『光る君へ』吉高由里子の微笑みに込められた喜びと悲しみ まひろをめぐる“2人の男”の愛

AI要約

まひろと道長、まひろと宣孝の深い愛を感じる回で、2人の関係性や思いが描かれる。

道長と再会した際のまひろの複雑な気持ちや距離感、道長との再燃する愛情が描かれる。

宣孝との復縁、まひろの懐妊により、まひろと宣孝の愛情表現や絆が描かれる。

『光る君へ』吉高由里子の微笑みに込められた喜びと悲しみ まひろをめぐる“2人の男”の愛

 『光る君へ』(NHK総合)第27回「宿縁の命」。まひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)は石山寺で思いがけず再会する。2人は思い出話に花を咲かせた。ある日、藤原宣孝(佐々木蔵之介)が久しぶりにまひろのもとを訪れる。いと(信川清順)から「己を貫くばかりでは、誰とも寄り添えない」と教えられたこともあり、まひろは重要な役目を任されたと上機嫌な宣孝に素直に祝いの言葉を述べ、やりとりののち、2人は復縁した。その後、まひろの懐妊が分かる。

 第27回は、まひろと道長、まひろと宣孝の、それぞれ異なるお互いへの深い愛が感じられる回となった。道長と、そして宣孝と向き合い、思い悩みながらも偽りのない心を打ち明けるまひろの姿に心掴まれる。

 まひろが道長と再会した場面では、吉高のまなざしを通じて、道長との再会でまひろの気持ちが高揚していることが伝わってくる。けれど、久しぶりの再会を果たしたばかりの2人はどこかよそよそしくもある。吉高の佇まいには、想いを募らせながらも少し距離を感じているような寂しげな様子もあった。とはいえ、会話が進むにつれて、2人の顔はほころんでいく。道長から「(都に)戻ってきてよかった」と言われる場面での吉高の表情は見事だった。道長の言葉に心が大きく揺れ動くも、昔とは違う自分たちの関係性を思い、感情を抑え込もうとするような、嬉しさと戸惑いと葛藤が感じられる演技だった。

 一度は別れた2人だが、道長が再び現れる。道長のもとへ駆け出したまひろの面持ちからは、道長のもとへ、という強く抑えきれない感情が表れており、その後、口づけを交わす場面もあいまって胸を打つ。

 しかし、道長との強く求め合う愛は相変わらず苦しいものでもある。肌を重ねた後、「今一度……俺のそばで生きることを考えぬか」という道長の言葉に、まひろはこう返した。

「……お気持ち、うれしゅうございます。でも」

 吉高の静かながら確かな意思を感じる声色に、“幸せで悲しい”まひろの胸中がうかがえる。

 一方で、まひろと宣孝の関係もまた深い愛に満ちたものだった。第26回では、まひろが宣孝に灰を投げつけていたものの、第27回で2人は復縁する。眠る宣孝の近くで、「いつも顎をあげて話す」「お酒を飲んで寝ると、時々息が止まる」と楽しげに書き綴るまひろはやわらかな表情を浮かべている。宣孝に対しては、肩の力の抜けた笑顔を見せるまひろを見ていると、道長に向けるものとはまた違った、親愛の情を宣孝に向けていることが分かる。

 まひろの懐妊に対するやりとりで、まひろと宣孝の絆はより深まる。劇中、はっきりと明言されることはなくとも、宣孝の足が遠のいていた時期に出来た子、ととはつまりそういうことだ。喜びではなく、罪悪感に苛まれるようなまひろの表情は心苦しい。まひろの懐妊を大いに喜んだ宣孝に、まひろは「よく気の回るこの人が、気づいていないはずはない」と心を痛める。まひろは、あえて黙っている宣孝に正直に伝えることも偽ることも罪深いと思い悩むのだが、その姿には十二分に宣孝への愛がうかがえる。だが、宣孝への思いがより強固なものになったのは、まひろの全てを受け入れる宣孝の心の深さに触れた時だ。宣孝の思いがけない言葉にまひろは驚き、戸惑うが、宣孝の言葉の真意に胸を打たれ、涙ぐむ。宣孝の優しい微笑みを受けて、まひろもふっと微笑む様に胸が熱くなった。

 第27回では、まひろへの想いが強く感じられる道長、宣孝の表情も強く印象に残っている。道長の場合は、石山寺で一度別れた後、戻ってきた時の面持ちが心に響く。それまでの会話で道長の口調が、今や左大臣となった道長の冷静な口ぶりとあの頃の道長、三郎らしい口ぶりが行ったり来たりしているように感じられた。そんな柄本の台詞の言い回しを通じて、立場と本当の思いの間で葛藤しているのはまひろだけではないと伝わってくる。だからこそ、戻ってきた時の道長の顔つきは、まひろを想う正直な自分の気持ちだけに満ちていた。愛おしそうにまひろを抱き寄せる優しい手元もまた、まひろへの強い気持ちを表しており、肌を重ねた後にまひろに触れる手などはとても美しく切ないものだ。

 宣孝の場合は、第25回での「好きだからだ、お前のことが」や「どこへ行ってもお前のことを想うておった」など、はっきりとした好意をさらりと言ってのけるところが彼らしい愛情表現だ。まひろが懐妊をきっかけに別れを切り出した時、宣孝は「そなたの産む子は、誰の子でもわしの子だ」ときっぱり言ってのけた。まひろの目をまっすぐに見て、断言する姿に、結婚前も結婚後も、宣孝はまひろの全てを受け入れ愛しているのだということがありありと感じられる。

「わしのお前への思いは、そのようなことで揺るぎはせぬ」

「何が起きようとも、お前を失うよりは良い」

 飾らない言葉で、揺るぎない愛を伝える宣孝に、まひろ同様、心動かされた視聴者は少なくないはずだ。