マン島TTレースとの出会い 公道レースの醍醐味とは? プロカメラマン磯部孝夫の写真館

AI要約

1973年に初めてマン島TTレースを訪れたカメラマンが、公道レースの魅力や観客とレーサーとの近さ、風圧を感じる瞬間などを熱く語る。

公道レースならではの独特の環境やセーフティーゾーンの難しさ、観客やライダーの間に生まれる親近感、レーサーの動作の間近さなどを生々しく描写。

マン島TTレースへの思いを胸に成田空港を飛び立ったカメラマンの胸躍る体験談。

マン島TTレースとの出会い  公道レースの醍醐味とは? プロカメラマン磯部孝夫の写真館

 初めましてカメラマンの磯部孝夫と申します。私がはじめてマン島のTTレース(ツーリストトロフィー)に行ったのが今から41年前、1983年のことです。

 1907年に初めて開催され、現存するバイクのレースでは世界最古となるマン島TTレースは、イギリス本土とアイルランドの間のアイリッシュ海の真ん中に浮かぶ島で開催されています。

 日本の淡路島と同じぐらいの面積を持ち、緯度がカムチャッカ半島と同じぐらい北の位置にあるので、TTレースが開催される6月は夜の10時過ぎまで明るくのんびり過ごせます。

 私がマン島TTレースを訪れたいと思ったきっかけは、1964年から刊行されていた週刊『平凡パンチ』のグラビアに掲載された縦位置の写真(モノクロだったと思います)で、公道レースで山から駆け降りて来るライダーの姿を見て「きれいな所だなあ、行ってみたい、撮ってみたい」と感じたのが始まりでした。それまでは富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット、スポーツランド菅生、デイトナインターナショナルスピードウエイ等では撮影をしていました。

 公道レースは普段はそこに住んでいる人達の生活道路であるので、セーフティーゾーンを設けるのがなかなか難しいです。

 と言うよりセーフティーゾーンは無いに等しいのですが、マンホールはあるし電柱、石の壁もあります。レストランもあるし美味しいビールが飲めるパブ、もちろん普通に住んでいる家もあります。庭先では真っ赤な薔薇の花が咲き白いクレマチスの花のツルが横に伸びています。

 片手にはミルクティー、もう片方にはビスケット、パブのテラス席ではパイントの琥珀色のビールを飲みながらのんびりとライダーが走って来るのを待っています。

 何よりも観客とレーサーとの関係が非常に近く、親近感が湧いてくるとともに迫力があります。顔の表情はスモークシールドなので表情は見て取れないですが、バイクのレーサーの場合、身体の動作の一つ一つが間近で見てとれました。

 コーナーリングではリーンイン、リーンアウト、リーンウイズ、ラインの取り方も一人ひとり違う。石の壁をイン側ギリギリのラインを走りヘルメットが擦れそうなライダー。ストレートの正面では小さく小さくカウルの中に隠れようと必死になっている姿が観客を惹きつけます。

 300kmを超えるスピードで駆け抜けて行く様を近くで見ていると最初に風切り音が聞こえて、その直後にガツンと風圧を感じます。これも公道レースで味わえる魅力的な瞬間の一つ。そして一番良く読み取れるのが後ろ姿。肩の入り具合、腰の左右の動き、体重の移動の動作が手に取って解るのでついついシャッターを多めに切ってしまうのです。

 当時の私は期待と不安の中、成田空港から飛び立ったのでした。