魔法の言葉は「S・D・Y」 子どもの「やりたい」を後押しする佐賀の小学校教諭のオモロー授業

AI要約

オモロー授業発表会で披露された教育のヒントを紹介。教員と子どもの関係性や授業の新しい形が明らかに。

佐賀県の小学校教諭、羽白卓馬さんの取り組みや考え方を紹介。子どものやる気を引き出す工夫が光る。

羽白さんの経歴やラグビーの審判経験、キャンプ場スタッフとしての活動など、教員以外の経験を授業に生かす姿勢に焦点を当てる。

魔法の言葉は「S・D・Y」 子どもの「やりたい」を後押しする佐賀の小学校教諭のオモロー授業

 こんな授業があったのか。そこまでできるの?! 来場者が思わずうなる催しが全国各地で開かれている。その名も「オモロー授業発表会」。柔軟に発想し、実践する教育のヒントを、ある登壇者の姿から考えた。

 「教員のねらいに子どもが到達してくる過程がオモローだとすれば、その想定を超えてくるのがスーパーオモロー」

 3月、福岡市であったオモロー授業発表会。保護者や教員など約120人を前に、佐賀県の小学校教諭、羽白卓馬さん(42)は力を込めた。

 担任をするクラスで、ある児童が級友に「米作りの大変さが分かっていない」と言い出したことから、学校の中庭で米作りをした。校庭に落ちるギンナンが「臭い」という不満も学習の材料に。ギンナンを拾い集めて教員や家族に販売し、売り上げで車のタイヤを購入。遊具として校庭に設置した。いずれも羽白さんがかじ取りを担いつつ、子どもの「やりたい」という姿勢を後押しして実現させた。

 「大切なのは、私たち大人が子どもの言動をオモロがること。魔法の言葉は『S・D・Y』。すごい! できるの? やってごらん! と声をかければいい」

 もともとは高校教員志望だった。佐賀県の教員採用試験を受けたが不合格。2005年に小学校の講師として同県唐津市の離島・加唐島で働き始めた。

 校舎も職員室も小中合同で、子どもの数は計50人ほど。そこで中学生の体育も受け持つ。現場主導での小中連携。一人一人の成長も見守りやすく、小学校が大好きになった。

 07年、佐賀県の小学校教員の採用試験に合格し、武雄市の小学校へ。その後に「自分を育ててくれた島の教育に貢献したい」と離島を希望し、唐津市の馬渡島に赴任した。小中の児童生徒は計約70人。中学校に籍を置く形で着任し、小学校の授業も担当した。

 今度は楽しさだけでなく、課題もよく見えた。足の速さは、あの子が1番。数学といえばこの子…。そんな序列が固定化されていた。これをリセットできるのが「遊び」だった。卒業式を終え、時間を持て余す子たちと魚釣りをした。親が漁師で、釣りと魚をさばく技術に長じた子がいた。初めて知る姿と、自分を超える力量に驚いた。壁画の制作や島の散策でも、子どもたちの新たな一面が次々と見えてきた。

 授業にも「遊び」を取り入れることにした。衣食住を取り扱う家庭科の授業で、洗濯物の効率的な乾かし方が話題になった。「全員で水を絞る」「振り回す」。意見に基づき、実験してみることにした。絞った体操服を取り付けた木の棒を持ち、1人2周ずつ運動場を走る。結果は「全然乾かない」。「走っている間に着ている体操服が汗でぬれる」ことも、実際にやってみて子どもたち自身が気付いた。理科や体育にも横断する授業になった。

 豊富な自然や少人数といった環境でなくとも、遊びを取り入れた授業ができるという自信を持てたのは、教員生活が10年を過ぎてから。日々の積み重ねはもちろん、「別の役割」に本気でトライしてきたことが奏功したと実感する。

 選手経験があったラグビーの審判を、佐賀県教育委員会に採用された07年に始めた。審判はジャッジだけでなく、時には反則しそうな選手を制止し、試合の流れを重視して反則を罰しないなど高度な判断が必要。最大で年に60試合を担当し、花園でも笛を吹いた。

 妻が21年に始めたキャンプ場のスタッフもボランティアで担う。ナイフやシート、火打ち石など最低限の道具でキャンプをする「ブッシュクラフト」の知識と技術を身に付け、講習やアウトドアイベント、防災教室の講師を務めている。

 いずれも、分かりやすく説明するという教員の力が生かせる。同時に、新たに培ったコミュニケーション力や技術を授業に生かせる。現在の勤務先の北茂安小(同県みやき町)では、木の棒とシートでテントを立てたり、火おこしをして米を炊いたりする授業もした。

 「教員以外のことも仕事にできるくらい本気でやれば、自分にしかできないオリジナル授業の下地になる」。頭の中で悩むだけではなく、行動し続けた先にこそ自分の成長がある。それが「オモロい学校」につながる。そう確信している。 (編集委員・四宮淳平)

 ◆オモロー授業発表会 2023年4月に大阪市の繁華街・心斎橋であった保護者らの「語り合い」が起点となり、東京、姫路、広島、神戸など全国各地で開かれている。今年5~9月に延べ24都市で、25年には日本武道館で開催予定という。宿題やテストがない学校に密着した映画「夢みる小学校」や関連作品の上映会などの来場者のつながりで拡大。「市民の力で日本の教育を楽しく変える」ことを目指している。