教育データの利活用は抑制的に。子供の視点で考えることが大事

AI要約

教育データの利活用に関する有識者会議での議論と個人情報保護に関する課題について石井氏が指摘。

教育データの収集と利用における子供や保護者の理解不足と権利、民間事業者によるデータ管理の問題点。

データの可視化や分析は子供の監視や評価につながり、デジタルデータの永続的保存がプライバシーリスクを高める可能性。

教育データの利活用は抑制的に。子供の視点で考えることが大事

 文部科学省は2024年3月に「教育データの利活用に関する有識者会議」における議論のまとめを発表した。有識者として会議に参加した中央大学 国際情報学部 教授・石井 夏生利氏に、個人情報保護の観点から課題を聞いた。

──教育データの利活用に関して、個人情報保護の観点から問題点を指摘してきました。

 教育データは、学校という逃れ難い閉鎖空間で集められる点が特徴です。特に初等中等教育段階の児童・生徒は、教育データの収集と利用について分かりやすい説明を受けても、その内容をどこまで理解できるかが不明確です。保護者の同意を得ればよいという解釈もありますが、保護者と子供の利益が一致しない場合もあり、同意には必ずしも信頼性があるとは言えません。

  このため、学校や教育委員会には子供のデータをかなり抑制的に取り扱う姿勢が欠かせません。教育データの所有者は児童・生徒たち本人です。データがどのような目的で集められるか、どう使われるかは、本人に決める権利があります。

 しかし、現実には自治体から委託を受けてデータを管理している民間事業者が、時にはデータを自分たちのものとして扱うことがあります。こうした状況では、自治体が監督権限を及ぼすことが難しくなり、データの適切な利用が保障されないリスクが生じます。

──毎日子供たちに心情を入力してもらい問題の早期発見につなげたり、学習ログを分析して授業や教材を改善したりすることは、子供の利益になるはずです。

 データが可視化され、分析されることで、子供のプロファイルが作成され、それが監視や評価につながる恐れがあります。デジタルデータは永続的に保存される可能性があり、これはプライバシー侵害のリスクを高めます。さらに、プロファイリングによって形成されたデータが、将来その子の人生に影響を与える可能性もあります。授業中の生体データ分析も同じです。欧州評議会*の指針では、子供のプロファイリングやバイオメトリクスデータの取り扱いに厳しい制限が設けられています。

* 欧州評議会(Council of Europe)は、人権、民主主義、法の支配の分野で国際社会の基準策定を主導する汎欧州の国際機関(出所: 外務省)

 もちろん、学習分析の結果を子供たち自身にフィードバックしたり、教育ツールの改善に役立てたりするのは良いことだと思います。教育データの利活用を進める際には、何よりも子供の視点を第一に据えることが重要です。