新しい音楽が次々に生まれた80年代の熱伝える一冊 田家秀樹さんが新刊

AI要約

 1980年代に輝いた大滝詠一、松任谷由美、サザンオールスターズなどのアーティストを振り返る1冊。編年体で熱が伝わり、シティポップブームを考察。音楽業界全体の勢いや時代性も紹介。

 松田聖子やサザンオールスターズなどアーティストごとに、音楽の変遷や洋楽への影響を分析。当時の音楽シーンの魅力を存分に伝える。

 ノスタルジーではなく、現代の音楽状況との対比を通じて80年代音楽の意義を問う。次に続く90年代音楽ノートへの期待もある。

新しい音楽が次々に生まれた80年代の熱伝える一冊 田家秀樹さんが新刊

 大滝詠一、松任谷由実、サザンオールスターズ-きら星のように輝いた1980年代のアーティストたちを、当時の言葉と音盤とライブから今によみがえらせた1冊。著者が「70年代に芽生えた音楽が一つのジャンルとなり、メジャーになって一気に花開いた10年間」と表現する80年代の熱が全ページから伝わる。

 今「80年代に全盛だったシティポップ」がブームだ、という。だけど当時を知る音楽評論家として一家言ある。「全盛ではないでしょう。全然売れてませんでしたからね。でもシティポップを始め、新しい音楽が次々に生まれたすごい時代だったのは確かです」

 編年体でつづるエポックは「すごい80年代」を裏書きする。松本隆と財津和夫が組んだ松田聖子「白いパラソル」は、「あっち(歌謡曲)側」と「こっち(フォーク、ロック)側」の垣根が消えたことの証左。サザンのアルバム「KAMAKURA」を聴けば、シンセサイザーに代表されるデジタルサウンドの浸透と拡散が分かる。矢沢永吉の渡米から、洋楽は「あこがれ」から「格闘相手」に変わったことが読み解ける。

 「音楽業界全体に『俺たち何でもできるんだ』みたいな勢いがありました。ちょうど私は放送作家から音楽ライターに軸足を移したころ」。最前線で勢いを実感した。「経済も上り調子。音楽もまた日本社会の姿を映し出していました」

 個人的には吉田拓郎のつま恋オールナイト公演に行ったこと、大滝の「ア・ロング・バケーション」をCDで買ったこと、「夕やけニャンニャン」のエンディングでザ・ブルーハーツの「キスしてほしい」が流れていたことを思い出して懐かしくなる。しかし著者はノスタルジーの先を見つめる。「対極に現在の音楽状況があります。ヒットはユーチューブの再生回数で測られ、サブスクリプションの普及は曲から時代性を奪い、ミュージシャンのメッセージが細分化される一方、若者は膨大な音楽の知識を簡単に手にする。そんな今、80年代を振り返り、語ることが何を意味するか。考える契機になれば」

 本書は2011年に出た「70年代ノート」(毎日新聞社)に続くJ-POPクロニクルの1冊。さあ次は、ミリオンヒットが連発した「90年代音楽ノート」だ。 (塩田芳久)

(ホーム社・1870円)