なぜホークスを常勝軍団に変えられたのか…名監督・工藤公康が自分に課していた「選手への声かけ」ルール

AI要約

工藤公康氏は部下から信頼を得るために自ら積極的にコミュニケーションを取る姿勢が重要だと述べている。

過去の慢心から学んだ工藤氏は、選手の背景を理解することを通じてチーム全体のコミュニケーションを改善しようと努力する。

重要なのは、選手が自由に自分の話をできる環境を作り出し、個々の選手に合ったサポートをすることで、チーム全体のパフォーマンスを向上させることにある。

部下から信頼を得るにはどうすればいいのか。元ソフトバンクホークス監督の工藤公康氏は「選手とのコミュニケーションの取り方をあらためようと思ったとき、待ちの姿勢をやめて自分から声をかけるようにした。ささいな一言でも続けていると相手の調子がわかるようになってくる」という――。

 ※本稿は、工藤公康『プロ野球の監督は中間管理職である』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

■「私の言うとおりにやれば勝てる」と慢心していた

 2016年に喫した、日本ハムファイターズに大逆転を許してのシーズン2位という結果。私はその失敗の原因を「自身のコミュニケーションの拙さ」にあると考えていました。

 2015年、就任1年目からリーグ優勝と日本一を果たしたことで、私は「自分のやり方は間違っていなかったのだ」という大きな自信を得ました。

 しかしその自信は、慢心へとつながることになります。2016年シーズンは、自分の中に少なからず、「私のやり方でやってください。このやり方で、去年も日本一になったじゃないですか。私の言うとおりにやれば勝てるんです」という気持ちがあったのも事実です。

 今から思えば、おごり以外の何物でもありません。自分でも知らず知らずのうちに、選手やコーチ、トレーナーに対して「私の言うとおりにやってくれればそれでいい」という一方通行のコミュニケーションを押し付けるようになっていたのでした。

 その年のシーズンオフ。私は反省し、チーム内でのコミュニケーションのあり方を根本から考え直すことになります。

 ここからは、私がコミュニケーションのあり方をどのように考え直し、実行したかを、具体的にお話ししていきます。

■選手とのコミュニケーションのあり方を改めようともがいた

 まずお話ししておきたいのは、私は決して、「監督と選手は、何が何でもとことん対話すべきだ」とは考えていないということです。

 もしかしたら、「普段はあまり選手とコミュニケーションを交わさず、でもいざというときに的確な声を掛けることで、選手のモチベーションやポテンシャルを引き出す」という監督の形もあるのかもしれません。ただ、2016年当時の私には、「選手とどのようにコミュニケーションをとるのが、勝ち続けるチームをつくり上げるために有効なのか」というノウハウがまったくありませんでした。

 私の中にあったのは、「とにかく今のままではいけない。コミュニケーションのあり方を改めないといけない」という気持ちだけです。ここで記すのは、そんな私が、必死にもがきながらなんとか見出したコミュニケーションです。

 コミュニケーションのあり方を改めるにしても、どう改めるのか。私が思い至ったのは、「まず、選手のことをもっと知らなければ」ということでした。

■相談に来るのを待つのではなく、自分から声を掛ける

 就任してから2年目を終えるまでも(つまり私が「コミュニケーションのあり方を考え直さなければ」と思い知る以前も)、私は選手たちに、「話したいことがあったら、いつでも遠慮なく声を掛けてね」とは伝えていました。「選手たちと密にコミュニケーションをとりたい」という気持ち自体は持っていたのです。

 しかし、進んで私とコミュニケーションをとりにきてくれる選手はごくわずかでした。考えてみれば当然です。こちらがいくら「ウェルカム」の姿勢を示しても、監督は監督。選手にとってみれば上司であり、気を遣う存在です。好き好んで本心を話しにきてくれる選手は、そうそういません。

 「話したいんだったらきていいよ」という「待ち」のコミュニケーションでは、「選手を知る」という目的は果たせないのです。

 また、就任当初の2年間は、私のやり方を押し付けていたこともあり、内心で「なんなんだこの監督は」と思われて避けられていた部分もあったのかもしれません。

 私は、「選手を知るには、監督である自分から、選手に声を掛けて話を聞かなければならないのだ」と考えました。

 私は選手の何を知りたいと思ったのか。それは、選手の「背景」です。

 プロ野球選手としての生き方や、練習への姿勢、試合に懸ける思いには、選手の背景が大きく影響します。

 いつから野球を始めたのか。学生時代はどんなチームでプレーしていたのか。どのようなポジションを守る、どのような打者だったのか。出身地はどこなのか。どのような家族のもとで生まれ育ったのか。どのような性格なのか。奥さまはどのような人で、どのような家庭を築いているのか。日々の生活の中で大切にしていることは何か。今、困っていることは何か。どのような夢を持っているのか。

 このような、選手の「背景」をひとつでも多く知ることができれば、練習や試合の中で、その選手に合う環境を整えることができ、試合でより高いパフォーマンスを発揮してくれるのではないか。私はそう考えたのです。