【社説】保護司制度 安心し活動できる体制に

AI要約

保護司が更生保護に欠かせない存在であることがわかった。しかし、保護司を殺害する事件が発生し、制度の安全性が問われている。

保護司の業務の課題として、対象者との面接場所や関係性の構築が指摘されている。体制の改善が必要である。

保護司のなり手不足と高齢化が深刻であり、制度改革が求められている。保護司の存在が再犯率低下に貢献していることも指摘されている。

【社説】保護司制度 安心し活動できる体制に

 罪を犯した人が地域でしっかり暮らせるように支えるボランティアの保護司は、更生保護に欠かせない存在だ。

 その保護司を20年近く務めてきた大津市の男性が自宅で殺害された。殺人の疑いで逮捕されたのは、男性から更生支援を受けていた保護観察中の男だった。

 事件が起きたとされる日、男性は自宅で男と面接を予定していた。男は容疑を否認しているという。刑事責任能力を調べるため鑑定留置が認められた。

 保護司は「人は変われる」との信念に基づき活動している。事件に衝撃を受けた人も多いだろう。

 善意が踏みにじられ命まで奪われるなら、制度の存在自体が揺らいでしまう。事件の影響は計り知れない。

 法務省は全国50カ所の保護観察所に対し、全保護司からトラブルの有無や不安を聞き取るよう指示した。まずは実態を把握し、保護司が安心して活動できる体制を整えなくてはならない。

 保護司は全国に約4万7千人いる。法相が委嘱する非常勤の国家公務員だが、交通費などの実費を除き給与は支給されない。刑務所や少年院を出た保護観察中の人と月に数回会い、生活相談や就職支援を担う。

 明治時代に静岡県の篤志家が始めた出所者の保護事業が源流で、日本独自の制度という。そうした経緯もあり、国はこれまで保護司の善意に頼り過ぎていたのではないか。保護司を支える体制が十分だとは言えない。

 例えば大津市の事件で、保護司の男性は容疑者の男を1人で担当し、基本的に自宅で面接していた。

 総務省が2019年に保護司に行った調査では、保護観察対象者との主な面接場所について7割以上が自宅と回答した。対象者やその家族との接し方に不安を感じる人は6割近くに上る。

 自宅だと親しい関係を築きやすい半面、外部から関係性が見えにくくなる。公的施設を夜間、休日にも使えるように自治体も協力すべきだ。保護司が複数で対応したり、法務省職員である保護観察官の関与を増やしたりすることも必要だろう。

 時代とともに犯罪とその背景が多様化し、関係づくりが難しくなっているとの指摘がある。1人で抱え込まない相談体制の充実が欠かせない。

 なり手不足と高齢化は深刻だ。この20年間で2千人以上減り、定数を大きく下回る。平均年齢は65歳を超えた。法務省の検討会は3月の中間取りまとめで、年齢制限の撤廃や公募、報酬制の導入などを課題に挙げた。持続可能な制度への改革を求めたい。

 保護司が関わった人の方が再犯率が低いというデータがある。罪を犯した人を孤立させないことが重要だ。今回の事件によって、保護観察中の人への偏見が広がるようなことがあってはならない。