の帯にコメントを寄せたハリセンボンの近藤春菜と箕輪はるかが、おにぎりとけん玉のキャラクターとして登場している。

 両親がレストランをやっていたこともあり、食べ物を描くことが好きだったというやまもと氏。

 好きなことを活かして、子どもたちに食育をテーマにしたものを伝えていきたいという。そのなかでこだわっているのが、一つひとつの食べ物をかわいく描くだけではなく、リアルな質感に寄せること。現実世界の食べ物とリンクしやすいように心がけていたと話す。また、限られた時間の中でどうやってクオリティーを落とさず仕上げられるのかが課題でもあったと苦労したところを語った。

 カラフルで生き生きとした絵のスタイル、人を魅了する秘密について尋ねると、ディズニー作品から影響を受けているというやまもと氏は、「ディズニーは見た目だけではなくて、そのキャラクターの持つユーモアさ、キャラクター性など目に見えない面白さがすごくあるなと思いました。また、ディズニーランドとかに行くと、人を楽しませるためにはどういう魅せ方がいいのか、オブジェやショーなどからも学ぶところがあるので、 ビジュアルだけから影響を受けるのではなくて、目に見えないエンターテインメント性を汲み取るようにしています」と考え方を語った。

 また、近年話題となっているAIが作り出す作品をどのように感じているのか聞いてみると、「ものすごく危機感を感じているところもあります」と話す。それは3Dプリンターが登場した時に感じたものと近いという。「僕はオブジェとか、CMなどで立体を作るお仕事もやっていたのですが、それも全てアナログで作っていたので、3Dプリンターが登場したときは、目に見えて仕事が減ったと肌で感じていました。今後AIが人が描いた温かみなどを学習して、どんどん発展していくと、作家の存在が危ないと感じています」と語った。

 どのようにAIと付き合っていきたいか、という問いに「僕はアナログ人間なので、まだ付き合い方は全然わからないです(笑)」と心境を述べた。

 自身の夢、目標についての質問に、「街中で絵を見たら『あの人の作品だ!』とすぐに認識してもらえるようになりたいのと同時に、皆さんの生活のそばに寄り添えるようなキャラクターやアートをこれからどんどん生み出していけたら」と意気込みを語る。また、同じ事務所に所属するベッキーの大ファンだというやまもと氏。もう一つの夢として、「ベッキーさんの歌を聴きながら絵本を書くことが多いんです。目線を変えるとベッキーさんの曲の歌詞が、絵本のような世界に感じることもあります。この歌が絵本のタイトル曲になったらすごくいいなとか、この曲はとても絵本にマッチしているなと感じるところがあるので、いつかコラボレーションできたらという大きな夢もあります」と笑顔を覗かせた。