ごく稀に起こりうる心臓内の感染症…感染性心内膜炎~『ブラックペアン』監修ドクターが解説 vol.20~

AI要約

小春ちゃんが再手術を受ける過程や手術中の問題について解説。

中隔の感染巣を切除する手術の詳細や、手術中に起きた出血の問題について説明。

手術後の渡海先生の処置や関川先生の姿勢について触れる。

ごく稀に起こりうる心臓内の感染症…感染性心内膜炎~『ブラックペアン』監修ドクターが解説 vol.20~

二宮和也主演で6年ぶりに日曜劇場に帰還する『ブラックペアン シーズン2』。シーズン1に引き続き、医学監修を務めるのは山岸俊介氏だ。前作で好評を博したのが、ドラマにまつわる様々な疑問に答える人気コーナー「片っ端から、教えてやるよ。」。シーズン2の放送を記念し、山岸氏の解説を改めてお伝えしていきたい。今回はシーズン1で放送された5話の医学的解説についてお届けする。

※登場人物の表記やストーリーの概略、医療背景についてはシーズン1当時のものです。

■小春ちゃんの再手術

5話の最終解説は小春ちゃんの再手術です。

小春ちゃんは僧帽弁手術を新形スナイプによって行い、無事に終了したかと思いきや、中隔に感染が見つかり再手術となりました。

中隔は心房中隔の事で、小春ちゃんは生まれつき中隔に欠損があり、そこからスナイプで僧帽弁に到達し僧帽弁置換術を行いました。以前の解説でも書きましたが中隔の欠損のことを心房中隔欠損と言ったりします。カテーテルによる塞栓術や手術による閉鎖術が可能で、安全に行えます。

中隔をスナイプにより閉鎖したものの、その栓がゆるみ、そこに細菌がくっつき感染したとのことですが、中隔欠損のカテーテル手術でこのようなことが起こるという事は非常にまれですのでご安心ください。

心臓の中に感染症がおこる、細菌が繁殖するということは、心臓の中に何かしらの構造異常があり、血液の乱流がおこらないとほとんどおきません。感染性心内膜炎というのですが、この病気になる人はほとんどもともと弁の逆流があったり、中隔に穴などが開いていると言われます。

中隔の細菌が繁殖したところ(感染巣と言います)を切除するために、ダーウィンによるロボット手術を行います。ロボット手術は皮膚を切る大きさも小さくて済みますので出血はかなり少なく抑えられ、輸血困難な小春ちゃんにも手術ができる可能性があります。

帝華大の松岡先生は人工心肺を回してダーウィンで右心房を開けて中隔の感染巣を切除するのですが、突然アームが動かなくなり中隔の感染巣周囲から出血してきてしまいます。通常は人工心肺が回っていれば、出血しても吸引して人工心肺に血液を集めて、再度、体に戻せますのでほとんど問題はございません。

以前も書きましたが、心臓の中の手術(弁の手術や中隔の手術)は、人工心肺を回した後に大動脈を遮断して心臓の中の血液をすべて吸引して、血液が心臓の中にない状態(無血野:むけつや)にして手術を行います。

今回はダーウィンのアームが干渉して、大動脈を遮断している鉗子がずれて、大動脈から心臓に血液が漏れてきてしまい、大動脈→左心室→左心房→中隔→右心房と血液が漏れてきてしまったという事です。よく大動脈の遮断が甘いというような表現をするのですが、大量に血液が漏れてしまうと、人工心肺にすべて吸引できませんので血液はどんどん失われてしまいます。

映像でも少し写っていましたが渡海先生は大動脈の遮断をし直します。そこで超高速で処置をするのですが、渡海先生がいままで行ってきた手術に比べると今回の手術はそこまで難しい手術ではありません。中隔の感染巣を切除して、そこを縫合、その後右心房を縫合する手術でした。ただ時間的制約があり、関川先生、垣谷先生を叱咤しながら東城大パワーを見せつける形となりました。

5話もいろいろかっこいいシーンがありましたが、小春ちゃんの手術を終えた後の「後やっといて」と言って関川先生と垣谷先生を左手人差し指で指さすところはかなりしびれました!