「巌を人間らしく過ごさせて」姉が陳述 検察との主張対立したまま

AI要約

再審公判が結審し、袴田巌さんと姉の秀子さんの闘いは、9月の判決を待つのみになった。

再審公判での焦点は衣類の血痕や事件現場の雨がっぱなどの証拠について検察と弁護団が対立している。

検察は事件当夜の袴田さんの行動や被害者の遺族の苦しみを強調し、極刑を求めている。

「巌を人間らしく過ごさせて」姉が陳述 検察との主張対立したまま

 約7カ月に及んだ再審公判が結審し、58年前から潔白を訴え続けた袴田巌さんと姉の秀子さんの闘いは、9月の判決を待つのみになった。袴田さんの姿がない法廷で、検察は改めて極刑を求めた。

 「58年闘って参りました。私も91歳、巌は88歳。余命幾ばくもない人生と思いますが、弟・巌を人間らしく過ごさせてくださいますよう、お願い申し上げます」

 袴田さんの姉の秀子さんは公判の最後で、証言台に立ってそう意見陳述した。袴田さんが釈放後も拘禁反応によって意思疎通が難しい現状を訴え、傍聴席に向かって一礼した。

 再審公判でも最大の焦点は、袴田さんの逮捕から約1年後に勤務先のみそ工場のタンクから見つかった「5点の衣類」だ。赤みの残る血痕がついており、再審開始を決めた東京高裁は「1年以上みそに漬かれば黒褐色になる」と認定。袴田さんがタンクに隠すことは不可能で、捜査機関による捏造(ねつぞう)の可能性も指摘した。

 検察側は論告で「(警察が)袴田さんの衣類と似た服を用意するのは不可能だ」と主張。「赤みが残ることもありうる」とする専門家の証言を改めて紹介し、「合理的で信用できる」と述べた。

 さらに、みそ工場にあった雨がっぱが事件現場に落ちていた点や、雨がっぱの中に凶器のくり小刀のさやがあった点など複数の事実を指摘。事件当夜にみそ工場の従業員寮に1人でいた袴田さんには、みそ工場から雨がっぱなどを持ち出すことが可能だった、などと述べた。

 弁護団は約2時間半にわたる最終弁論で、全面的に反論した。

 警察は事件後、袴田さんの衣類などの持ち物を自由に扱っており、似た服を用意したり、袴田さんの洋服そのものを捏造に使うことも可能だった、と主張した。

 再審公判で検察が、確定審では有罪の重要な根拠の一つだった袴田さんの自白を証拠請求しなかった点も指摘。「(検察が)これまでの判決や決定で間接事実としてさえ挙げられていないような、さまつな点を重要事実のように主張した」とも批判した。

 その上で、検察に対し「直ちに巌さんに謝罪せねばならない。もう一度、真摯(しんし)にこの事件への取り組みを考えていただきたい」と注文を付けた。

 この日、検察側は論告に先立ち、「4人の尊い命が失われたことを忘れないで。真実を明らかにしてほしい」とする殺害された専務夫妻の孫の意見陳述書を読み上げた。論告ではこれを踏まえ、「被害者や遺族の無念は計り知れないものがある」と指摘。「事件後数十年を経過した今日でも、遺族の苦しみが続いている」として極刑を求めた。(森下裕介)