能登半島の倒壊家屋公費解体に立ちはだかる「壁」 所有権利者の同意、がれき処理も課題

AI要約

元日に発生した能登半島地震で、倒壊した家屋などの公費解体が進んでいるが、遅れが生じている背景を明らかにした。

石川県では所有者の同意や手続きの煩雑さが解体作業の進捗に影響しており、解体申請の数が想定を下回っている状況が続いている。

環境省と法務省が倒壊・焼失した家屋の公費解体手続きを円滑化するための通知を行い、自治体判断での解体を可能にする方針を明らかにした。

能登半島の倒壊家屋公費解体に立ちはだかる「壁」 所有権利者の同意、がれき処理も課題

元日に発生した能登半島地震で、倒壊した家屋などの公費解体が徐々に進んでいる。石川県は約2万2千棟の解体を想定し、来年10月末までの作業完了を目指すが、解体に至ったのは現状で1千棟に満たない。地震から1日で5カ月。被災者にとって自宅などの解体は復興の第一歩となるが、所有者の同意や遠方の解体業者手配など何重もの「壁」が立ちはだかる。

■7千棟が未申請、背景に煩雑な手続き

公費解体は、半壊以上の家屋について所有者に代わり自治体が費用を負担して解体、撤去する制度だ。石川県は約8万1千棟の住宅被害があったのに対し、公費解体の対象を約2万2千棟と想定。4~5人の作業グループを500~600班投入して進める。

環境省によると、5月26日時点の県内申請数は1万5614棟。想定に届いていない背景として煩雑な申請手続きが挙げられる。土地や建物の相続手続きをせず、複数の相続人がいる場合、権利者全員から同意書を得る必要があるためだ。

県司法書士会に寄せられた地震関連の電話相談は、4月1日~5月24日に307件。うち277件が公費解体に関する内容という。同会の竹田朋匡広報部長は「数世代前から手続きをしていない場合、全員の同意を得ることは現実的に無理な話だ」と指摘。権利者が約30人▽権利者が移民としてブラジルに渡った-との事例があった。

■倒壊・焼失なら自治体判断で

相続登記の義務化は今年4月に始まったばかりで、所有者の死亡後も名義変更していないケースが目立つ。国は同意書がそろわなければ、申請者が所有権を巡る争いの責任を負う「宣誓書」を提出する方法を示すが、多くの市町が及び腰だ。同県珠洲(すず)市の担当者は「他の権利者が自治体側を訴える可能性を払拭できない」と打ち明ける。

このため環境省と法務省は5月28日、倒壊・焼失した家屋は自治体判断で公費解体できると通知。解体前に法務局側が職権で「滅失」の登記手続きをすれば、権利者全員の同意を集める必要はないとした。環境省の担当者は「公費解体の円滑化、迅速化に向け、運用の考え方を整理した」とする。

同県輪島市の「輪島朝市」の大規模火災で焼失した計264棟については30日に滅失の手続きが完了。伊藤信太郎環境相は31日の記者会見で「復旧復興を実感してもらうには、輪島朝市の公費解体が大事だ」と述べた。