厳戒「アキバ」遠い演説 候補熱弁も「人気投票じゃないんだから」冷めた聴衆 自民総裁選ルポ

AI要約

自民党総裁選の演説会では厳戒態勢の中、警察官による厳しい手荷物検査が行われた。候補と聴衆の距離が遠く、触れ合いはなく、コンサートのような雰囲気が漂った。

候補は所信表明演説を行い、聴衆からは応援のうちわやタオルで反応があり、一部の候補は華やかな演説を披露した。

しかし、政策や問題点について具体的には触れられず、一部の聴衆からは不満の声も上がっていた。

厳戒「アキバ」遠い演説 候補熱弁も「人気投票じゃないんだから」冷めた聴衆 自民総裁選ルポ

 27日投開票の自民党総裁選で、候補9人は19日、東京・秋葉原で演説会に臨んだ。安倍晋三元首相の銃撃事件などを受け、多数の警察官が目を光らせ、厳しい手荷物検査が実施される「厳戒態勢」。見守った党員や党友らと候補との距離は遠く、握手などの触れ合いはなし。グッズを手に「推し」に声援を送るコンサートのような光景も。過去最多の候補による異例ずくめの演説会を記者が見つめた。

 午後4時ごろ、開始まで1時間もあるのにJR秋葉原駅前には長い列ができた。「飲み物が安全か調べます。一口飲んでみてください」。警備員が聴衆の手荷物検査で声を大にする。警察官はかばんの底まで手を入れ、1人1分以上かけてチェックした。

 柵に囲まれた聴衆と候補が立つ街宣車の距離は数十メートル。聴衆から見る候補は豆粒ほどの小ささだ。過去5回以上、秋葉原を訪れ演説に耳を傾けたアルバイトの男性(38)=甲府市=は「物々しい雰囲気で近寄れないのは寂しい。安全を考えれば仕方ないね」。

 午後5時過ぎ、演説会スタート。人波は増した。加藤勝信元官房長官を筆頭に1人10分ずつマイクを握った。「所得倍増」「増税ゼロの政策推進」。身ぶり手ぶりを交えて訴えている。

 聴衆は候補の名前を書いたうちわやイメージカラーのタオルを振って応えた。その様子を目にした若い女性は「なんか、ディズニーランドみたい」。長年、自民党員の女性(72)=東京都昭島市=は「総裁選はアイドルの人気投票じゃないんだから」とあきれ顔だ。

 終盤、小泉進次郎元環境相が街宣車に上った。短いフレーズで、歯切れの良い言葉を連発。父の純一郎元首相をほうふつとさせる語り口に聴衆が沸く。

 遠巻きに見ていた会社員の男性(72)は「全く政策を語ってないね。これじゃ青年の主張。国をどうするのか、もっと聞きたかった」と不満を漏らした。

 聞き心地の良いフレーズに声をからした候補たち。国民の不信を高めた「政治とカネ」の問題や、最近も報道された世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係にほとんど触れなかった。

 「裏金問題などをどう語り、検証するのかを聞きに来たけど、正面から語る人はいなかったね」。熱心にメモを取っていた別の男性(72)=東京都=は首をかしげ、会場を後にした。 (小川勝也、坂本公司、大坪拓也)