課題を残したまま導入が進むデジタル教科書の現状

AI要約

第9回関西教育ICT展が大阪で開催され、多くの教育関係者が訪れた。来場者数は前年比で増加し、セミナーも盛況だった。

文部科学省の伊藤俊吾氏や大阪教育大学の加賀田哲也氏などがデジタル教科書の現状や活用方法について述べた。

デジタル教科書の活用拡大には教師の経験やネットワークの整備が重要であり、さまざまな課題が浮かび上がった。

課題を残したまま導入が進むデジタル教科書の現状

 「第9回 関西教育ICT展」が2024年7月25日~26日にATCホール(大阪市)で開催された。企業展示とセミナー・ワークショップに多くの教育関係者が訪れた。2日間の来場者は6888人(主催者発表)で、前年から3割近く増えた。

 25日の午前中に行われたセミナー「デジタル教科書が拓く学びの未来」は、デジタル教科書に詳しい放送大学 教授で次世代教育研究開発センター長の中川一史氏がコーディネーターを務め、多くの聴衆が集まった。

 パネリストとして登壇した文部科学省 初等中等教育局教科書課 企画係長の伊藤俊吾氏は、デジタル教科書に関する国の施策と現状について話した。小中学校の教科書は、ほぼ全てがデジタル版も発行されるようになった。学習者用デジタル教科書は、英語が全国の小中学校で100% 算数・数学も約5割まで導入が進んでいるという。

 その一方で、文部科学省が実施した調査では、授業におけるデジタル教科書の利用頻度は低い。これについて伊藤氏は、「活用率が低いのは課題だが、使うことが目的ではない。ただ使うだけでは、デジタル一斉授業になってしまう。授業改善とセットで考える必要があり、活用事例を創出するための事業も進めている」と説明した。

 英語教科書の著者である大阪教育大学多文化教育系 教授の加賀田哲也氏は、「外国語指導では、聞く学習でデジタル教科書が効果的。生徒によって聞く力には差がある。デジタル教科書なら何度でも聞き直せて速度も調整できる。教科書を行ったり来たりするのにデジタルは適している」と話した。デジタル教科書の活用を広げていくには、「メリットを伝えていくことが大事で、授業事例の共有、学力の向上が必要だ」という。

 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 教授の阿部恭幸氏は、学習者用デジタル教科書の課題として、書き込みやすい環境の実現、安定した通信、過去の学年の教科書の自由な閲覧を挙げた。特に算数・数学のように積み上げながら学習していく教科では、過去の教科書を見られることは大事だ。また、中川氏は「デジタル教科書の利用がさほど進んでいないのは、教員の使用経験やネットワークに問題があるのではないか」と指摘した。