【飛田新地の歩き方2・メイン通りの昼と夜】飛田で湯に浸かり、夕刻の新地の妖しい煌めきに魅了される

AI要約

飛田新地周辺の銭湯や安宿について。銭湯は以前は風呂に入ってから遊び、遊んだ後に再び入る場所だった。安宿は一泊2000円以下から泊まれる。客は外国人旅行者が多く、日本人は週末に増える傾向。

夕方から夜にかけてのメイン通りの様子。美しさを楽しめる黄昏どきの風景や、コスプレをした女の子の姿、団体客の増加など。深夜には閉店する女の子や退勤する様子も描かれる。

メイン通りは客にとって〝祭の場所〟であり、非日常を味わえる場所。17~19時が一番オススメの時間帯で、昼と夜の移り変わる時刻の美しさが楽しめる。

【飛田新地の歩き方2・メイン通りの昼と夜】飛田で湯に浸かり、夕刻の新地の妖しい煌めきに魅了される

4月25日に『FRIDAY GOLD』掲載の「飛田新地の歩き方」の続編。再び新地を訪れた風俗情報誌『俺の旅』シリーズ元編集長の生駒明氏が、最も華やかな「メイン通り」を朝から夜まで定点観測、訪れるべき〝裏名所〟も紹介する後編だ。

前編・「【飛田新地の歩き方2・メイン通りの昼と夜】 裏名所で「西成モーニング」を食し、昼間の新地を楽しむ」はこちら

◆遊びのあとは新地近くの銭湯で湯に浸かろう

飛田新地の周辺には銭湯が多い。その昔、遊客(ゆうかく)は女の子と遊ぶ前に風呂に入り、遊んだ後にも湯に浸かった。女の子に嫌われないために体を洗ってから遊びに行き、遊んだ後は汗を洗い流すために風呂屋に行った。銭湯は、飛田で遊ぶ男たちの情報交換の場でもあった。

私が飛田周辺を歩いて見つけたのは『ふろや さんわ』『萬盛湯』『日之出湯』『和光浴場』の4つ。入浴料金は一律520円。貸タオル、シャンプー、石けんなどは有料だが、20円からと格安だ。

今回入浴したのは、大門通りの西側にある『ふろや さんわ』。夜7時ごろに入店。風呂は〝熱めの湯〟と〝ぬるめの湯〟があるほか、電気風呂、健康風呂(この日は塩風呂だった)、水風呂がある。ドライヤーは有料で3分20円。着替え場も浴室も広々としている。客は地元の高齢者がチラホラいるのみ。飛田の遊客らしき人は見当たらない。下町らしくのんびりとしており、非常に居心地がよい。

風俗遊びの直後に入る風呂は、とても気持ちいい。心身がリセットされて、ラクになれる。風俗嬢と過ごした緊張した時空間からの解放感がより増大し、ホッとするのだ。飛田で遊んだ後に銭湯に入るべし。遊びの爽快感が倍増するうえ、旅の思い出にもなるだろう。

飛田新地のある西成区の裏名所が〝安宿〟だ。JR新今宮駅のすぐ東を南北に走る大通り〝堺筋〟の周辺に、激安のホテルが集まっている。相場は1泊2000円~3000円ほど。これでも十分に安値なのだが、中には850円、980円、1100円なんて宿もある。

今回、私が泊まったのは1泊1800円のビジネスホテル。生まれて初めて1泊2000円以下の宿に泊まったのだが、予想以上に快適であった。清潔な3畳の洋室でテレビとエアコンも付いている。寝るだけなら十分である。コスパがよく長期滞在に最適なことから、客は外国人旅行者が多かった。スペイン語を話す金髪の若い夫婦、メガネをかけたフィリピン男性、太っちょでミニスカートの中国系の若い女性2人組などだ。なお、この界隈には出稼ぎで飛田新地で働く女の子が長期宿泊するホテルもある。

ホテルのスタッフに話を聞くと、平日は日本人と外国人が半分ずつで、週末になると日本人が増えるとか。日本人の客は労働者風のオジサンの姿が目についた。

朝9時ごろ、〝堺筋〟を越えて、釜ヶ崎に入ってみた。道路1本を渡っただけで訪日外国人や日本人観光客の姿がなくなり、地元の労働者らしき中高年男性ばかりとなる。激安のそば店や朝から営業し繁盛している居酒屋、50円から買える缶コーヒーや缶ジュースなどの自動販売機がある。さらに、安すぎるホテルやアパートがあると思えば、何やら行列ができている場所がある。よく見ると、炊き出しの順番待ちのようだ。人の姿はたくさんある。〝活気がある〟と言えばある。

飛田本通商店街の途中の青い壁に〝人は誰でも一度や二度の失敗はあります〟と書かれた貼り紙があった。〝日雇い労働者の街〟を包むムードは、家庭的な雰囲気が皆無でうら寂しいが、どこかホッコリするものがある。〝人生は厳しい、でも時にはいいこともある、なんとかなるさ〟と街が無言でメッセージを送っているようで、不思議な感覚であった。

