《池上彰解説》「皇位継承」めぐる立法府総意とりまとめ先送り…天皇制存続を危ぶむ「皇室典範」は今後どうなる?

AI要約

憲法第4条によれば、天皇は国事に関する行為のみを行い、政治に直接関与しない。

天皇がおこなう具体的な国事行為は憲法第7条に定められ、国内外の重要事項に天皇が関与する。

現行の皇室典範では男系による皇位継承が原則だが、将来の問題に備え女系や女子への皇位継承が議論されている。

《池上彰解説》「皇位継承」めぐる立法府総意とりまとめ先送り…天皇制存続を危ぶむ「皇室典範」は今後どうなる?

今年5月から、「安定的な皇位継承」をめぐり衆参両院の議長と各党の代表者らによる協議が行われてきました。先の国会会期中に立法府の総意をまとめたい考えでしたが、閉会後も協議を続けるとし、とりまとめは先送りされました。

天皇の役割について、憲法にどのように記されているのでしょうか。そして、現在、皇位継承の何が問題になっているのか。ジャーナリストの池上彰氏が解説します。

※この記事は、池上彰氏の著作『知らないではすまされない日本国憲法について池上彰先生に聞いてみた』(学研)より一部抜粋・再構成しています。

天皇の役割について、憲法第4条に「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と定められています。

実際の政治にかかわることはできず、国会の召集や衆議院の解散、大臣の任免などの国事をおこないます。それらの国事行為は、すべて内閣の助言と承認のもとでおこなわれており、天皇の役割は、いわば形式上のものです。

それでも、こうしたかたちをとっているのは、国の政治活動の節目節目で天皇が登場することは国民がひとつにまとまるうえで重要な役割を果たしていると考えられているからです。

天皇がおこなう具体的な国事行為については、憲法第7条に定められており、それは以下のとおりです。

①憲法改正・法律・政令・条約の公布

②国会の召集

③衆議院の解散

④総選挙の施行公示

⑤国務大臣およびその他の官吏の任免および大使・公使の信任状認証

⑥大赦(たいしゃ)・特赦(とくしゃ)・減刑・刑の執行の免除および復権の認証

⑦栄典の授与

⑧批准書・外交文書の認証

⑨外国大使・公使の接受

⑩儀式の執行

かなり多岐にわたっていますが、どれも天皇がおこなうことで国事としての重みと厳粛さがそなわります。それができるのは、日本でただひとり、天皇だけです。

天皇制をもつ日本では皇位継承はたいへん重要な問題です。

これについては、憲法第2条が「国会の議決した皇室典範(てんぱん)の定めるところにより、これを継承する」と定めています。

皇室についての規則が定められた皇室典範は、戦前は憲法と同等に位置づけられ、法律ではありませんでした。戦後、ほかの法律と同様に憲法の下に置かれるようになりましたが、名称は旧来のままです。

その皇室典範の第1条に「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定められています。

男系とは父方の血筋ということですが、今上(きんじょう)天皇の娘の愛子内親王(ないしんのう)は、いうまでもなく男系です。しかし、男子ではないので、いまの皇室典範では皇位につくことはできません。

現在の皇室で皇位継承の資格をもつ方というと、皇位継承順に秋篠宮文仁(あきしののみやふみひと)親王、秋篠宮家の長男の悠仁(ひさひと)親王、上皇の弟の常陸宮正仁(ひたちのみやまさひと)親王の3人です。

2005(平成17)年におこなわれた皇位継承問題の有識者会議で、少子化のなかで男系継承を安定的に維持するのは困難であることから、「皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要である」と報告されました。

この翌年、秋篠宮家に悠仁親王が誕生し、日本中に安堵感が広まりました。しかし、将来もし悠仁親王に男子ができなかったら、どうなるのか。現行の皇室典範では天皇制の存続が危ぶまれているのはいまも変わりありません。