「頼りないと言われても権力は健全じゃないといけねぇんだ」 何が岸田首相を派閥解散に駆り立てたか【裏金政治の舞台裏】

AI要約

首相岸田文雄に逆風が吹いている裏金事件で、岸田首相は自民党宏池会(岸田派)を解散し、歴史に幕を閉じる決断を下した。安倍派の要職刷新から岸田政権への批判、自民党総裁選に向けた動向が混迷を呼んでいた。

首相の判断により安倍派から要職を外され、岸田政権の安定を図る一方で、次期総裁選を意識した動きが見られた。総裁選での展望や検察に対する政権像が安倍派内で共有され、状況は複雑になっていった。

安倍政権の遺産の中で首相に負担がかかり、検察の介入に対する不安も台頭。岸田首相は重い立場での決断を迫られる中で、宏池会解散を選択した経緯が浮かび上がっている。

「頼りないと言われても権力は健全じゃないといけねぇんだ」 何が岸田首相を派閥解散に駆り立てたか【裏金政治の舞台裏】

 「裏金事件の責任をとっていない」として岸田文雄首相に逆風が吹いている。ただ、首相にとってのけじめは事件発覚直後に決断した自民党宏池会(岸田派)の解散方針だった。5人の首相を輩出した「名門派閥」は近く67年の歴史に幕を閉じる。誰より派閥に愛着があった岸田首相が宏池会解散をなぜ決断したのか。経過をたどると、最高権力者の矜恃とその代償が浮かんだ。(共同通信裏金問題取材班=村山卓也)

 ▽「岸田政権のせいでこんな目に遭っている」

 東京地検特捜部の捜査がヤマ場を迎えていた昨年末、首相は周囲にぼやいた。「『なんで岸田政権は捜査をつぶしてくれないのか。けしからん』と、そんなことを言ってくるやつもいるんだよ」

 裏金事件は政権を揺るがし、この時期に首相は安倍派の要職一掃に踏み切った。当時の松野博一官房長官、西村康稔経済産業相ら4閣僚が退場し、自民党の萩生田光一政調会長、高木毅国対委員長、世耕弘成参院幹事長らも要職を外された。安倍派の副大臣、政務官の多くも交代させた。

 危機管理としての判断だった。だが、党内からは「安倍派切りで政権基盤を安定させるつもりだ」との声が出てきた。議員や秘書が連日のように事情聴取を受け、やり場のない怒りを生んでいた。役職を外れた安倍派幹部は「岸田政権のせいで、こんな目に遭っているんだ」と水面下で矛先を首相に向けていた。

 ▽一升瓶を片手にした首相の口調が変わった

 反省すべき安倍派がそんなことを言ってくる背景は、翌年9月に控える自民党総裁選だ。約100人を擁する最大派閥の動向が岸田首相の命運を左右すると考えていた。総裁選では国会議員の票が重く、岸田派は第4派閥に過ぎないからだ。事件が本格的に表面化する前から世耕氏は参院本会議で岸田首相について「国民が期待するリーダーの姿を示せていない」と糾弾するなど、けん制を繰り返していた。

 しかも、安倍派内の多くには「総理大臣は検察ににらみを利かせることができる」という政権像が共有されていた。故安倍晋三元首相が2020年に検察幹部の定年延長を決定した際には、野党から「安倍政権に都合のいい幹部を残すことで、検察をコントロールするつもりではないか」と追及を受けることもあった。