世界の政治状況を読み解くヒントがある? Netflix『旋風』にハマること間違いなし

AI要約

アメリカ大統領選の中で起こったトランプ前大統領の銃撃事件には驚いた。現実がフィクションを凌駕するような出来事はいつでも起こり得る。政治サスペンスドラマ『旋風』は、大統領の暗殺を巡る首相と副首相の壮絶な闘いを描いた注目作で、韓国では人気を博している。

主演の名優ソル・ギョングが魅力的な演技を披露し、政治ドラマ好きにはたまらない展開が続く。大統領の裏切りや友人の死といった私的な要素が絡む復讐劇、そして最後まで読めない結末が見どころ。

豊富な政治背景やエピソード、政治とは何かを考えさせる名台詞が散りばめられており、政治ドラマ初心者からも楽しめる一作だ。

世界の政治状況を読み解くヒントがある? Netflix『旋風』にハマること間違いなし

 アメリカ大統領選の中で起こったトランプ前大統領の銃撃事件には驚いた。だが、現実がフィクションを凌駕するような出来事はいつでも起こり得る。そんな世界の政治状況を考えるうえでぜひ観ておきたいのが、Netflixオリジナルの韓国ドラマ『旋風』だ。

 本作は、政界を正すため大統領の暗殺を決心した首相と、不正に手を染め権力を掌握しようと企む副首相の壮絶な闘いを描いていく政治サスペンス。6月28日に配信開始後、日本のNetflixのTV番組TOP10には何度かランキング入りしただけだったが、韓国ではずっと人気が衰えず今もランキング上位をキープし続けている。

 韓国エンタメは、政治を面白く描く手腕に長けている。『補佐官』『サバイバー:60日間の大統領』など、Netflix作品には本作以外にも政治ドラマの秀作がある。昨年は、映画『ソウルの春』(日本では2024年8月23日から公開)が韓国国内で大ヒットを記録した。この映画は韓国現代史の1ページである軍事反乱を扱った作品で、純粋に政治闘争だけが描かれるわけではないものの、政治ドラマを受け入れる土壌が韓国社会に備わっていることが、ヒットの要因のひとつであるように思う。

 韓国映画界の名優ソル・ギョングが約30年ぶりに韓国ドラマに出演したことでも大きな話題を集めた『旋風』は、そんな政治ドラマ好きの韓国の大衆の胸を熱くさせた一作である。

 物語は、ソル・ギョング演じる首相パク・ドンホが、長年仕えてきたチャン・イルジュン大統領の不正を暴こうとするも、逆に検察に訴追されてしまうところから始まる。ドンホは、大統領が作る未来がこの国の歴史になってはいけないという信念から、大統領の暗殺を決行しようとする。それをいち早く察知した副首相のチョン・スジンは、自身が追及されることを免れるため、大統領の権限が首相のドンホに渡らないよう画策。2人の熾烈な闘いの幕が切って落とされることになる。

 副首相のチョン・スジンを演じるのは、Netflixドラマ『クイーンメーカー』での敏腕フィクサー役が記憶に新しいキム・ヒエ。ソル・ギョングが映画『キングメーカー 大統領を作った男』に出演しているため、韓国では「キングメーカー×クイーンメーカーの闘い」とも言われた。

 劇中の2人の闘いは、とにかく果てしなく、それが大きな見どころでもある。ドンホもスジンも、大きな目的のためには、敵とも悪とも平気で手を握り目の前の問題を片づける。もうこれが最後だと思ったところで覆り、二転三転どころじゃない展開が繰り広げられていく。

 物語の大きなポイントとなるのは、長年尊敬していた大統領の裏切りと、ドンホの検事時代の友人の死。主人公の私的制裁が公の利益にもなる復讐政治劇ともいえるが、はたして最後に勝つのは、ドンホなのか、スジンなのか……? 衝撃の結末が待ち受ける。

 最近、韓国ドラマでは、最悪な状況を救ってくれるヒーローが、さまざまな形で登場する。それは特殊な力をもつ超能力者のこともあれば、法を逸脱して助けるダークヒーローのこともあるが、『旋風』の場合は、悪を根絶しようと危険な賭けに出る破天荒な政治家ドンホだった。韓国社会が、正攻法では戦えない現状を憂い、そうした救世主を待ち望んでいるのだろうか。翻って、日本社会はどうだろうか。

 本作の脚本を担当したのは、韓国では権力3部作と呼ばれる『追跡者 チェイサー』『黄金の帝国』『パンチ~余命6ヶ月の奇跡』を手掛けたパク・ギョンス。『耳打ち~愛の言葉~』以来、7年ぶりの復帰作だが、これまで数々の骨太サスペンスを世に送り出してきた老練な脚本家だけに、最後まで濃密だ。政治ドラマに慣れていない視聴者も、緊張感あふれる緻密な展開に思わず飲み込まれてしまうだろう。また、『聖書』や『三国志』になぞらえたエピソードや、政治とは何ぞやと考えさせる名台詞も多く、政治ドラマ好きなら思わずメモをとってしまいたくなるはず。

 軍事独裁政権時代の影響や北朝鮮との関係が随所に描かれ、韓国の政治背景が垣間見られるのも、本作の興味深いところだ。韓国は1960年代から1980年代まで約25年間、軍事独裁政権が続いたが、劇中でドンホの宿敵となる副首相のスジンはその中で闘っていた元民主化運動家という設定である。また、保守派の政治家が北朝鮮と関係があり、それを利用するという描写もある。

 観れば観るほどハマる奥深い政治ドラマ『旋風』。どこの国も、政治の裏側は複雑である。世界の激動の政治状況を読み解くヒントが、ここにあるかもしれない。