「サービス残業は当たり前」と主張するベテラン社員は、内心何を考えているのか?

AI要約

中高年層の中には、過去の成功体験にとらわれ、時代の変化についていけず、周囲に迷惑をかける「老害」が存在する。

このような人々は自分の正解を押し付けることが多く、新しい考え方や価値観に開かれていない。

しかし、若者たちは時代の変化を理解し、将来を見据えた考え方を持っているため、老害との間には溝が生じている。

「サービス残業は当たり前」と主張するベテラン社員は、内心何を考えているのか?

 些細なことでイライラしたり、空気が読めずにトンデモ発言をしたり、武勇伝を何度も繰り返したり。そうした言動で周囲に迷惑を掛ける中高年層は、たとえ過去に仕事で成功していても、若者たちから「老害」だと認定されてしまいます。ですが、もちろん本人たちは悪気があって老害っぽい言動をしているわけではありません。では、なぜ「やらかす」のでしょうか。医学博士・平松類氏の著書『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)から抜粋して、その答えをお届けします。今回のテーマは「価値観の押し付け」について。

● 「丁稚奉公」をあたりまえと考える時代錯誤な「老害」

 Rさんは、2年ほど前に金属加工業を営む小さな会社に就職しました。いわゆる“町工場”です。

 最初はやる気満々で、いきいきと働いていたのですが、最近は「続けていけるかどうか、自信がなくなってきた」と、友人に弱音を吐くようになりました。どうやら、ひとりのベテラン職人に、頭を悩ませているようなのです。

 「Sさんていう70歳近い大先輩なんだけど、典型的な昔かたぎの職人で、むちゃくちゃなことばっかり言ってくるんだよね。『サービス残業なんてあたりまえ』とか、『技術が得られる環境に身を置かせてやっているんだから、逆に金を払ってほしいくらい』とか。いったい、いつの時代の話だよって思わない?」

 この話を聞いた友人は、驚きのあまり唖然(あぜん)としてしまったとのこと。こういう絶滅危惧種のような人が、現実に存在するんだと……。

 Sさんにとっては、コンプライアンスとか、働き方改革とかは、おそらく異世界の概念なのでしょう。Rさんによると、中間世代の先輩たちは同情こそしてくれるものの、年齢的にも立場的にもSさんには逆らえず、助けてくれる様子はないとのこと。それだけ、Sさんの老害ぶり(老害レベルの高さ)が際立っているそうなのです。

● 「自分の成功体験=正解」はまったく通用しない

 絶滅危惧種にはなりつつありますが、それでもまだまだいらっしゃいます。Sさんのような人は。

 

 今の若い人たちが非常識としか思えないようなことを平気で口にしてしまう理由は、おそらく次の3つです。

 (1)自分の価値観をなかなか変えることができない

→頭では時代の変化を理解していても、体がそれについていけてない

 (2)町工場の職人の世界では自分のやり方が正しいと思っている

→コンプライアンスや働き方改革といった概念は、大企業だけに関係のある話としかとらえていない

 (3)本気でRさんのためを思って言っている

→すべて善意からくる行為であり、パワハラ、嫌がらせ、いじめなどという感覚はゼロ

 Sさんのようなタイプは、すべて「よかれ」と思ってやっています。とくに(3)に関しては顕著で、自分はそうやって苦労してきたから、成長できたし、稼げるようにもなったという思いが強く、後輩たちにその感覚を押しつけてしまうのです。

 

 だから悩ましい問題であり、Rさんや中間世代の先輩のように、逆に意見を言ったり、反論をしたりすることができないのです。これでは「仲間の壁」が生まれるのも当然といえます。

● 「手に職をつければ一生食える」はすでに遺物

 町工場の職人さんでなくても、Sさんのように 「若いうちはたとえ無報酬でもがんばって技術を身につけたほうがいい」「若いころから楽をすると、将来苦労する」と考える高齢者は多いです。実際にそれが正解だった時代もあるでしょう。一部の世界では、まだまだ通用するという可能性もあります。

 だから、Sさんのような考えを頭ごなしに否定することはできません。しかし、今の時代にそれを押し通すのは難しいです。仕事に対する価値観が変わったことも当然の理由として挙げられますが、実際問題として、 「手に職をつければ一生食っていける」が通用しなくなった点も見逃せません。

 AIが進化し、便利なロボットが次から次へと作られるようになりました。将来的に、この状況はもっと進んでいくことでしょう。だから、どんなに苦労して技術を身につけたとしても、一瞬にして機械に取って代わられる、ということが起こり得ます。

 手に職をつけても、それが一生ものの価値を持つとは限りません。若い人たちはそのことを理解しています。理解しているからこそ、 「無報酬でも技術を習得」ということは望んでいないですし、誰もが出世、お金、成功といったものを求めているとは限らないのです。

 まずはその現実を知る必要があるでしょう。

 自分の考えは間違っていない。でも、若い世代の人たちの考えも間違っていない。そもそも価値観が違う。

 だから、押しつけ合ってはいけない。相手が厳しく指導してもらうことを望んでいる場合だけ、自分のスタイルを貫けばいい。

 そのように考えてみてはいかがでしょうか。必ずや、「仲間の壁」を取りはらうきっかけになってくれると思います。