70歳を前に不動産屋になった銀行頭取 過疎が進む故郷で「恩返し」

AI要約

70歳を前に選んだセカンドキャリアは不動産屋業で、郷里の町で活躍する元銀行頭取の物語。

町の人口減少による課題に立ち向かい、地域に貢献する姿勢が評価される。

顧客との信頼関係を築き、空き家の仲介により地域活性化に貢献する矢沢さんの活動が紹介される。

70歳を前に不動産屋になった銀行頭取 過疎が進む故郷で「恩返し」

 従業員約1600人の銀行の元頭取が、70歳を前に選んだセカンドキャリアは人口減が進む町の「不動産屋さん」。郷里のために、汗を流すことにやりがいを感じている。

 浜松市と接する県境にある愛知県東栄町。山あいののどかな町に「奥三河不動産」がある。

 2020年10月、愛知銀行の元頭取、矢沢勝幸さん(73)が人口2728人(8月末現在)の東栄町で開業した。知人が所有する元美容室を使い、妻道代さん(70)と営む。

 矢沢さんは15年6月から4年間、頭取として従業員約1600人の愛知銀行を率いた。東栄町で生まれ育ち、進学のため18歳で上京。大学卒業後、愛知銀行の前身の中央相互銀行に入行し、勤め上げた。

■「役に立てるなら私がやりましょう」

 そんなキャリアを持つ矢沢さんが東栄町にUターンしたのは68歳。退任から2カ月後だった。

 実家で独り暮らしの母親(97)が体調を崩したのがきっかけだ。岩倉市から移り住み、妻と2人で介護した。

 このころ、町が、空き家の売買を仲介できる資格を持つ人を探していると人づてに聞いた。

 過疎化が進み、東栄町の人口は1955年の町発足後、8700人以上減った。移住を促進したくても、町内の不動産屋は廃業し、空き家の仲介が難しくなっていた。

 一方、矢沢さんは不動産取引の資格を行員時代に取得していた。「親が世話になった東栄町ですから、東栄町の役に立てることなら、私がやりましょう」と町で唯一の不動産屋を開いた。

■売りたい事情は人それぞれ

 所有権の移転登記をする司法書士や町職員らの助言を得ながら不動産取引の経験を重ねてきた。

 矢沢さんの仲介で民家を購入したパン店経営の男性(55)は、「大丈夫かい」と購入後も声をかけてくれる人柄と経験に信頼を寄せている。

 「全然知らない土地で、不安な部分を払拭してくれるという意味でとても助かっている。矢沢さんでなかったら、ここに移ってきたかわかんないぐらいです」

 顧客の多くは愛知県内だが、首都圏からの引き合いもある。評判が広がり、直接店を訪ねる客も増えてきたという。

 開業から4年近くで約80件を成約させた。空き家の築年数は40~150年以上で、亡くなった親から相続したり、町外にいる家主が空き家を管理しきれなかったりと、売りたい事情はそれぞれ。

 一方、需要で多いのは、農地付きの中古住宅。定年退職して60代半ばぐらいの人が、自分が食べる分ぐらいは田畑でつくりたいと物件を探すという。

 「東栄町の建物は、柱や梁が太く、しっかりとした材料を使っているものが多い。新たに住んでもらえれば建物も生きる」と矢沢さんは語る。