海自特定秘ずさん扱い「閉鎖空間」で長年放置 米国との防衛協力に影

AI要約

海上自衛隊で特定秘密のずさんな取り扱いが判明し、海自トップが更迭される事態に発展した。

特定秘に関する問題は海自だけでなく陸自や空自でも露呈し、同盟国との信頼にも影響が出かねない状況だ。

海自は特定秘を扱う隊員の適性評価に問題があり、慢性的な人手不足も背景にあることが明らかになっている。

海自特定秘ずさん扱い「閉鎖空間」で長年放置 米国との防衛協力に影

陸海空自衛隊で特定秘密のずさんな取り扱いが判明した問題は12日、多数の懲戒処分者を出した海自トップが更迭される事態に発展した。特定秘密保護法の制定から約10年たつが、海自では「艦艇という特殊な閉鎖空間」(幹部)の中で問題が長年放置されてきた。情報保全に対する意識の低さは陸、空自などでも露呈しており、同盟国である米国との防衛協力にも影響しかねない。

■人手不足の機密詰まった空間

「組織のトップとしての責任は極めて重い。個人だけでなく、組織の態勢にも大きな要因が存在している」。酒井良海上幕僚長は12日の記者会見で特定秘を巡る問題についてこう述べた。

今年4月、護衛艦「いなづま」で特定秘を扱える「適性評価」を受けていない隊員1人が艦内の戦闘指揮所(CIC)で特定秘に当たる船舶の航跡情報を記録していたことが判明。残る帳簿で裏付けが取れた限り、類似事案は35隻に広がった。

海自は特定秘を直接扱う隊員を適性評価の対象としていた。しかし特定秘密保護法は本来、無資格者を「特定秘を知り得る状態に置いた」だけで「漏洩」と定義する。

特定秘を直接扱わせた事案も3件あった。例えば、護衛艦「せとぎり」では2~3月、経験が浅いため情報の内容を理解できないと判断し、CICで特定秘を含む情報を確認、伝達する任務を無資格隊員に当たらせた。

背景には狭い空間に機密が詰まった艦艇の特殊性があり、そこに慢性的な人員不足も重なる。せとぎりの事案では本来の担当である「電測員」が不足し、通信員を充てていた。問題は法施行後、約10年間にわたり放置されていたとみられる。

■同盟国の信頼失墜懸念

一方、むやみに資格者数を増やすことも望ましいとは言えない。海自の対象者は現在、全隊員4万3千人のうち約3万人。関係者は「自衛隊の中でもかなり多い」と明かす。海自は再発防止策としてCICに入る可能性のある全員を評価対象に含めるとし、追加対象を約2千人と見積もる。合わせれば全隊員の4分の3を占めることになる。

一連の調査では陸自で手続きを経ずに秘密文書52件を廃棄したり、空自で適性評価を受ける必要がないと誤認したりした事例も判明。さらに秘密だとは確認されていないものの、空自で開発中のミサイルとみられる模型画像などの未公開情報が交流サイト(SNS)に投稿された事例も現在調査中だ。

情報保全に関する失態は、そのまま同盟国や同志国からの信頼失墜につながる。特定秘制度自体が脆弱な体制を懸念する米国の要請で導入された経緯があるからだ。木原稔防衛相は12日の会見で「諸外国の信頼を失わないよう信頼回復のため全力を尽くす」と強調したが、防衛の最前線で組織的に徹底されていなかったことは制度の実効性そのものが問われかねない。(市岡豊大)