初心者はパニック状態…地元民はラジオ体操並みにそろう“ソウルダンス”、皿踊りに挑戦

AI要約

諫早市最大のイベント「のんのこ諫早まつり」に向けて皿踊りの練習が行われる様子。

諫早っ子が自然に皿踊りの動きを覚え、練習に参加する人々の意気込み。

諫早の民謡「諫早のんのこ節」の起源や意義、皿踊りの歴史と現代の姿。

初心者はパニック状態…地元民はラジオ体操並みにそろう“ソウルダンス”、皿踊りに挑戦

 涼風が立ち始める夕刻、「チャッチャッチャッ」と皿の響きが聞こえてくる。長崎県諫早市では市最大のイベント「のんのこ諫早まつり」(14、15日)を間近に控え、各所で皿踊りの練習に余念がない。両手に2枚ずつ持った小皿を鳴らし、優雅に、軽快に踊る姿はいかにも楽しげだ。諫早っ子の“ソウルダンス”皿踊りに挑戦してみた。 (今井知可子)

 「本日午後6時から、『まつりのんのこ』の練習を行います」。諫早市役所の記者室で原稿を書いていると、庁内放送が流れた。8月に着任したばかりで、諫早のことをまだよく知らない。好奇心から練習会場をのぞいた。

 仕事を終えた市職員や外国語指導助手(ALT)、地域おこし協力隊員らが、続々と集まってくる。備品ケースにぎっしりと詰まった小皿をそれぞれ4枚取り、先輩職員の先導で踊り始める。4人が横並びとなるフォーメーション。左右前後のステップにターン、交差もあって、かなり複雑な動きだ。皿を鳴らすタイミングがバチッと決まると、かっこいい。

 「やってみますか?」と声をかけられ、まずは皿の持ち方から教わる。列の後ろに付いてみたが、足と手と両方の動きを覚えなければならず、かなりパニック状態。その上、手汗で皿が滑る。周囲でも、ときどき皿を取り落とす音がした。

 「小学校でも習うので、諫早っ子はごく自然に皿踊りの動きを覚えます」と市職員の木戸琢磨さん(32)。確かに、ラジオ体操並みに動きがそろっている。今年採用された俵理乃さん(18)は市外出身で、皿踊りを知らなかった。練習に参加するごとに「リズム感が大事。だんだんつかめてきたかな」。橋野美咲さん(18)は「うまい先輩は踊りにメリハリがあって、かっこいい。自分もそうなれるよう頑張りたい」と意欲を見せた。

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 諫早市民に親しまれる民謡「諫早のんのこ節」。有田焼の小皿を持って踊るので、別名が「皿踊り」。「のんのこ」とは「かわいい」を意味する方言だ。

 「芝になりたや 箱根の芝に」という歌詞は、江戸時代の参勤交代に由来する。諫早の一行が箱根の関所を通過するとき、関守が居眠りをしていた。槍(やり)などの道具を傾けて通るしきたりがあったが、関守が声かけをしないので一行は道具を立てたまま通過。目を覚ました関守が無礼をとがめると、「そっちが職務怠慢じゃないか」とたんかを切り、やり込めた。無事に通過できたことを祝宴で歌ったのが始まりとされる。

 別の説もある。干拓労働の現場に「のんのこ節」の元歌になった労働歌があり、働いた後の宴席で小皿を鳴らして踊ったのが始まりとも言われている。

 現代でも諫早っ子は宴席で、すぐ皿踊りを始める。あるホテルでは、結婚披露宴などで客から「皿ないね?」と聞かれるので、皿踊り用の小皿を大量に備えているという。

 「皿のカチカチいう音を聞いたらワクワクする。私は、諫早の『ソウルダンス』だと思っています」と皿踊り歴33年、「諫早まつりのんのこ連」代表の江副恵美子さん(71)は言う。夏の暑さが大の苦手だが、皿の音を聞くと心身がシャキッとするそうだ。

 1957年7月、集中豪雨で市中心部を流れる本明川があふれ、630人の死者・行方不明者を出した諫早大水害。皿踊りのうち、「道行き」という踊りは大水害の3年後、復興祈念祭で踊ったのが始まりだと江副さんが教えてくれた。

 「全国に誇っていい踊りだと私は思います。若い人たちは、諫早を離れても皿の音を聞いたら思い出すような、そんなふうに育ってほしい」

 14、15日、長崎県諫早市の市役所前中央交流広場。14日午後1時半から、幼稚園や保育園、学校、企業などのチームが皿踊りをしながら会場周辺を練り歩く。15日は伝統芸能「浮立(ふりゅう)」や太鼓、ダンスなどのステージを予定。周辺道路は交通規制がある。