「強引に感動ものに描かないところに映画としての誠実さを感じる」 枝優花監督、『SCRAPPER/スクラッパー』の魅力を語る

AI要約

映画『SCRAPPER/スクラッパー』がサンダンス映画祭2023審査員大賞を受賞し、枝優花監督やオフィシャルライターSYOが登壇するトークイベント付き上映会が行われた。

物語は母を亡くした12歳の少女と音信不通だった父親とのぎこちない共同生活を描いた感動作で、各映画祭で高い評価を受けている。

主演のジョージー役を務める新人ローラ・キャンベルや共演のハリス・ディキンソンによる演技も評価され、親子の心の交流を丁寧に描いた作品として注目を集めている。

「強引に感動ものに描かないところに映画としての誠実さを感じる」 枝優花監督、『SCRAPPER/スクラッパー』の魅力を語る

 現在公開中の「サンダンス映画祭2023」審査員大賞を受賞した映画『SCRAPPER/スクラッパー』のトークイベント付き上映会が12日に開催され、『少女邂逅』の枝優花監督、本作のオフィシャルライターも務めたSYOが登壇。「強引に感動ものに描かないところに映画としての誠実さを感じる」(枝)、「父と娘2人の物語であり2人が悲しみからどう解き放たれていくかの物語でもあって、いわゆる親子映画の鋳型にははまっていない!」(SYO)と本作の魅力を語った。

 本作は、母を亡くし、一人で生きる12歳の少女のもとに音信不通だった父親が突如現れたことから始まるぎこちなくて愛おしい共同生活を描いた感動作。

 「サンダンス映画祭2023」ワールドシネマドラマ部門にて審査員大賞を受賞、「英国アカデミー賞2024」では『関心領域』『哀れなるものたち』『ナポレオン』と共に英国作品賞にノミネートを果たし、米アカデミー賞の前哨戦の一つであるナショナル・ボード・オブ・レビューではインディペンデント映画トップ10に選出された。

 手掛けたのは、本作が長編デビューとなる1994年生まれの新鋭シャーロット・リーガン。主演のジョージー役に、リーガン監督が白羽の矢を立て抜てきしたローラ・キャンベル。本作でスクリーンデビューを果たし、たくましさと可憐(かれん)さが共存した絶妙な演技で、英国インディペンデント映画賞ほか複数の俳優賞にノミネートされた。さらに、一人娘ジョージーと親子関係を構築しようとする不器用な父親ジェイソンにふんするのはハリス・ディキンソン。

 枝監督は「私は父と娘の話みたいな作品に弱いんですけど、『aftersun/アフターサン』や『花とアリス』のなかの娘とお父さんの話とかが好きで『SCRAPPER/スクラッパー』では、親になりきれてない父と娘が対等に関係を築いていくなかで心の通わせ合いみたいな部分が純粋に面白かったです」と感想を語ると、本作のオフィシャルライターを務めるSYOは、「本国の予告編を見たときに、ざっくりした表現ですが『オシャレだな!』とまず思いました。自分の好きな映像の質感だなと思って、実際に本編を観たら冒頭からイマジネーションが溢れていてこの題材をこう撮るんだという驚きと遊び心を感じられたのが、すごく楽しかったです」と語る。

 さらにSYOは、「自分が親になってから、映画の観方が厳しくなった部分があって、僕は映画って道徳とか倫理とかを描く必要はないと常々思っているんですが、自分が親になると、劇中の親子の描かれ方だったり、時として子役の扱われ方に対しても、自分が理想とする親を実践しようと思っているがゆえに現実的なものとして見てしまい、それをノイズに感じてしまうことがあるんですが、本作に関しては、ノイズをまったく感じなくて、とても楽しい時間だったなと思いました。それは、この作品はグラデーションがとても丁寧で父親になりきれていないところから始まって、一歩ずつ進んでいくという物語の展開と父娘が共通体験をしていく部分での見せ方がとてもよかったのだと思いました。この作品は、親になっていく物語ではあるんですけど、親になっていくという過程をそのレールに乗せていないと感じていて、それは、親になっていく物語とすると主人公は父親になってしまうけど、この作品はそうではなく、父と娘2人の物語であり2人が悲しみからどう解き放たれていくかの物語でもあってというところで、いわゆる親子映画の鋳型にははまっていなかったんだなと思います」と、自身も2人の子育て真っ最中の父親の目線で本作の感想を語った。

 一方の枝も「自分が大人になって“そっか、先生とか親も人間なんだ”みたいに気づくことがあるじゃないですか。私は10年くらい子役の演技レッスンの講師をやっていたんですけど、はじめの頃は、自分も大学生でまだ子どもなのに“先生”という役割を演じていて、子どもたちに対して、『先生だって怒りたくて怒ってるんじゃないんだよ』みたいなことを言うんですよ。それが『あ、これ自分が先生とか親に耳たこのように言われたやつだ』と思ったりして(笑)こっちの心の叫びとしては『マジで今日しんどいから帰りたい!』とか思っていたりで、私自身が全然大人になりきれていなくて、でも先生を演じなきゃいけないみたいなところが大人になって分かってきて、でもそれは、親とか先生だけじゃなくても、みんなが社会的な立場としての振る舞いを演じているところがあると思うのですが、『SCRAPPER/スクラッパー』を観た時に、父親のジェイソンは最初はまったく親の振る舞いじゃなくて、ある意味でとても未熟な人間を描いてくれていて、そこもすごく共鳴できたんですよね」と語った。

 さらに作品の好きなシーンに関して話が及ぶとSYOは、「この映画のすごく好きなシーンがあって、駅に2人がいるときに父親のジェイソンの昔のシーンが一瞬映し出される場面があるんですが、それが本当にとても素敵で、娘は彼を親としてみているけど、当然彼にも子どもの時代があったというのを映像的な表現として見せてくれるというところが、一親として非常にグッときました」と語った。

 同世代の女性監督として、監督の作家性に関して話がふられると枝は(※『SCRAPPER/スクラッパー』の監督シャーロット・リーガンは、枝監督と同じ1994年生まれの英国人女性監督)「この監督は、若いころからたくさんのMVの監督をやられてきた方ですよね。自分も監督をやっているので、その監督が得意としているジャンルだったり闘ってきた分野だったりとかでどのように作家性として出していくかというのは、みんなが持っていると思います。私が、この監督に対して感じたのは、作品において2人が心を通わせていく過程の撮り方の丁寧さがすごく好きで、私はどの作品でも2ショットをどこにもってくるのかをよく見ているんですけど、本作では、最初は娘が心を通わせていないから、父との強引な2ショットというのはまったく撮らない、徐々に2人が心を通わせ合ってきたところで引きの2ショットを使ったり、最後のほうでもフェンス越しにギリギリまで通わせないみたいな見せ方だったときに『あ、いいな』ってすごく思って、MVとかたくさんやられている監督なので、おしゃれな感じでいくらでもデコレートすることができる監督だと思うんですが劇的な音楽や演出でごまかさないで人間の心に対してはデコレーションせずめちゃくちゃ地味にやってくれるところが、この監督の誠実さを感じて私はとても好きでした」と話す。

 最後にSYOが「『SCRAPPER/スクラッパー』みたいな作品がなかなか今の日本の映画館で選ばれない状況でもあると思うのですが、こういった作品を選んで今日来てくださったことが、(映画に携わる)僕や枝監督にとっても希望になるかもしれないと感じています」と締めくくった。

 映画『SCRAPPER/スクラッパー』は公開中。