紙おむつ支給対象自治体でばらつき 施設に入所でもらえない例 「住所地特例」の壁も

AI要約

高齢者に紙おむつの給付に関する市町村の条件の違いについて、福岡県那珂川市のケースを取り上げる。

それぞれの市の条件や特例制度によって、給付の対象者が異なるため、公平性への疑問が提起されている。

自治体判断の格差が顕在化した例として、他自治体の事例も比較しつつ、課題の解決方法について考察されている。

紙おむつ支給対象自治体でばらつき 施設に入所でもらえない例 「住所地特例」の壁も

 高齢者に紙おむつを給付する市町村のサービスで、支給対象が自治体ごとに異なり、認知症の80代の母親が受け取れないのは不公平だ-。福岡県那珂川市の女性から本紙「あなたの特命取材班」に疑問の声が寄せられた。那珂川市に住んでいた母親は、福岡市の有料老人ホームに入ったが、給付条件や特例制度が壁となって、いずれの市からも紙おむつをもらえていないという。なぜなのか調べてみた。

 母親は5年ほど前から認知症が悪化、2021年に福岡市の有料老人ホームに入所した。介護スタッフから入浴やおむつ替えをしてもらっている。住民票は移しておらず、今も那珂川市の介護保険の被保険者だ。

 母親は昨年秋から紙おむつを毎日1、2枚使い、月に約4千円かかっている。

 女性は今年、那珂川市に紙おむつの給付(月上限6千円)を申請したが「入所先が市内の施設ではない」との理由で断られた。

 同市の紙おむつ給付は、委託先の事業者が、自宅や有料老人ホームなどに直接配達する仕組み。約120人(3月末時点)が利用している。支給対象は、市内居住▽市の介護保険被保険者▽市民税非課税▽介護認定を受けている-など。母親は「市内居住」に当てはまらないため、対象から外れたとみられる。

 市は、対象を市内居住に限る理由について「利用者が福岡県外など遠方になると、事業者が配達できるエリアから外れてしまう。どこかで線引きせざるを得ない」と説明する。

 厚生労働省によると、紙おむつなどの介護用品の支給は、以前は介護保険法に基づく地域支援事業の「任意事業」だった。

 15年度に原則、任意事業の対象から外れ、一部の市町村は継続した。給付の対象範囲や上限額は各自治体が個別に決めるため、ばらつきが生じているという。

 例えば福岡市では「市内居住」を紙おむつ給付(要介護3~5)の条件としていない。市外の在宅扱いの施設に入所していてもサービスを受けられる。一部の委託業者は、近隣の福岡都市圏の自治体にも配達。さらに遠方は業者が発送し、送料を利用者に請求する規定だ。市によると、約5900人(22年度末時点)が利用。福岡県外はほぼいないとみられる。

 それならば、調査依頼をした女性の母親が、福岡市に住民票を移したらどうなるのだろうか。

 ここで壁になるのが、市外の介護保険施設などに移っても、引き続き元の市町村の被保険者となる「住所地特例」という制度だ。福岡市に住民票を移しても母親は那珂川市の被保険者のまま。福岡市の給付条件からも外れるため、紙おむつをもらえないことになる。

 女性は「福岡市は市外の施設の被保険者も給付の対象なのに、隣の那珂川市では対象外にしている。公平ではない」と訴える。

 他の自治体にも聞いてみた。福岡県久留米市は、市外にいる被保険者も給付対象としており、委託業者が配達する。一方、北九州市や佐賀市は、対象を市内の在宅の人に限っている。

 福祉政策に詳しいニッセイ基礎研究所上席研究員の三原岳さん(51)は、福祉の権限が国から市町村に移り、自治体判断の格差が顕在化したケースだと指摘。「議会や市民団体などを通じて『身近な政府』である市町村に改善を訴え、解決を目指すのも一つの方法だろう」と助言する。

(梅本邦明)

【住所地特例】介護保険では原則、住んでいる市町村の被保険者となるが、他の自治体の介護保険施設などに入所し、住民票をその施設に移した場合、引き続き住所変更前の市町村の被保険者となる制度。介護保険施設が多数ある自治体に、財源の負担が偏らないよう設けられた。