◆飛田新地・メイン通り夕方~夜

美しい。夕方、かつて魔物に遭遇すると信じられた〝逢魔が時(おうまがとき)〟のメイン通りは、この世のものとは思えない美しさだ。昼と夜の変わり目である黄昏どきの薄暗い空が、この通りの艶やかさを引き上げている。午後6時半過ぎ、時計台の前に立ちメイン通りを真っすぐ見つめる。左右対称に並ぶ建物、光り輝く街灯、料亭の看板と提灯、そして玄関から漏れる妖しい薄ピンク色の光。歩いている男たちが楽しげなのが、通りの輝きを増幅させる。まさに〝現世の楽園〟〝パラダイス・ストリート〟である。

女の子の衣装はコスプレが花盛り。花柄の花魁の衣装。赤縁メガネにOL風セクシースーツ。袖のないバスケットボールのユニホーム。〝LA〟のマークが入った大リーグのロサンゼルス・ドジャースの青いキャップを被った嬢や、ドジャースの青いユニホーム姿の嬢もいる。百花繚乱だ。時折、おばちゃんが路上に出てきて、上がり框(かまち)に座ったばかりの女の子の見栄えを確認している。

「お兄ちゃん、この子、馴染みさんの多い子やねん。めったに来ないねん。今、来たばかり、座ったばかりやで。こっちまで来てえな。この子、ようしゃべりおるねん。飛田の子、しゃべらん子が多いけど、この子は違うねん、上がってってや」

と、料亭のおばちゃんがまくし立てる。〝ようしゃべりおる〟のは、このおばちゃんだ。

次から次へと客が現れ、賑やかである。昼間に比べ団体客が飛躍的に増えた。タクシーで高架下まで乗りつけて、メイン通りに入っていくホストっぽい金髪と茶髪の若者4人組。タクシーで乗りつける団体は他にもいた。〝イカしている〟〝粋だ〟と思った。高架下の休憩所も大賑わい。タバコを吸う若者、スマホをいじる中年男性、仲間と会話する外国人たちなどで、人の姿が絶えない。日本人、中国人、韓国人、欧米の白人、アラブ人など、多国籍なのは昼間と同じ。外国人も若者からシニアまで年齢層は幅広い。単独から3人組まで、人数もいろいろだ。

午後9時半、通りを歩いて料亭の様子をチェックする。白地にピンク柄の浴衣の子と、紺色のカウボーイハットを被った子が、とてもキュートだ。正面向きでなく斜めに構えて座っている子もいた。〝真ん中〟(メイン通りの中心部)に差しかかったとき、ウチワで顔を隠す女の子が2人いたことに驚いた。後で調べて分かったことだが、車が通るときに盗撮防止のためにやるらしい。そういえば、私が通り過ぎる直前に、窓にスモークフィルムを貼ったミニバンが走っていった。女性の通行人など、明らかに〝冷やかし〟だと分かる場合にも、ウチワで顔を隠すことがあるという。

深夜11時50分ごろ、閉店間際の料亭から「今日、〝冷やかし〟ばっかりやん」という女の子の声が聞こえてくる。客はいるが、遊ぶとは限らない。深夜0時5分、退勤の女の子が料亭の勝手口から出てくる。タクシーが店の前まで迎えに来て、女の子2人が一緒に乗っていく。こうしてメイン通りの1日が終わりを迎える。

今回、メイン通りを定点観測して感じたのは、客の男性にとってここは朝から深夜まで〝祭の場所〟ということだ。働いている女の子やおばちゃんにとっては日常の場所でも、遊びに来る男たちにとっては〝非日常〟そのもの。〝夢の世界〟であり、普段の生活の中で溜まっている〝エネルギーを爆発させる場所〟である。飛田のメイン通りは、客にとっては、存在しているだけで価値がある。なぜなら、そこにいる時だけでなく、そこに行くまでの期間に大きな楽しみを与えてくれるからだ。

私の一番オススメの時間帯は17~19時ごろ。昼と夜の移り変わる時刻の〝逢魔が時〟である。ぜひ、東側の時計台のベンチに座って、夕方のメイン通りを眺めてほしい。旧遊廓の風情ある光景にうっとりするはずだ。その後、ゆっくりと通りを歩いてほしい。たくさんの〝妖艶な魔物〟に出会えるだろう。

第1弾「世界中の男を引き寄せる日本一華やかな〝歓楽街〟 徹底ガイド「飛田新地の歩き方」はこちら

取材・文:生駒明

ペンネームはイコマ師匠。風俗情報誌『俺の旅』シリーズの元編集長。徹底した現場取材をモットーとし、全国の歓楽街を完全踏破。フリーの編集記者として、雑誌やサイトの記事、自らのSNSなどで『俺の旅』を継続中。著書に『フーゾクの現代史』『ルポ日本異界地図』(共著)。