シングルマザーを支援するホテル 京都の副牧師が開業した理由

AI要約

後宮嗣さんは、シングルマザー支援の社会貢献型ホテル「エクレシア」を運営し、厳しい生活を送るシングルマザーと共同生活を提供している。

彼は日本キリスト教団世光教会の副牧師であり、教会と社会との接点を持つことの重要性を感じてホテル経営に取り組んでいる。

元々は牧師として働くつもりはなかったが、人の最期に関わる経験や社会の現状に疑問を抱き、牧師の道に進む決意をした。

シングルマザーを支援するホテル 京都の副牧師が開業した理由

 ◇後宮嗣さん(35)=京都市

 JR二条駅から徒歩4分。シングルマザーを支援する社会貢献型ホテル「エクレシア」(京都市中京区西ノ京永本町)を運営している。母子家庭が入居するシェアハウスを併設し、宿泊代の5%がシェアハウスを運営する「一般社団法人みをつくし」に寄付される仕組みだ。

 自身は日本キリスト教団世光教会(京都市伏見区)の副牧師である。厳しい生活を送るシングルマザーと接し、シングルマザーとその子どもたちが共同生活するシェアハウスの設立を思い立った。

 ホテルは師匠と仰ぐ先輩牧師の知人の所有で、縁あって2023年11月から運営を任されることになった。23室あり、うち5室はシェアハウスと事務室にした。シェアハウスとホテルは出入り口を別とし、仕切りで厳密に分け、ホテル客と出会うことがないようにしている。

 現在、シェアハウスには2世帯が入居し、近く1世帯が新しい仲間となる予定だ。宿泊代からの寄付金はシングルマザーの就労支援や子どもたちの学習支援、スポーツやキャンプに使われている。

 ホテル名のエクレシアはギリシャ語の「集まり」、「教会」から取った。ホテルの運営会社「グレープヴァイン」を設立し、代表取締役となった。

 なぜ、宗教者がホテル経営をするのか。「教会が世の中から必要とされなくなっているのではないか」。そんな根本的な疑問があったからだという。日本では牧師の高齢化が進み、教会を出て社会との接点を持つ機会が少なくなっているとの危機感を抱く。社会との関わりを持ち、社会に貢献することこそが教会の使命だと語る。

 父も祖父も牧師という「牧師一家」に育ったが、元々は牧師になるつもりはなかった。中学時代から荒れ出し、高校は1年で中退。テレビドラマ「ヤンキー母校に帰る」で有名になった北星学園余市高(北海道余市町)に入り直した。卒業後は明治学院大に進み、1部上場の機械系商社に10年間務めた。

 牧師になる原点は北星余市高時代、ある事情で亡くなった同級生に最期まで寄り添ったことだった。同級生は最後に「ありがとう」と言葉にしてくれた。心の奥底で「ありがとう」と言われる仕事に就きたいと願うようになった。

 「二つの葬儀」も人生を大きく変えた。1部上場企業の役員の葬儀は花輪がたくさん並んだが、参列者は驚くほど少なかった。ある牧師の葬儀には2000人以上の参列者が並び、心から追悼する気持ちが伝わってきた。「この落差は一体何だろう」と思ったことが、牧師を志すきっかけとなった。安定した商社勤務を辞め、牧師になるため同志社大大学院に進むことになった。

 現在、さまざまな社会課題に取り組んでいるが、行政の支援を受けにくく、社会的孤立に陥っているケースが多いシングルマザーの問題が深刻だという。「宗教的な枠組みを超え、少しでも持続可能な社会にするよう貢献したい。そのためにもホテルの経営を安定させることが必要であり、多くの人に利用していただきたいと願っています」と語った。【塩田敏夫】

 ◇後宮嗣(うしろく・つぐ)さん

 北海道千歳市生まれ。同志社大大学院修士課程修了。同志社高非常勤講師をはじめ、キリスト新聞関西支社長、母校の北星学園余市高のコンサルタントなどを務めている。