福岡県内で唯一“無染土”のイ草を使用する畳職人 「若い人にも畳の良さを」“畳の景色”を守るため魅力発信

AI要約

福岡県内で唯一、特別なイ草を使用して手作業で畳を製造する職人がいる。

手作業で作られた畳は丁寧な作り方により長持ちし、多くの人が注文している。

「無染土」と呼ばれる特別なイ草は泥染めをしておらず、そのまま乾燥することで本来の色と香りを楽しめるが、手間やコストがかかる。

福岡県内で唯一“無染土”のイ草を使用する畳職人 「若い人にも畳の良さを」“畳の景色”を守るため魅力発信

住宅状況の変化などで年々、需要が減少する「畳」。福岡県内で唯一、特別なイ草を使って畳を製造、販売している職人がいる。そのイ草とは…

福岡・田川市で畳の張り替えや販売を行う佐野畳屋の3代目店主の佐野典久さん(44)。「景色なんですよ、畳って。敷かれている景色のなかに、“詫び寂び”や趣があるといわれているんですが、その景色を崩さないような作り方をしないといけない」とその魅力を語る。

機械化が進む畳業界にあって佐野さんのこだわりは手作業だ。機械での作業と比べると倍以上の時間がかかるが「一本一本の糸に意味があるんですけど、どこを締めているかなど、それをしっかりすることで長持ちにも繋がる。作業時間を省略して作って、自分が早く終わるよりも、お客様がいかに長く使えるかだと思っている」と手作業にこだわる理由を話す。佐野さんが手作業で作る畳を求め、注文する人も多い。

高校卒業後は音楽活動をしていたという佐野さん。19年前、25歳のとき、家業の畳の仕事を手伝う中で、「無染土」のイ草との出会いが畳店を継ぐことを決心させたという。

佐野さんが惚れ込んだ「無染土」とはどんなイ草なのか。「これが無染土。泥染めしていないイ草です。こっちが泥染めをしているイ草です」と佐野さんが見せてくれたのは2種類のイ草。無染土と呼ばれるイ草は青々としているが、もう一方のイ草は、どことなくくすんでいる。

イ草は刈り取り後、泥水に浸けコーティングして乾燥機に入れるのが一般的だ。コストや手間もそれほどかからない。泥で染めることで乾燥を促進したりイ草の色落ちを防いだりする。無染土は泥水に浸けていないまま乾燥したイ草。泥を使わずに乾燥器で時間をかけて乾かすことで、イ草本来の色を楽しめるという。香りも無染土の方が強い。

しかし無染土のイ草は、低い温度で長い期間乾燥させる必要があるため一般的なイ草よりも手間やコストが掛かるため生産する農家はほとんどいないのが現状だ。そのため仕入れ値も高くなり福岡県内で使っているのは佐野さんだけとなっている。しかし無染土のイ草は油分を表面にまとうため艶があり、つるつるとした肌触りの上に湿度にも強く、カビが生えづらい。佐野さんにとっては大きな魅力なのだ。