面接場所や対象者への対応、リスク判断…保護司の安全と制度意義のジレンマ

AI要約

保護観察中の男に保護司が殺害された事件が深刻な担い手不足の問題を浮き彫りにした。

保護司の安全対策が急浮上し、面会場所のリスク要因が指摘されている。

高齢化する保護司や保護観察官の増員の必要性など、制度の持続可能性に対する課題が浮き彫りになっている。

面接場所や対象者への対応、リスク判断…保護司の安全と制度意義のジレンマ

大津市で保護観察中の男に保護司が殺害された事件は、担い手不足が深刻化する保護司制度に深い影を落とした。法務省が昨年立ち上げた有識者検討会は持続可能性を軸に見直し議論を進めてきたが、今回の事件で保護司の安全対策も課題として急浮上した。ただリスクを考慮しすぎると制度本来の強みが損なわれる恐れもあり、一筋縄にはいかない。

リスク要因の一つが面会場所だ。総務省が平成31年に全国の保護司4700人を対象に行ったアンケートによると、面接に最も多く利用する場所として7割以上が「自宅」を挙げた。大津の事件で保護司が倒れていたのも自宅だった。

一方、地区保護司会ごとに1カ所ずつ整備されている更生保護サポートセンターは、「家から遠い」といった理由で敬遠され、7割が利用していなかった。

元法務省保護局長の今福章二中央大客員教授は「保護司の自宅という温かみのある環境で膝を突き合わせるうち、対象者も心を許し、本心を話すようになる」となお自宅のメリットを強調しつつも、他の選択肢について「保護司の生活圏にある面会場所が必要だ。公民館など身近な施設を使えるようにするべきだ」と話した。

大津の事件以降、2人以上の保護司で同一の対象者を受け持つ「複数制」の導入も進む。そもそも保護観察の対象人数は年々減少しており、平成20年に保護司の人数と逆転した。令和4年時点では対象者約2万3千人に対し、保護司は約4万7千人だ。

もっとも保護司の年齢は60歳以上が8割近くを占め、高齢化が顕著。この点が制度の持続可能性を考える上で最大の壁となっている。

元保護観察官の中村秀郷西南学院大准教授は、保護司と協働で対象者の指導監督・支援にあたる保護観察官の増員が必要とみる。更生保護の専門知識を持つ保護観察官は全国に千人程度しかいない。「保護観察官が現場に積極的に関わるのが理想だが、膨大な事務作業を担っており、限界がある」という。

中村さんによると、1人の保護観察官が受け持つ対象者は平均して50人ほど。主に処遇方針の決定などを行うが、デスクワークに追われ、保護司とのコミュニケーションが不足してしまうこともある。