なぜ難民を受け入れるのか 「第三国定住」という方法

AI要約

第三国定住は、難民政策の一環として他国への移住を促す取り組みであり、日本もこの方法を取り入れている。

日本の第三国定住枠は年間60人であるが、厳しい条件が課されており、より柔軟な選択基準が求められている。

社会的弱者向けの特別枠も重要であり、その受け入れは人道的観点だけでなく、社会への貢献にもつながる可能性がある。

なぜ難民を受け入れるのか 「第三国定住」という方法

 日本の難民政策に第三国定住という方法があります。「なぜ難民を受け入れるのか」の近著がある、国際基督教大学准教授の橋本直子さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】

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 ◇世界では当たり前

 ――第三国定住とはなんでしょうか。

 ◆第二次大戦直後からあるやり方です。当時、欧州の(避)難民を米国やカナダ、オーストラリアなどが多く受け入れました。難民はまず隣国や近くの国に行くことが多いのですが、そこから、また別の国に受け入れられる場合があります。

 今も多くの国が第三国定住で受け入れています。人口が多く、国内総生産(GDP)が高く、失業率が低い国は、余力があるはずだという考え方があります。

 ――当たり前に行われているのですね。

 ◆日本でも2005年までに、インドシナ難民を1万1319人受け入れましたが、そのうち約3分の1(4372人)は、タイやマレーシア、シンガポールなどを経て来日しました。実質的には第三国定住です。

 日本は10年からミャンマー難民を対象に第三国定住の受け入れを始めました。24年3月末時点で、計305人(122世帯)です。枠は当初は年間30人で、現在は60人ですが、枠を使いきれていません。来日後6カ月を経過したら全員が確実に自活しなければならないという考え方があり、条件が厳しいためです。

 コロナ禍で一時中断しましたが、20年からは対象をアジアに滞在している難民に拡大したので、今後は増えるはずです。

 ◇日本は年間60人枠

 ――年間60人は少なすぎませんか。

 ◆日本の場合、来日後6カ月の研修を経てすぐに全員が就学・就職することを目指す完璧主義です。確かに難民が望んでいることは、普通に働き、子どもが学校に行けて、日本社会に貢献したいということですが、選抜条件はもう少しゆるくできるのではないでしょうか。

 ウクライナからの避難民は1年たたずに2000人以上が受け入れられました。ならば、第三国定住の規模を年間数百人に拡大することは可能なはずです。

 ◇社会的弱者への特別枠

 ――第三国定住はよいことばかりのように思えます。

 ◆受け入れ国が対象を選別できる特長はあります。米国は受け入れる対象国は選びますが、個人の選別はしません。もっとも、事前のセキュリティーチェックはかなり厳しく、到着後に公的な支援がほとんどないことも前提になっています。

 一方、北欧諸国の場合は、手厚い公的支援があることを前提に事前選別をします。しかし、いわゆるエリートだけを選んでいるわけではなく、シングルマザーや障がい者などの社会的弱者を受け入れる特別枠もあります。

 ――なぜ社会的弱者を受け入れるのでしょう。

 ◆人道的な国であることを強調する狙いはあります。また、必ずしもエリートがうまくいくとは限らず、社会的弱者のほうが、結果的に社会に順応しやすいという経験則もあるようです。

 ――日本も、ということでしょうか。

 ◆少なくてもよいので社会的弱者の割当枠もあるとよいと思います。国際的な評価としては絶大な効果があります。現在の「えりすぐり」の60人枠では、国際社会からは形だけのお付き合いと見られかねません。(政治プレミア)